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2021.02.05 (Fri)

いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第3回)

働き方改革による中小企業への影響を詳しく解説

 中小企業にとってメリットが多い「働き方改革」ですが、中小企業にとって働き方改革の導入は「対応する余裕がない」ということが実状でした。しかし、働き方改革関連法案には明確な罰則が規定されているため、否が応でも対応をしていく必要があります。したがって、中小企業の経営者は今後は「働き方改革支援ハンドブック」や「国の支援策」を積極的に活用して、働き方改革を進めていくことが求められます。

働き方改革の概要

 2019年よりスタートした働き方改革関連法案。働き方に関してさまざまな変化が促されている一方、中小企業を中心に多くの企業では働き方改革実施に割く余裕がないというのが現状です。そもそも働き方改革は、なぜ行わなければならないのでしょうか。働き方改革の意義を理解するために、まずは働き方改革の概要や施行の理由について解説します。

日本の労働力人口

 日本では、少子高齢化による労働人口の減少が問題視されています。パーソル総合研究所が行った「労働市場の未来推計2030」の調査結果によると、「2030年には、7073万人の労働需要に対し、6429万人の労働供給しか見込めず、『644万人の人手不足』となる」ことが見込まれています。

 労働人口の減少の根本的な理由には、出生率の低さがあります。一方、人口が減っているにも関わらず、サービス産業化は著しい進展を見せています。今後、日本ではサービス産業化への需要が拡大することが予測されていますが、供給力すなわち労働人口が減少しているため、人手不足感に拍車がかかると考えられています。

 少ない労働人口で高い社会水準を維持するには、「労働力の確保」と「労働生産性の向上」の2点が課題です。働き方改革は、この2点の課題を解決するために施行された制度です。

働き方改革の目的

 厚生労働省は、働き方改革の目的を「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることをめざす」としています。

 前項の課題に対して、働き方改革は「育児や介護と仕事の両立」や「労働環境の整備による生産性の増加」による解決をめざしています。具体的には、「長時間労働の是正」や「テレワークの導入」などの施策が挙げられます。多様で柔軟な働き方が許容・創出されることは、育児や介護、怪我・病気によって労働に参加できずにいた人でも、個々の都合に合わせて働くことを可能にします。

 働き方改革は、すべての従業員が働きやすい社会をつくることで、多様な人材を労働力として確保し、高い労働生産性を維持していくことを主な狙いとしています。

働き方改革の対象

 働き方改革の対象は、すべての企業・従業員です。日本の産業は中小企業や小規模事業によって支えられています。一方、中小企業や小規模事業ほど、事業に手いっぱいで働き方改革を行う余裕がないという現状があります。

 政府は「我が国雇用の7割を占める中小企業・小規模事業者において、着実に実施することが必要」と認識しており、働き方改革に向けた中小企業・小規模事業者支援のための施策を検討・実施しています。

 具体的な施策には「人材確保に向けたマッチング支援」として、SNSやYouTubeを活用した若年層の掘り起こしや、ハローワーク窓口でのフォローアップ対策があります。

 あるいは、「女性、高齢者などが働きやすい環境整備」に対する支援として、保育の受け皿整備や育児・介護休業からの復帰プランの策定支援のほか、高年齢求職者の支援、定年制の廃止や定年引上げを行う事業主への助成などの取り組みを行っています。

働き方改革における大企業と中小企業

 働き方改革の推進に当たり、さまざまな法改正が行われました。しかし、同じ制度であっても大企業と中小企業で施行開始時期が異なるものがあります。働き方改革における大企業と中小企業の相違点について解説します。

中小企業の定義

 大前提として、自社が大企業と中小企業のどちらに分類されるのかを把握する必要があります。実は、大企業については明確な定義がありません。一方、中小企業については、「中小企業基本法」に基づく定義があります。

 中小企業基本法では、中小企業に該当するかどうかを「資本金の額または出資金の総額」もしくは「常時使用する労働者数」という2つの基準で判断しています。小売業・サービス業の場合、「資本金の額または出資金の総額」が5000万円以下であれば中小企業に該当します。卸売業なら1億円以下、それ以外では3億円以下が中小企業の範囲に含まれます。

 「常時使用する労働者数」については、小売業は50人以下が該当します。サービス業・卸売業ならば100人以下、それ以外では300人以下が中小企業の範囲内です。各法律や支援制度によって異なる判断基準が設けられることもありますが、働き方改革における中小企業の範囲は、おおむね上の通りです。なお、企業の規模が上記範囲を超える場合には「大企業」と判断できます。

働き方改革の適用時期

 働き方改革ではさまざまな法改正が行われ、それに伴い多くの制度が変更になります。施行開始時期は制度や企業の規模によって異なります。以下では、「労働時間法制の見直し」と「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」に関する施策の施策開始時期について、それぞれ解説します。

