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2021.02.05 (Fri)

いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第4回)

働き方改革がどのような経緯で成立したかを解説

 働き方改革は昨日今日出てきたものではありません。そこに至るには、長い経緯や過去の体験があり、その結果導き出されたものなのです。働き方改革が成立した歴史や背景を辿るとともに、働き方改革で何がどう変わるのかを解説します。

働き方改革に至るまでの歴史とは?

 2019年4月より施行された働き方改革関連法案により、働き方が従来より大きく変わりました。働き方改革は日本政府の思いつきで始まったものではなく、施行に至るまでには長い経緯があります。以下では、働き方改革に至るまでの経緯について解説していきます。

働き方改革に至った経緯

 働き方改革がめざすのは、「一億総活躍社会」です。一億総活躍社会とは、簡単に言えば、50年後も人口1億人を維持し、家庭・職場・地域などあらゆる場面で、誰もが活躍する社会のことです。そのためには個々の事情に合わせた多様な働き方ができる環境を整備する必要があります。

 働き方改革による一億総活躍社会が謳われるようになった背景には、少子高齢化による総人口・労働人口の減少があります。とくに労働の主力となる15~64歳の生産人口の減少ペースは著しいものがあります。

 現在の人口減少・増加率に変化が見られない場合、2050年の総人口は9000万人となり、生産年齢人口は5000万人前後になると考えられています。こうなった場合、国全体の生産力と国力の低下は避けられません。危機的な状況を打破するために、日本政府が働き方改革による一億総活躍社会の実現に乗り出しました。

働き方改革が狙うもの

 働き方改革が狙うのは「労働力不足の解消」です。労働力不足の背景には、人口増加率の少なさや、女性や高齢者などが働きにくい環境があります。労働力不足を解消するには、以下の3つの対策を行う必要があります。

・出生率を上げる
・女性や高齢者などの働き手を増やす
・労働生産性を上げる

 子育て世代の女性や高齢者を働き手に加えるためには、それぞれが働きやすい環境づくりが必要です。たとえば育児休暇の取得率の上昇や、短時間労働の創出があります。

「労働者生産性」とは「労働者1人あたりが生み出す成果」です。現在は深刻な人手不足により、多くの業種で長時間労働などの過重労働が発生しています。労働生産性を上げるには、労働者1人ひとりが効率良く、質の高い労働を行う環境整備が必須です。たとえば長時間労働の是正による充分な休息時間の確保や、労働に見合った賃金制度の見直しがあります。

働き方改革こそが、労働生産性を改善する

 労働生産性の向上は、働き方改革の3本柱の中でもとくに重要です。労働生産性を上げるためには、労働環境の適正化が求められます。労働環境の適正化において、特にフォーカスされているのは「長時間労働の是正」です。

 長時間労働は過労死や精神疾患につながり、結果的に労働人口を減少させます。長時間労働を是正することで充分な睡眠時間や生活時間の確保が可能となり、仕事と生活が調和する「ワーク・ライフ・バランス」を実現することができます。

 さらに長時間労働は、定着率を下げる要因でもあります。長時間労働が是正されれば、定着率=労働参加率の向上が期待できます。労働人口が減少している現在、多様な人材の労働参加率の向上は必須です。

 労働参加率を上げるためには、個々がそれぞれの事情に合った働き方を選択できる環境も必要です。働き方改革の狙いはまさにそこにあり、多様な働き方を創出・容認することで労働参加率を上げ、充分な労働人口の確保をめざしています。

働き方改革前後の変化とは?

 働き方改革関連法案は2019年4月より施行されました。働き方改革関連法案が施行される前と施行後に見られた変化について、解説していきます。

働き方改革前の経緯

 働き方改革が始まった背景の1つに、日本の労働生産性の低さがあります。働き方改革以前では、主要先進7カ国の中で、日本の労働生産性は最下位でした。加えて、OECD加盟国36カ国中で比較しても、日本の労働生産性は20位前後と低い水準が続いています。

バブル期は“当たり前”だった長時間労働

 日本の労働生産性を下げている要因の1つが、長時間労働の蔓延です。その要因はバブル期にあると考えられています。1986年に始まったバブル期により、ほとんどすべての業種に好景気が訪れ、労働者の賃金が上昇しました。

 そのため、労働者は朝から晩まで企業のために働くことを嫌がりませんでした。その傾向は次第に、公私の区別なく企業に尽くすことが美徳という風潮につながっていきます。実際に、栄養ドリンク剤のCMで用いられた「24時間戦えますか」というフレーズが流行語大賞を獲得したほどです。

