マイページ別ウィンドウで開きますでご契約・サポート情報を確認

2021.02.05 (Fri)

いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第7回)

働き方改革によって変わる有給義務化と罰則の解説

 2019年4月に施行された働き方改革関連法案の一つ、改正労働基準法によって、有給休暇の取得が義務化されました。日本における有給消化率は先進諸国と比べて低い割合となっており、長時間労働等の一因となっていました。働き方改革によってこれが大きく見直されることになり、雇用者側も従業員の権利である有給休暇をしっかりと守ることが義務付けられます。本記事では有給取得義務化でどのように変わるのか、どのような罰則があるのかを解説します。

そもそも「有給消化」「有休消化」とは?

 まず有給休暇の定義について解説します。あわせて、正社員やアルバイト・パートなどの雇用形態ごとの有給休暇の実態についても解説します。

有給と有休の違い

 有給休暇を指す言葉には「有給」「有休」の2つがあります。使い分けに悩むことも多いですが、「有給」「有休」ともに「有給休暇」を省略した言葉であり、意味に違いはありません。そのため、文面で「有給」「有休」のどちらも使用できます。

 ただし、短縮した言葉である以上、公的な場で使用するのは望ましくありません。上司や仕事先の相手宛てのメールなどでは、「有給休暇」と正式な名称を用いるのがビジネスマナーです。なお、本記事では、有給休暇を短縮する場合は「有給」と表記を統一しています。

有給は労働者の権利

 有給は正式には「年次有給休暇」といいます。年次有給休暇は、労働基準法39条によって認められた労働者の権利です。労働基準法39条では、雇用主は「雇入れの日から6カ月間継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した」従業員に対し、1年ごとに最低10日の有給を付与しなければならないと定められています。

 有給の取得には特別な理由は必要ありません。労基法によってすべての従業員に認められた権利であるため、従業員はいかなる理由でも有給を取得することができます。有給は通常の労働と同じように賃金が発生するため、取得したからといって賃金が減ることはありません。

正社員の有給

 付与される有給の日数は、勤務年数によって異なります。雇用主と契約した労働日数が週5日以上、または契約した労働時間が1週間30時間以上の正社員として働く場合、1年間に付与される有給休暇は、継続勤務年数が0.5年で10日、1.5年で11日、2.5年で12日となり、最長6.5年で20日です。

アルバイト・パートの有給

 有給休暇はすべての従業員に認められた権利であり、当然アルバイトやパートにも付与されます。なお、有給が付与されるのは、前項に掲げた「雇入れの日から6カ月間継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した」という条件を満たした場合です。

 アルバイトやパートの有給の付与日数は、「雇用主と契約した労働日数が週4日以下」で、かつ「契約した労働時間が1週間30時間未満または契約した年間労働日数が216日以下」という条件下で、所定労働日数によって異なります。

 たとえば所定労働日数が週4日で1年間の所定労働日数が169~216日の場合、付与される有給日数は勤続年数が0.5年で7日、1.5年で8日、2.5年で9日と続き、最長6.5年で15日です。所定労働日数が週1日・1年間の所定労働日数が48~72日の場合、勤続年数0.5年で1日、1.5~3.5年で2日、4.5年以上で3日が有給の法定最低付与日数です。

労働者の有給消化を雇用者が止める権利はない

 企業には従業員の有給取得を拒否する権利はありません。しかし、有給取得によって業務に著しい支障が出るなどの特別な理由がある場合には、有給休暇の「時季変更権」を行使できます。時季変更権はあくまで従業員に対して有給取得の時季変更を促すものであり、従業員がほかの日を指定した場合は、その意思を尊重して取得を認めなければなりません。

 従業員は労基法39条によって有給取得が権利として認められています。そのため、有給を取得するのに特別な理由は必要なく、企業に取得理由を説明する必要もありません。ただし、休暇を取るために、周囲に仕事のフォローを求めなければならない場合もありますので、早めに有給取得の申告をしておくのが一般的です。

有給消化の実情

 日本は世界の主要国と比較しても、有給取得率が低いことが指摘されています。実際に2017年のHR総研の平均年次有給取得率の実態調査では、「有給取得率20%以下」が17%、「有給取得率21~40%以下」が21%となっており、有給取得率40%以下が全体の4割を占めることが分かっています。

