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2021.02.09 (Tue)

いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第11回)

【解説】働き方改革実施の目的・背景と国の対策

 働き方改革は、労働人口が減少していく課題に対しての解決策でした。本記事では長時間労働の是正やICT導入などによる業務改善が見込める一方で、業務間コミュニケーションの低下などのデメリットもあるということを説明します。日本政府は働き方改革導入の支援などの対策も実施しているため、今後はより効果を実感できる改革となることが期待されます。

働き方改革の目的

 働き方改革という言葉を知っていても、その内容や目的を知らないという方も多いことでしょう。まずは働き方改革の目的や内容などを解説します。

働き方改革が施工された背景

 働き方改革は第二次安倍晋三内閣が掲げた「アベノミクス」や「一億総活躍社会の実現」などの政策の一環として始まりました。2018年6月に働き方関連法案の改正が可決したことを契機に、2019年4月からさまざまな制度の施行が開始されています。

 アベノミクスとは第二次安倍内閣の経済政策の名称であり、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する」を3本の矢としています。働き方改革は、3本の矢を同時に叶える政策と位置付けられています。

働き方改革の概要

 日本政府は、働き方改革の目的を「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることをめざしています。」としています。

 働き方改革とは簡単に言えば、個々の労働者がそれぞれの事情に合わせた働き方を選択できる社会をめざすためのものです。働き方改革により、多様な働き方が認められることで、今まで働きたくても働けない事情を抱えた人々が、労働に参加しやすくなります。

 日本では少子高齢化による労働人口の減少が問題視されています。働き方改革は多様な人材が労働に参加しやすい環境を整備することで、労働力を確保することを狙いとしています。さらに、労働者にとって働きやすい環境づくりを行い、少ない労働人口でも高い生産性を維持することも狙いの1つです。

働き方改革の対象

 働き方改革の対象は、すべての労働者です。すべての労働者が働きやすい環境を整備することで、労働力と高い労働生産性の確保を目的としています。このことは、前項に掲げた働き方改革の理念のうち「働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること」という一文からもわかります。

 働き方改革の対象はすべての企業であり、例外はありません。ただし制度変革に伴う負担を考慮し、各制度の施行開始時期は企業の規模や一部の業種で異なります

働き方改革のメリット

 働き方改革の理念である「多様な働き方を選択できる社会を実現」「働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにする」の達成によって得られるメリットは主に2つあります。

長時間拘束の是正

 1つ目のメリットは、長時間労働の是正です。多くの企業で長時間労働が蔓延しており、従業員は心身の疲労蓄積によって、かえって労働生産性を低下させています。

 2019年の働き方改革関連法案の改正では、時間外労働に上限規制が設けられました。原則として時間外労働は「月45時間、年360時間以内」に収めなければなりません。特別な事情が発生した場合でも、時間外労働は「年720時間以内」「単月100時間未満」「2~6カ月の時間外労働時間が平均80時間以内」という上限を守る必要があります。

 上限規制に違反した場合、企業には懲役6カ月以下または30万円以下の罰金が科されます。新たに罰則規定が設けられたことにより、企業には強制的に時間外労働の上限規制の遵守が求められるようになりました。労働者の長時間労働が是正されることは、心身のリフレッシュ効果を生み、労働への意欲や効率の上昇につながることが期待されています。

ワークライフバランスの実現

 2つ目のメリットはワークライフバランスの実現です。ワークライフバランスとは、仕事と生活の調和を図る考え方です。働き方改革により、長時間労働の是正やテレワークが普及すると、労働者はこれまで労働にあてていた時間の一部を生活時間に回すことができるようになります。

 たとえばワークライフバランスの追求により、仕事と家事の両立や自己実現が可能です。このようなプライベート時間の充実により、労働者の仕事への意欲と労働生産性の向上を見込むことができます。

働き方改革のデメリット

 働き方改革にはさまざまなメリットがある一方、少なからずデメリットも存在します。働き方改革における課題を解消するためには、まずデメリットについて深く理解する必要があります。

