近年、さまざまな業界でDX化が進められていますが、製造業の世界では、デジタルツインという技術が注目を集めています。デジタルツインという概念自体は2000年ごろから存在していたとされていますが、実現するための技術的なハードルが高く、なかなか広く浸透するまでには至っていませんでした。しかし近年、IoTやAIをはじめとしたさまざまな技術の進歩により、デジタルツインは少しずつ活用されはじめています。ここではデジタルツインの基本情報や使われている技術、メリット、事例などを整理します。
デジタルツインとは?
デジタルツインは直訳すると「デジタル空間の双子」という意味になり、現実世界にあるモノや環境をデジタル空間に再現する概念のことです。リアルタイムで得た情報をもとにデジタル空間で再現し、実験を行うことで、将来の予測を立てることが可能になります。
製造業や建設業を中心に採用が進んでいるデジタルツインですが、現在では医療やスマートシティにも活用されはじめています。
デジタルツインとシミュレーションの違い
デジタルツインと混同されやすいのが、シミュレーションです。シミュレーションとは現実に実験を行うことが難しい物事に対して、想定される場面を再現し、分析することを意味します。
デジタルツインは広義におけるシミュレーションのひとつですが、避難訓練や飛行機の操縦シミュレーターなど、現実世界の別の場所で行われる検証や再現・分析などもシミュレーションに分類されるのに対し、デジタルツインは全てがデジタル上で再現されます。
また、シミュレーションは主に将来的に起こりうる特定の事象や問題点の検証といった意味合いが強いため、前提時点で想定されていない事象には対応できない場合もある一方で、デジタルツインは現実世界と連動したデータを用いるため、リアルタイム性が高く、かつより広範囲で一般的な事象に対応しています。
デジタルツインで活用されている技術
デジタルツインの構成要素として、さまざまな技術が活用されています。具体的にどのような技術が使われているのか紹介していきます。
AI
AI(人工知能)は、デジタルツインには欠かせない技術のひとつです。AIはデータを効率的に分析することに優れており、情報処理速度も年々進化しています。
IoT
IoTはInternet of Thingsの略称で、モノのインターネット化を意味します。データを収集する有効な手段のひとつです。デジタルツインでは多くの高精度なデータが求められるため、カメラ、ドローンやセンサーなどを活用し、データを集めるIoTの技術は大切な要素のひとつになります。
5G
デジタルツインを支えるのはネットワークインフラですが、IoTのセンサー数やセンサーひとつあたりのデータ取得頻度が増加するにつれて、通信に必要なデータ量も多くなります。データ量が増えるにしたがって、従来の通信手段よりもデータの送受信スピードが速い5Gのデジタルツインへの活用は今後増えていくことが予想されます。
5Gは日本では2020年に提供が始まったばかりで、まだ使われているところはそこまで多くありません。しかし、ICT分野を専門とする調査会社であるガートナー社によると、全世界の5Gネットワークインフラの売上は2020年に137億ドル、2021年には191億ドルに達するペースで増加しています。5Gは無線ネットワークインフラ市場でも成長分野といえるでしょう。
デジタルツインが注目を集める背景
各国が製造業強化に取り組み
2011年にドイツ政府は、製造業のICT改革をめざすプロジェクト「インダストリー4.0」を公表しました。その後中国やアメリカ、日本でも同じようなプロジェクトが実施され、世界的にものづくりのデジタル化が進められるようになったのです。
情報量および質の増加
AIやIoTの浸透により、より高度で正確な情報伝達が可能になりました。これにより、デジタルツイン技術の精度が上がり、デジタル空間の再現度も向上、信頼性も増しました。
デジタルツインのメリット
品質向上、予防装置としての役割
従来は、実際の製品を現実世界でシミュレーションするには多額のコストがかかってしまうため、試行回数が限られていました。しかし、デジタルツインを活用すれば、デジタル空間でさまざまなシチュエーションに応じた実験できるようになるため、製品の安全性や品質の向上が期待できます。
的確なリソース配分
デジタルツインにより人や資材の配分がアンバランスになっている状態を素早く把握でき、リアルタイムで最適化できるため、作業の効率化にも大きな影響をもたらします。
デジタルツインを活用している企業の紹介
株式会社日立ソリューションズ
2020年7月に日立ソリューションズは「グローバル SCM シミュレーションサービス」を開始しました。これは、IoT機器からリアルタイムで得ることができるさまざまなデータを活用し、サプライチェーンのデジタルツインを構築して製造プロセスを改善するためのシステムです。
従来の製造業は、生産過程の効率化を目的とした製造プロセスの改善には多くの時間が必要でしたが、グローバル SCM シミュレーションサービスの導入により、最も利益の高い販売、生産計画、輸送ルートなどを見つけることができます。
三井海洋開発株式会社
三井海洋開発は、Digital EPCI(Engineering, Procurement, Construction & Installation)およびDigital O&M(Operations & Maintenance)と呼ばれるシステムを開発しています。これは、センサーによって圧縮機やガスタービン、ポンプを流れる気体や液体などのデータを集約してデジタル化を行い、集めたデータをもとに、部品の劣化の異常値を検知したり、劣化時期の予測を行うサービスです。故障を防ぎ、シャットダウンのリスクを最小化するのはもちろんのこと、メンテナンスの時間短縮にもつながります。
まとめ
現在製造業を中心に注目を集めているデジタルツインについて解説しました。デジタルツインは製造業のさらなる進化の第一歩となることを期待されている概念ですが、現在では、製造業や建設業だけでなく、小売業や医療、都市計画、災害課題の解決にも採用が進んでいます。今後のさらなる技術開発に伴って、さまざまな分野でのデジタルツインの活用が期待されます。
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