2022.3.4 (Fri)

ICTで製造業はどのように変わるのか(第3回)

工場のスマートファクトリー化を進める課題とは何か

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 近年、日本では「スマートファクトリー」という言葉が注目を浴びています。現時点ではそれほど多くないものの、さまざまな企業がスマートファクトリー化への道を歩んでいます。なぜ多くの企業はスマートファクトリー化をめざすのでしょうか。今回は、企業のさまざまな問題を解決する手段としてのスマートファクトリーについて解説します。

スマートファクトリーとは?

 スマートファクトリーの概念は、ドイツ政府が提唱する「インダストリー4.0」の構想から誕生しました。インダストリー4.0とは、第4次産業革命という意味をもつ名称です。水力・蒸気による大量生産が始まった第1次産業革命、石油・電力の利用が始まった第2次産業革命、ICT技術が活用されるようになった第3次産業革命。そして第4次産業革命の主眼は、スマートファクトリーを中心としたエコシステムの構築です。たとえばIoT(モノのインターネット)・AI・ビッグデータなどのICT技術を活用し、品質や生産性の向上、作業の自動化・可視化をめざす、といったことが挙げられます。これらはコスト削減や業務プロセスの改善にも効果的です。

 日本では、経済産業省が「スマートファクトリーロードマップ」を2017年5月に発表しています。その中で、「ものづくり企業は20〜30年後の未来に向けて、下記の7つの課題を解決する必要がある」と述べています。

1. 社会のデジタル化・ソフトウェア化に伴う消費の高度化への対応
2. デジタル技術による擦り合わせ・カイゼンのコモディティ化への対応
3. 生産技術・材料技術のイノベーションの取り込み
4. 製造現場のデジタル化・ソフトウェア化への対応
5. 人材の質・量の不足への対応
6. 資源制約・CO2フリーへの対応と成長市場の取り込み
7. リスクマネジメントへの対応

 スマートファクトリー化を進めることは、企業の生産性を高めるだけでなく、社会的にも意義のあることなのです。

スマートファクトリーのメリットと解決できる課題

 スマートファクトリーを導入することで、どのようなメリットがあるか、どのような課題を解決することができるかを紹介します。

製造工程の可視化

 カメラやセンサーを駆使したIoTにより、工場内の人や物の動きを可視化できます。工場全体から各製造ラインまで、さまざまな単位でモニタリングし、必要なデータをリアルタイムでどこでも共有できるようになったのです。また集めたデータを分析することで、従来気づかなかった改善ポイントを見つけ、生産性の向上につなげることも可能です。

人材不足の解消、人材育成

 少子高齢化が進む日本では、年々労働人口が減少していて、正確な技術力と的確な判断力を持つ職人が足りていない実態があります。また、職人が持つ優れた技術の継承が困難であるという課題もあります。IoTを活用してデータを取得できれば、優れた技術をデータとして記録でき、後継者を育成することに役立ちます。これは、人材不足の解消にもつながります。

予防保全、稼働の安定化

 IoTやAI、5GやAR(拡張現実)・VR(仮想現実)などの技術を活用することで、デジタルツインが実現できます。デジタルツインとは現実の世界から収集したさまざまなデータをコンピューター上で同じように再現することを意味する言葉で、スマートファクトリー化における重要な要素です。デジタルツインでは、工場の稼働状況を正確にシミュレーションできます。このシミュレーション機能により、現実世界で起こるであろう機器や製品の不具合・故障を、デジタル空間で探知し、未然に防ぐことが可能になります。トラブルの防止は、製造ラインの安定化を実現します。

企業内の連携スピードを早める

 従来は、工場内でさまざまなデータを取得しても、工場内でしか確認できず、会社全体に素早く共有できませんでした。しかし、スマートファクトリーを導入すれば、工場で取得したデータを会社の他の部門にも共有することが容易に行えます。結果として、企業内で連携をとりやすくなり、生産計画や設備投資、在庫管理などのさまざまな判断が素早くできるようになります。

コストの削減

 スマートファクトリーでは、人員や機器・設備の稼働、モノの運搬などの無駄をなくし、コスト削減することができます。スマートファクトリー化の実現には初期投資が掛かりますが、長期的に見ると生産に関わるさまざまなコストの削減につながります。