労働時間法制の見直しについて

 働き方改革では労働時間の短縮が主な焦点となっています。残業時間の上限規制や有給取得の義務化が行われるなど、従業員の労働時間を抑制するための具体的な施策が行われています。違反した場合には罰則があるなど、実行力を伴った制度改革が多い点も、働き方改革における大きな特徴です。

 なお、労働時間短縮に関する法改正は以下の8つがあります。それぞれの施行開始時期は以下の表をご覧ください。

  大企業の施行開始時期 中小企業の施行開始時期
年次有給休暇5日の取得義務化 2019年4月より一律施行開始
フレックスタイム制度の拡充
勤務間インターバル制度の努力義務
高度プロフェッショナル制度の創設
産業医・産業保健機能の強化
労働時間の客観的な把握の義務付け
残業時間の上限規制 2019年4月 2020年4月
月60時間超の残業に対する割増賃金率の引き上げ
(2010年に施行済み)
2023年4月

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

 非正規雇用と正規雇用の待遇格差解消も、働き方改革における主な取り組みの1つです。働き方改革では「同一労働同一賃金」の原則を採用したほか、不合理な待遇格差や不適切な取り扱いを禁止するなど、立場の弱い非正規雇用を守るための具体的な規定が盛り込まれています。

 個々の従業員の能力が適正に評価されることをめざし、働き方改革では以下の3つの法改正が行われました。それぞれの施行開始時期と併せてご覧ください。

  大企業の施行開始時期 中小企業の施行開始時期
不合理な待遇差を無くすための既定の整備 2020年4月 2021年4月
労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
行政による助言・指導等や行政ADRの規定の整備

中小企業の働き方改革

 日本では中小企業の割合が多く、働き方改革の成功は中小企業での実行に大きく左右されます。中小企業における働き方改革の意義について、メリットやデメリットを挙げながら解説します。

メリット

 働き方改革では長時間労働の是正が大きな柱です。特に中小企業では人手不足による長時間労働が蔓延しており、改善が急がれます。中小企業における長時間労働の是正のメリットは、単純に従業員の労働時間が短くなるだけではありません。

 中小企業において労働時間を見直すことで得られるメリットについて、以下の2点を解説します。

労働力人口の確保

 働き方改革では、長時間労働の是正対策として、フレックスタイム制の拡充やテレワークの導入が推進されています。フレックスタイム制度とは、一定の総労働時間の範囲内で、個々が始業時間や終業時間を自由に設定する働き方です。テレワークとは、パソコンやスマートフォンを用いて、自宅などの社外で業務をこなす働き方です。

 フレックスタイム制やテレワークの普及は、従業員が個々の事情に合わせた柔軟な働き方や労働時間を叶えます。このことは単純に従業員の労働時間を短縮するだけでなく、今まで積極的に労働に参加できなかった人々の労働への参加を促します。

 たとえば育児や介護を抱えていたり、病気・怪我などの身体的ハンディキャップを抱えている人にとっては、定時に通勤・帰社する働き方は困難です。一方、フレックスタイム制やテレワークを利用すれば、毎日の通勤が困難な人でも稼働時間のみ自宅で働くことが可能になります。

 企業が積極的にテレワークやフレックスタイム制の導入などの労働環境整備を行えば、多様な人材が働きやすい「魅力的な職場」が形成されます。職場の魅力度が上がることは、外部からの優秀な人材の確保につながります。すなわち、働き方改革における労働時間の是正や多様な働き方の推進は、新しい労働力人口の確保ができるというメリットがあります。

労働生産性の向上

 生産年齢人口の減少が指摘されている現在、少ない労働人口で高い生産性を維持するには、従業員一人ひとりの労働生産性の向上が必要です。働き方改革における長時間労働の是正は、労働生産性の向上を促すと考えられています。

 労働生産性は「産出(アウトプット)/投入(インプット)」という計算式で求めることができます。分母である「投入」には「実労働時間」が当てはまります。すなわち、労働生産性を上げるには分母の「実労働時間」の数を小さくし、分子の「産出」の数を大きくしなければなりません。「産出」の大きさは、量と質の両方が関係します。

 つまり、「いかに少ない労働時間で高品質かつ大量の成果を上げるか」が課題となります。労働時間を短くしつつ成果を大きくするためには、企業側が機械導入や設備投資を行うといった努力が必要です。なお、企業の財政的な負担を軽減するため、政府は、ICT環境整備の経費支援や、革新的なサービス開発・生産プロセスの改善に必要な設備投資への支援などを打ち出しています。