業務間コミュニケーションが取りにくい

 働き方改革の一環として、テレワークの導入が推奨されています。テレワークとはICTを利用して働く方法です。テレワークの導入により、従業員は自宅などでパソコンやスマートフォンを使って、社内で働くときと同じように業務を遂行できます。離れたところにいる従業員同士も、ICTを活用して打ち合わせなどを行うことが可能です。

 ただしテレワークを利用した場合、急ぎの伝達事項があるときでも、相手がタイミングよくメッセージを待っているとは限りません。たとえば相手が席を外していた場合には、すぐに伝達事項を共有することは難しいです。

 このように、テレワークの利用は従業員の働く場所の幅を広げる一方、従業員間の業務連携を難しくするというデメリットがあります。実際に、国土交通省が行った「平成31年度(令和元年度) テレワーク人口実態調査」を見てみると、テレワークのマイナス効果として「上司・同僚・取引先等との連絡・意思疎通に苦労した」という点が明記されています。

利益の低下

 労働時間の短縮は、企業の利益低下や従業員の収入の減少を引き起こす可能性があります。例えば飲食業やサービス業では、営業時間を長くすることで利益を上げている企業もあります。働き方改革により営業時間が短くなると、売上が減少する可能性が高くなります。

 それ以外の業種でも、労働時間が短縮されても業務量が変わるわけではありません。労働時間が短くなることにより、今まで長時間労働によってこなしていた業務が未完になる可能性が高く、従業員1人あたりの仕事の負担はかえって増加する場合もあります。

 今まで残業代を主な収入としていた従業員にとっては、時間外労働の上限規制により収入が減ることは免れ得ません。収入の減少は労働者の仕事への意欲低下にもつながります。このように、長時間労働が是正されることは、企業にも労働者にもさまざまな面で大きな損害をもたらすリスクがあります。

働き方改革の現状

 働き方改革関連法案は2019年4月より一部施行されています。法改正をきっかけに、働き方はどのように変化しているのかを解説します。

働き方改革に対する調査結果

 デロイト・トーマツが2020年に行った「働き方改革の実態調査」の結果を用いて、働き方改革によって企業にはどのような利益がもたらされたのかを解説します。

働き方改革実施の目的と実施内容

 調査を受けた企業は、働き方改革を実施する目的について、「従業員満足度の向上・リテンション」を最も多く上げました。この回答の割合は88%にのぼり、2017年の同社の調査より14ポイント増加しています。

 続いて多かった回答が「多様な人材の維持獲得、D&I促進」で、67%です。さらに「採用競争力強化」「コンプライアンス対応」という回答がそれぞれ50%となりました。

 各企業が実施した内容として、95%が「長時間労働の是正」と回答しています。この数字から、ほぼすべての企業が残業時間の上限規制や有給取得の推進などを行い、労働時間に対して長時間労働の是正を実施していることが分かります。

働き方改革実施の結果

 働き方改革で、実際に効果を実感した項目として最も多く挙げられたのは「コンプライアンス対応」で、割合は80%です。なお、働き方改革の目的として最も多く挙げられた「従業員満足度の向上・リテンション」については、61%に留まりました。

 次いで回答割合が多かった「多様な人材の維持獲得、D&I促進」は54%、「採用競争力強化」は48%という結果になりました。この数字から、企業が目的として挙げたものと、実際の効果にはズレが生じていること、すなわち、働き方改革の実施と効果の実感までには壁があることが調査結果によって判明しました。

働き方改革の課題への国の対処

 働き方改革を成し遂げるためには、多くの課題があります。政府が取り組んでいる課題解決方法について解説します。

ワークライフバランス実現のための対処

 ワークライフバランの実現の有効な手段として、政府はテレワーク普及を強く推進しています。総務省はテレワークの導入について「情報通信技術(ICT)を活用し、時間と場所を有効に活用できる柔軟な働き方である」とし、「子育て・介護と仕事の両立」や「自己実現の追求」、すなわちワークライフバランスの実現に役立つ手段と捉えています。