長時間労働奨励の果てにあったもの

 バブル期の日本では、従業員はむしろ喜んで過重労働をこなしましたが、この時代から「過労死」という言葉が耳にされるようになりました。さらなる追い打ちをかけたのが1991年のバブル崩壊です。

 多くの企業は突然苦しい状況に置かれることとなり、リストラや新規雇用の抑制といった人員削減対策が次々取られました。結果、労働者達は少ない人数で仕事をこなさなければならなくなり、1人あたりの仕事量や労働時間が激増します。

 バブル期以上の過重労働は、過労死の増加につながりました。過労死の問題は1991年、とある大手企業で若手社員が過重労働を苦に自殺を図った事件で表面化しました。遺族が起こした損害賠償裁判は、遺族側が勝訴。この結果は、過重労働による自殺や精神疾患が労災と認められにくい当時において、画期的な価値観の変化をもたらしました。

働き方の変化に対して手をこまねいているわけではなかった

 1991年の事件を受け、日本政府は翌年に「時短促進法」を制定します。時短促進法では、事業者に労働時間の短縮を計画的に進めるために必要な措置が求められました。しかし当時の時短促進法には罰則規定がなかったため、効果はあまり見られませんでした。

 そこで日本政府は時短促進法をに改正し、2006年から施行しました。この法律では、多様な働き方に対応したものに改善するための自主的な取り組みが、事業者に求められました。現在の働き方改革のキーワードである「多様な働き方」という概念は、この段階で誕生しました。

働き方改革に至るこれまでの年表

 1985年後半にはバブル期が到来し、日本は好景気に沸く一方で、「過労死」という言葉が国内外で耳にされるようになりました。1991年にバブルが崩壊すると大幅な人員削減が始まり、従業員は過重労働を余儀なくされます。そんな中、大手企業の若手社員の自殺が労災と認められたことを契機に、過重労働が重大な問題であることが認知されはじめました

 その後、前述の通り1992年には「時短推進法」が制定されました。そして、20006年に「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」へ改正され、労働時間の是正だけではなく、多様な働き方が注目されるようになりました。

 2013年には過労死は世界的な問題になり、国連が長時間労働や過労死の是正を求めます。翌年2014年、日本では「過労死等防止対策推進法」が制定される一方で、「ブラック企業」が新語流行語大賞にノミネートされるなど、労働環境の改善の困難さが浮き彫りになりました。

 2015年には、大手企業の若手女性社員の自殺が過労死と認定されます。翌年2016年には「女性活躍推進法」の制定と「一億総活躍社会」の提言が行われました。しかし2017年には再び女性社員の過労死が発生し、労基署によって労災と認定されます。同年、一億総活躍社会の実現に向け「人生100年構想会議」「働き方改革実行計画」が策定。

 2019年の日本の時間あたり労働生産性は47.9ドルで、これはOECD37カ国の平均である59.3ドルより低い値となっています。加えてG7の中でも1970年から最低の値をとっており、日本の労働生産性が高い水準にないということが分かります

働き方改革は2020年4月以降、どう変わる?

 2020年4月には中小企業を対象にした働き方改革関連法案が施行。一部には猶予期間や適用除外があるものの、おおむね全ての業種で働き方改革が始動しています。このことにより生まれる変化について見ていきましょう。

働き方改革関連法の成立

 働き方改革に至るまでの歴史は、前述の通りです。日本の労働生産性が主要先進国7カ国で最下位になった2018年の6月には、働き方改革関連法案が成立しました。さらに、労働に関する8つの法律について改正が行われました。対象となった法律は以下の通りです。

・労働基準法
・じん肺法
・労働施策総合推進法
・労働安全衛生法
・労働者派遣法
・労働時間等設定改善法
・パートタイム・有期雇用労働法
・労働契約法

企業規模によって施行時期が異なる働き方改革関連法案

 働き方改革関連法案の施行開始時期は、大企業と中小企業で異なります。たとえば「罰則規定付きの時間外労働時間上限規制」や「割増賃金率の引き上げ」は、大企業ではすでに2019年4月からスタートしています。一方、中小企業の残業時間の上限規制は2020年4月から、割増賃金率の引き上げは2023年4月からとなっています。

 正規雇用者と非正規雇用者の待遇の差の解消を図る「同一労働同一賃金」の原則の適用は、大企業で2020年4月よりスタート。中小企業では2021年の4月から開始となります。その他、勤務間インターバル制度」や「5日間の有給休暇取得の義務化については2019年4月より全ての企業で施行されています。

大企業と中小企業の定義

 働き方改革を適切に進めるためにも、自分の企業が大・中小企業のどちらに当たるのかは確実に把握しておかなければなりません。以下に、中小企業にあたる条件の表をまとめました。

業種 資本金の額
または出資金の総額
または常時使用する労働者数
小売業 5000万円以下 または50人以下
サービス業 5000万円以下 または100人以下
卸売業 1億円以下 または100人以下
その他 3億円以下 または300人以下

 中小企業であるかどうかは、出資金または常時使用する労働者数のどちらかで判断します。以上の表に該当しない場合は、大企業という位置づけになります。

働き方改革によって変わる点とは?