 ほかにも、商工会・商工会議所などと作成した経営計画に基づいて行う販路開拓などの経費の支援や、税制面での優遇なども積極的に行われています。企業は政府の支援制度や助成金を利用することで、従業員の業務量を削減し、労働時間を短縮することが可能になります。

 機械導入などによって労働時間を短縮できれば、従業員は今まで以上の生活時間や休息時間を得ることができます。心身のリフレッシュを図ることで仕事への意欲が上がり労働生産性の向上につながるというメリットがあります。

デメリット

 働き方改革には大きなメリットがある一方、デメリットもあります。デメリットを回避するためには、その内容を正確に把握し、対策を立てる必要があります。

違反した場合に罰則がある

 働き改革関連法の改正に伴い、多くの制度で罰則が設けられました。たとえば時間外労働の上限規制における罰則があります。原則として時間外労働は「月45時間、年360時間」を超えてはなりません。違反した場合には、企業に「半年以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます。

 時間外労働時間の上限規制をはじめとする働き方改革の施策は、労働者にとっては過重労働を抑制する盾となります。一方、企業にとっては、罰則という形で大きな負担が課されているというデメリットがあります。

コストの増大

 今いる従業員の残業時間に上限規制が設けられたことや、有給取得の義務化は、会社全体の労働時間・労働力の低下につながります。そのため、多くの企業では新しい従業員による補填が必要となり、その分の人件費がかさむことになります。

  ほかにも、従業員の勤務時間や新たな労働環境の整備を行うためには、ある程度コストが掛かります。全体的にコストアップが必要となるため、今まで備えをしていなかった企業にとっては大きな支出が発生することになります。

厚生労働省のガイドライン

 中小企業が働き方改革を推進していくためのガイドラインとして、厚生労働省中小企業庁が公開している「働き方改革支援ハンドブック」があります。働き方改革支援ハンドブックには、働き方改革の成功事例の体験談や、導入で困った際に対応を求めるべき専門家などが記載されています。

 具体的な成功例や相談先が明示されているため、働き方改革を進める上で壁にぶつかったときに、どう対処すればよいのか分かりやすいのが特徴です。何から手を付ければよいのか分からないなど、働き方改革の進め方に迷ったときに参考にすると良いでしょう。

働き方改革の実情

 中小企業が働き方改革を一気に進めることで生まれる弊害もあります。たとえば、少人数の従業員による長時間労働で利益を保っていた企業などは、労働時間の減少により、今まで達成できていた成果を達成できなくなり、経営の悪化や倒産につながるリスクがあります。このような不安から、働き方改革に踏み切れないでいる中小企業事業者が多くいるのが現状です。

働き方改革全般の取組状況

 商工組合中央金庫が行った2020年1月「中小企業の働き方改革に関する実態調査」を参照します。働き方改革関連の取組で「現在行っている取組」と「今後実施したい取組」を調査した結果、「現在行っている取組」として最も多く挙げられたのが「休暇取得の推進」で、全体の58.5%を占めました。

 次いで多いのが「定年延長や廃止」「残業時間削減の推進」です。「働き方改革を進める上で重視する目的」としては、「業務の効率化、生産性向上」が全体の68%で最も多い割合を占めました。次いで多いのが「従業員の満足度の向上」の60%、「従業員の心身・健康リスク低減」の42.4%です。

 この調査結果を総合的に考えると、中小企業の多くが「業務の改善」や「従業員満足度の向上」を図るために、「休暇取得の推進」などの施策を実践していることが分かります。

働き方改革関連規制への対応状況

 中小企業では働き方改革関連法案の改正により、「時間外労働の上限規制」「残業賃金率引き上げ」「同一労働同一賃金」の3つの規則の適用が新たに始まっています。前項の商工組合中央金庫の調査によると、中小企業における上記3つの規制ごとの進捗状況を比較した結果、「実施済み」の割合で最も多くを占めたのは「時間外労働の上限規制」で40%でした(2020年2月時点)。

 「残業賃金率引き上げ」の「実施済み」は22.4%に留まり、その主な理由は「制度に対応する余裕がない」というものでした。「同一労働同一賃金」の「実施済み」割合は21%と最も低く、その理由とは同じく「制度に対応する余裕がない」というものです。この結果から、多くの中小企業が働き方改革を導入するにあたって「余裕がない」ことを読み取ることができます。

働き方改革の導入のハードルは高いが、進めていくしかない

 働き方改革は中小企業に多くのメリットをもたらします。一方、商工中金の調査結果からも分かるように、中小企業の多くが働き方改革の導入に「対応する余裕がない」状況に置かれています。しかし働き方改革関連法が罰則を伴う以上、中小企業も対応を余儀なくされています。

 中小企業の経営者は今後、「働き方改革支援ハンドブック」や「国の支援策」を積極的に活用して、働き方改革を進めていくことが求められます。

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