 なお、「有給取得率41~60%」は最も多い33%、「有給取得率61~80%」は22%、「81%以上」は7%でした。全体的に見ると、多くの人が有給休暇を5~8割程度取得していますが、8割以上取得する割合はわずか1割弱であり、付与された有給をすべて消化しない従業員が多いことが分かります。

有給に対する意識の変化

 日本における有給取得率の低さの背景には、高度経済成長期やバブル期の名残があります。高度経済成長期にはいわゆる「モーレツ社員」の活躍により、朝から晩まで企業のために働くことが美徳とされ、有給を取ることは「悪」と見なす風潮がありました。

 この風潮はバブル崩壊以降も残り、従業員側は有給を申告しづらく、実際に有給取得率も伸びませんでした。変化が訪れたのは2019年で、働き方改革関連法案の法改正により「有給取得の義務化」が行われました。

 この制度変革は世間におおむね好意的に受け入れられたものの、その理由は働き方改革の理念に賛同したものではなく、「有給申請の遠慮や気まずさが解消できるから」というのが実情です。

 このように、有給取得を「悪」と見なす風潮はいまだに根強く残っています。2019年にスタートした働き方改革はまさに、こういった「労働を休む」ことを「悪」と見なす風潮を一掃することも目的としています。

働き方改革で有給はどう変わる?

 2019年にスタートした働き方改革関連法案の改正では、有給取得の義務化が行われました。有給取得の義務化の内容や、それによって期待される変化について解説します。

働き方改革以前の有給

 前項で説明したように、働き方改革以前は有給取得を「悪」と見なす風潮が強く、従業員は思うように有給を取得できませんでした。有給を取得したとしても後ろめたさを感じる人が多かったのも事実です。

 実際に有給が旅行やバカンスなどの心身のリフレッシュにあてられることは少なく、病欠などのやむを得ない事情で取得されることがほとんどでした。働き方改革以降も、従来の強迫観念から有給取得に踏み切れないケースは多々あります。

 しかし、有給休暇は労働基準法39条によって全従業員に認められた正当な権利です。働き方改革では、従業員の心身の健康を守るとともに、個々がそれぞれの事情に合わせて働けることを目的として、多様な労働形態の創出や長時間労働の是正が推進されています。

働き方改革で有給取得は義務化される

 働き方改革の一環として2019年4月に労働基準法が改正されたことにより、労働者は1年に一定日数の有給を取得することが義務付けられました。有給取得義務の対象者は正社員だけでなく、アルバイト・パートを含むすべての労働者です。ただし、1年に10日以上の年次有給休暇が付与される労働者のみが対象となります。なお、有給取得義務に違反した場合には、企業に罰則が科されます。

有給取得義務の詳細・日数

 正社員の場合、年次有給休暇が10日付与される従業員を対象に、1年に5日間の有給取得が義務付けられています。なお、年次有給休暇が付与される従業員の条件は「継続して6カ月以上雇われていること」「全労働日の8割以上出勤していること」の2点です。

 有給休暇の取得が5日に満たなかった場合、労働基準法違反として企業には最大で30万円以下の罰金が科されます。年次有給休暇付与の対象者に有給を付与しなかった場合には、同じく企業に懲役6カ月以下または30万円以下の罰金が科されます。

有給取得義務の詳細・時季指定

 2019年の労働基準法改正により、従業員には年に5日間の有給取得が義務付けられた一方、企業には、従業員に有給を時季指定する義務が課せられました。内容は、10日間の年次有給休暇が付与される従業員の有給取得が年5日に届かない場合、雇用者が時季指定を行って有給を取得させるものです。

 なお、従業員側から年に5日以上の有給申請があった場合、企業には時季指定義務は発生しません。時季指定を行う場合は、従業員から希望日の聞き取りを行うなどし、できる限り意思を尊重して時季指定を行う必要があります。

アルバイト・パートの有給

 アルバイト・パートのうち、1年に10日以上の年次有給休暇が付与される従業員も、有給取得義務の対象となります。アルバイト・パートの場合、1年に10日以上の年次有給休暇が付与されるのは、「週所定労働日数が4日以上かつ勤続3.5カ月以上」あるいは「週所定労働日数が3日以上かつ勤続5.5カ月以上」の従業員のみです。

 アルバイト・パートも正社員と同じく、10日間の年次有給休暇のうち、5日間の取得が義務付けられています。労働者側から申告がない場合、企業は年に5日間の時季指定を行う義務があります。なお、取得義務に違反した場合、企業には最大で30万円以下の罰金が科されます。年次有給休暇の付与を行った場合、罰則は懲役6カ月以下または30万円以下の罰金です。

有給義務化はいつから?