 働き方改革関連法案では、働き方に関するさまざまな変更が行われました。働き方改革で変更になった点について、主だったものを見ていきます。

働き方改革によって働き方は大幅に変わる

 働き方改革による主な変更点は5つです。すなわち「残業時間の上限」「残業割り増し賃金のアップ」「有給の取得と時季指定」「勤務間インターバル制度」「非正規雇用者への待遇改善」です。それぞれの内容を見ていきましょう。

働き方改革によって変わる「残業時間の上限」

 働き方改革によって、時間外労働時間に上限規制が設けられたほか、上限規制を超えた場合の罰則が規定されました。以下の表に、改正前後での変更点をまとめました。

  改正前 改正後
上限時間 ・月45時間
・年360時間
・月45時間
・年360時間

【臨時的に特別な事情がある場合】
・年720時間以内
・複数月平均80時間 (休日労働を含む)
・月100時間未満 (休日労働を含む)

罰則 行政指導のみ
(法的拘束力無し)
6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金

 法定労働時間は改正前後での変化はないものの、改正後には、特別な事情がある場合でも「年720時間」と「単月100時間」以上の残業を禁止しています。さらに改正前にはなかった罰則規定により、法的拘束力が発生した点も大きな変更点です。

働き方改革によって変わる「残業割り増し賃金」

 働き方改革に伴い、60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引き上げも行われます。割増賃金率の引き上げ率や施行開始時期は大企業と中小企業で異なります。割増賃金率の引き上げについては、以下の表をご覧ください。

【60時間を超える時間外労働に対する賃金引き上げ率】

  改正前 改正後
大企業 50% 50%
中小企業 25% 50%

 大企業では割増賃金率の引き上げは、すでに2010年には行われていました。中小企業では猶予期間が設けられていたものの、働き方改革に伴って猶予期間が撤廃されました。しかし企業の人件費やコストが増加する懸念があるため、中小企業で割増賃金率の引き上げが行われるのは2023年4月からとなっています。違反した場合には6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられます。

働き方改革によって変わる「勤務間インターバル制度」

 勤務間インターバルは、働き方改革によって新しく誕生した制度です。勤務間インターバルとは、前日の勤務終了時刻と翌日の勤務開始時刻の間に十分な時間を確保するものです。勤務と勤務の間に十分な休息時間や生活時間を確保することで、疲労による命に関わる重大な事故を防止すると共に、質の高い労働を確保する目的があります。

 勤務間インターバルについてはまだ馴染みが薄いため、導入は努力義務であり、罰則もありません。勤務間インターバルの具体的な時間の設定は個々の企業に委ねられていますが、日本政府は9~11時間を推奨しています。

働き方改革によって変わる「非正規雇用者への待遇改善」

 昨今では正規雇用と非正規雇用の待遇の格差が問題視されています。労働参加率を上げるためにも、待遇差の解消が必要です。そこで日本政府は働き方改革の中で「同一労働同一賃金」の原則を打ち出しています。同一労働同一賃金とは、雇用形態に関わらず仕事ぶりや能力が適正に評価されるという考え方です。

 同一労働同一賃金の原則の適用により、企業は、不合理な待遇差を解消する規定を明確にすることや、労働者への待遇に関する説明義務などが求められます。罰則規定はないものの、非正規雇用には賃金アップや各種手当の充実などが期待されます

働き方改革がめざすもの

 バブル期の長時間労働奨励の風潮により、過労死などが問題化しました。折からの労働人口減少という危機に立ち向かうためにも、日本政府は時短推進法や働き方改革により多様で柔軟な働き方を許容することで、労働人口の確保を図っています。

 働き方改革によって多様な働き方が容認・創出されることで、子育て世代の女性や高齢者などの労働参加率の上昇が見込めます。加えて働き方改革による労働環境の整備によって、労働生産性の向上も期待されます。労働参加率と労働生産性の向上は、人口減少に耐えうる労働力の確保を期待できます。

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