新たな付加価値の提供・提供価値の向上

 スマートファクトリーの推進は、顧客一人一人に最適化した製品の提供や、アフターサービスの充実などの付加価値の提供にもつながります。付加価値向上のために以下の4つが掲げられます。

1. 多様なニーズへの対応力の向上
2. 提供可能な加工技術の拡大
3. 新たな製品・サービスの提供
4. 製品の性能・機能向上

 IoTセンサーと通信機能を製品に組み込むことで、たとえば出荷後でも製品のバッテリーの消耗具合や部品の摩擦状況などをリアルタイムに把握できます。これは、アフターサービスを適切なタイミングで行えるようになることにもつながります。組み込まれたIoTセンサーから実際の顧客の使用方法や利用状況を把握することができるので、顧客の情報をもとに、新たな製品の開発にも役立てることができます。

 今後の製造業は、「製品を提供したら終わり」ではなく、提供後のデータを活用してより価値の高い製品や体験を提供することが大事になるでしょう。

スマートファクトリー導入における課題

初期費用が必要

 スマートファクトリーは、これまでの製造業を大きく進化させる可能性を秘めています。しかし、経済産業省が発行している「2020年版ものづくり白書」の調査によると、デジタル技術を活用している企業は49.3%となっています。スマートファクトリー化を推進している企業は、それほど多くないというのが実情です。

 さらに興味深いデータがあります。大企業と中小企業に分けたところ、大企業のスマートファクトリー導入率は60.8%となりました。対して中小企業は、48.5%。中小企業と大企業で約12%の差が出ています。これは、スマートファクトリー化に必要な多額の資金が用意できないことが原因だと思われます。資金の問題はそう簡単に解決できることではないので、製造業のスマートファクトリー化は、企業規模によって二極化が進むことが予想されます。

OTとITの融合

 スマートファクトリーの導入が進まない理由はほかにもあります。工場の中には、大きく分けて制御系のOT(Operateion Technology)と情報系のIT(Informatino Technology)の2つのネットワークがあります。OTとは制御機器などを運用するシステムのことです。安定稼働やシステムの冗長性が求められます。ITとは情報技術です。この2つは、求められる要素が異なるため、統合するのが難しいと考えられています。もしこの2つを融合することができれば、従来は工場の現場担当者しかわからなかったOTのデータを経営層の人間でも素早く理解できるようになります。OTとITが融合できれば、実態に見合った経営判断が可能になるため、企業の成長が見込めると考えられています。

ネットワークセキュリティ問題

 スマートファクトリー化を推し進めることで、生産性を向上し、得られたデータをもとに自社にしかない付加価値を生み出すことが期待できます。

 そのためには情報セキュリティを万全にする必要があります。スマートファクトリーは新しく生まれた概念なので、情報セキュリティという観点が手薄であるケースもあります。2017年には「WannaCry(ワナクライ)」による大規模なサイバー攻撃が行われ、150カ国の23万台以上のコンピューターが被害に遭いました。その結果、多くの工場が一時的に稼働をストップすることになりました。スマートファクトリー化によるインダストリー4.0を実現するためには、周到なセキュリティ対策を講じられるかが鍵になります。

スマートファクトリーの事例

 愛知県にある久野金属工業株式会社は、自動車用および産業用部品の設計・開発や金型製作などを行っている企業です。金型部品は複雑形状化や大型化に対するニーズが強まっていると同時に、高い精度が求められます。精度を上げるために研磨加工が必要となりますが、短納期に対応するには研磨加工の時間も短くする必要がありました。そこで同社は、工作機械をネットワークにつなき、スマートフォンから工作機械の加工状況を監視したり、加工終了時間を知らせる仕組みを構築。さらにモーターの電流値を吸い上げ、加工データや稼働実績と照合することで、最適な加工条件の分析も行えるようにしました。分析結果を次の加工に反映させ、加工条件を最適化することにより、従来15分かかっていた加工時間を8分に短縮することができたのです。

まとめ

 スマートファクトリー化の推進によって、工場に何が起こるのか、企業にどのような進化をもたらすのかなどについて解説してきました。現在、AIやさまざまな電子機器のIoT化などが進化していて、それらの導入は業務の効率化、生産性の向上につながる可能性を秘めています。製造業では、生産機械の稼働や部品加工、品質管理といったさまざまな段階で効率化が期待できるスマートファクトリー化は、コストカットという観点からすると、今後かならず検討しなければならない選択肢といえるのではないでしょうか。

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