 働き方改革関連法案の改正は2019年よりスタートしていますが、各制度の施行開始時期は企業の規模などによって異なります。働き方改革関連法改正における各制度の施行開始時期と、有給取得の義務化の施行時期について解説します。

働き方改革の施行時期

 働き方改革関連法案の改正は多岐に渡り、有給取得の義務化を含めて大きく8つの制度が変更になります。「フレックスタイム制度の拡充」「勤務間インターバル制度の導入」「高度プロフェッショナル制度の創設」「産業医・産業保健機能の強化」については2019年4月より、全企業で一律施行が開始されています。

 「残業時間の上限規制」については、大企業で2019年4月よりスタートしているのに対し、中小企業での適用開始は2020年4月からです。「同一労働同一賃金」は大企業で2020年4月、中小企業では2021年4月より施行が開始されます。

 なお、「月60時間超の残業に対する割増賃金率の引き上げ」については大企業は2010年施行済みのため、働き方改革関連法案の改正では中小企業のみ適用となります。施行開始時期は2023年4月です。このように、働き方改革関連法案の改正は、制度や企業の規模によってズレがあります。

有給義務化の施行時期

 有給取得の義務化は、2019年の働き方改革関連法案の改正のうち、労働基準法の改正に基づいて行われます。なお、施行開始は全企業で一律2019年4月からです。監督は厚生労働省のほか、都道府県労働局、労働基準監督署によって行われます。

有給取得義務を怠ったらどうなる?

 有給取得の義務化に伴い、違反した場合には罰則が設けられました。違反しないために雇用者が気を付けるべきことと、罰則の内容について解説します。

雇用者側が意識すべきこと

 雇用者は、従業員に最低年5日間の年次有給休暇を取得させる義務があります。それに伴い、各従業員の有給取得の有無を正確に把握する必要があります。各従業員の有給取得状況を把握するため、雇用者は「年次有給休暇取得管理簿」の作成が義務付けられました。「年次有給休暇取得管理簿」は3年間の保存義務もあります。

 雇用者は常に「年次有給休暇取得管理簿」で有給取得状況を確認し、必要があれば時季指定を行って、確実に有給を取得させなければなりません。従業員に有給を取得させることは、心身のリフレッシュ効果やワークライフバランスの実現につながり、仕事への労働意欲の向上という形で企業に還元されます。

 意欲向上は企業全体の労働生産性を高めるのに役立ちます。有給取得率は、従業員にとって働きやすい企業のバロメーターでもあります。有給取得が進めば企業イメージの向上につながり、魅力的な企業として、外部から優秀な人材を集めやすくなるというメリットもあります。

有給取得義務を怠った場合の罰則

 雇用者が従業員の有給取得を達成できなかった場合、労働基準法違反として30万円の罰金が科されます。なお、罰金は違反した従業員1人あたり1罪と見なされます。つまり、有給取得義務に違反した従業員数が30人の場合は、30人×30万円の罰金の支払いが必要です。違反人数が多いほど罰金の総額は莫大になるため、注意が必要です。

働き方改革で変わった「有給に対する文化」をしっかりと理解すべし

 働き方改革関連法案の改正では、多くの制度に罰則が設けられ、企業にとって大きな負担があることは否めません。しかし、有給の取得義務をはじめ、働き方改革における各制度の変革は、従業員の生活・労働の質を高めることを目的としています。従業員の生活や労働の質の向上は、ひいては労働意欲の向上や、労働生産性の向上に繋がります。

 従業員にとって働きやすい環境づくりは、多様な働き方を認め、多様な人材を労働力として確保することを可能にします。デメリットばかりに目を向けるのではなく、メリットも理解し、企業と従業員の双方が協力していくことが、働き方改革の成功の鍵を握っています。

連載記事一覧

メルマガ登録


NTT EAST DX SOLUTION


ミライeまち.com


「ビジネスの最適解」をお届けします 無料ダウンロード資料


イベント・セミナー情報

ページトップへ

ページ上部へ戻る