 テレワークの導入により、これまで働きたくても働けない事情を抱えていた人々が働きやすい環境が整います。たとえば育児や介護のなどの家庭の仕事を抱えた人や、身体障害などにより通勤が困難な人であっても、自宅で稼働時間のみ仕事をすることが可能になります。このようにテレワークは、多様な人材の確保や能力発揮を可能にするものでもあります。

 テレワークの導入を進めるための政府の具体的な施策としては「適切な労務管理下におけるテレワークの普及を図るため、労務管理の留意点などを示した『情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン』の周知など普及促進」を行っています。

 テレワークは労働時間を自由に選択できる一方、実働時間が把握しにくいことや、時間が決まっていないからこそ長時間労働になりやすいというデメリットがあります。総務省が作成したガイドラインは、企業が適切にテレワークの指導を行っていくための指針となります。

長時間労働削減に向けた取組

 長時間労働の弊害として過労死や自殺、精神疾患などが相次いでいます。長時間労働の削減が急務であると判断した厚生労働省は、企業に強い拘束力を持つ「罰則規定付きの長時間労働の是正」を施行しました。

 法改正により長時間労働を是正する風潮は見られたものの、一部の業種や企業では思うように進んでいないというのが現実です。確実に施策を実施するために、厚生労働省は「働き方の見直し」に向けた企業への働きかけや、長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導の徹底を行っています。具体的には経団連への協力要請や、労働基準関係法令違反に係る事案の公表などがあります。

働き方・休み方改善ポータルサイトの開設

 厚生労働省は「働き方・休み方の改善に当たっては、企業の実態を踏まえた上で、経営のトップが見直しなどの判断をしていくこと」を課題と認識しています。課題解決のための施策として、「働き方・休み方改善ポータルサイト」の立ち上げが行われました。

 働き方・休み方改善ポータルサイトでは、企業・従業員向けの自己診断や、各企業の取り組み事案の検索のほか、働き方・休み方に関する資料を閲覧できます。働き方・休み方改善ポータルサイトを用いることで、各企業や従業員は自己診断や実際の企業の取り組みなどを把握し、意識改善を図ることができます。

中小企業・小規模事業者に対する支援

 働き方改革の推進が思うように進まないのは主に中小企業・小規模事業です。実際に厚生労働省も「働き方改革は、我が国の雇用の約7割を占める中小企業・小規模事業者において着実に実施することが必要」という認識を示しています。

 中小企業・小規模事業者における働き方改革の実施を支援するため、政府はさまざまな取り組みを行っています。たとえば各地域での「検討会」の実施による自治体からのヒアリングや、「特設サイト」の開設による実例の公開などがあります。こういった地道な働きかけにより、政府は、中小企業や小規模事業者への意識改善を促しています。

ダイバーシティの推進

 厚生労働省が公開している働き方改革の取り組みとして、ダイバーシティの推進があります。ダイバーシティとは「多様性」を意味し、多様な人材におけるそれぞれの違いを受け入れ、その労働力を企業に成長につなげるという考え方です。なお、働き方改革で進められているダイバーシティには、以下の7つがあります。</p

・病気の治療と仕事の両立
・女性が活躍できる環境整備
・高齢者の就業支援
・子育て・介護等と仕事の両立
・障害者就労の推進
・外国人材の受入れ
・若者が活躍しやすい環境整備

 政府はこれらのダイバーシティ推進を実現するため、ガイドラインの策定や法整備、情報公開などを行っています。

企業による継続的な推進と国の支援が「働き方改革」には必須

 働き方改革は、少子高齢化による労働人口の減少に対応していくための解決策として始まりました。長時間労働の是正やテレワークの導入は、労働者の過重労働を改善する一方で、業務間コミュニケーションの低下や利益・収入の減少などのデメリットも存在します。

 実態調査により、働き方改革を導入した企業の従業員の多くが、企業が目的とする効果と実際の効果のズレを感じていることも判明しました。国はこれらの現状を踏まえ、働き方改革の導入や推進を支援する対策を講じています。これにより、働き方改革の効果は今後、より多くの人に実感されることが期待されます。

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