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2021.02.05 (Fri)

いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第1回)

働き方改革の導入はいつから?経緯を詳しく解説

 テレワークの普及や残業時間の上限規制などにより、昨今話題になっている働き方改革が具体的にいつから始まったかご存じですか? 実は働き方改革におけるさまざまな制度は、業界や大企業・中小企業など企業規模によって、施行開始時期に違いがあります。働き方改革を成功させるには、企業だけでなく従業員自身が、内容を理解しておく必要があります。本記事では、働き方改革の各制度の開始時期や、大きく変更になる8つのポイント、働き方改革が開始された背景について詳しく解説します。

働き方改革の始まりは何年から?

 働き方改革関連法案は、2019年4月より順次施行されています。しかし、働き方改革にはいくつもの制度があり、それぞれの開始時期は業種や企業規模によって異なります。

働き方改革関連法案とは

 働き方改革でよく耳にするのが「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」、略して「働き方改革関連法案」です。「働き方改革関連法案」とは、もともと存在していた働き方に関する法律8つの大幅な法改正を行うためのもので、これら一連の変革が「働き方改革」と呼ばれています。

 なお、働き方改革および働き方改革関連法案によって法改正が行われるのは、以下の8つの法律です。

・労働基準法
・労働安全衛生法
・労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
・じん肺法
・雇用対策法
・労働契約法
・短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

働き方改革の導入は2019年4月から

 働き方改革関連法案は基本的に2019年4月よりスタートしていますが、制度によっては猶予期間が設けられているものがあり、施行開始時期は各企業の規模によってそれぞれ異なります。詳しくは以下の表をご覧下さい。

  大企業の施行開始時期 中小企業の施行開始時期
年次有給休暇5日の取得義務化 2019年4月より一律施行開始
フレックスタイム制度の拡充
勤務間インターバル制度の努力義務
高度プロフェッショナル制度の創設
産業医・産業保健機能の強化
残業時間の上限規制 2019年4月 2020年4月
同一労働同一賃金 2020年4月 2021年4月
月60時間超の残業に対する割増賃金率の引き上げ
(2010年に施行済み)
2023年4月

業界や企業規模で猶予期間がある

 前項のように、各種制度の施行開始時期は企業の規模によって異なります。2019年4月より一律に施行がスタートしているのは、「年次有給休暇5日の取得義務化」「フレックスタイム制度の拡充」「勤務間インターバル制度の努力義務」「高度プロフェッショナル制度の創設」「産業医・産業保健機能の強化」の5つの制度です。

 一方、「残業時間の上限規制」は、大企業では2019年4月より施行開始されていますが、中小企業の施行開始時期は2020年4月と開始時期にズレが生じています。同じく「同一労働同一賃金」についても大企業では2020年4月、中小企業では2021年4月と、ズレが生じています。

 「月60時間超の残業に対する割増賃金率の引き上げ」については、大企業ではすでに2010年に施行されているため、今回の働き方改革では中小企業のみ適用されることになります。中小企業での施行開始時期は2023年4月です。

大企業と中小企業の違い

 大企業や中小企業の定義は、「資本金または出資の総額」と「常時使用する従業員の数」の2つの要素で決定されます。大企業については、特に決まりはありません。中小企業は「中小企業基本法第2条第1項」で明確な定義付けがなされています。なお、中小企業と定義づけられるのは、業種ごとに以下の表に該当する企業です。

業種 資本金の額又は出資の総額 常時使用する従業員の数
製造業、建設業、運輸業、その他 3億円以下 300人以下
卸売業 100人以下
サービス業 5000万円以下 100人以下
小売業 5000万円以下 50人以下

働き方改革の導入で変わる8つのポイントは?

 働き方改革では、従来から大きく変更される点が8つあります。それぞれの内容について解説します。

5日の年次有給休暇の取得が義務化

 働き方改革では、年に10日間の年次有給休暇付与される従業員に対し、年に5日間の有給休暇取得が義務付けられました。なお、年次有給休暇は「雇入れの日から6カ月間継続勤務」し、「全労働日の8割以上を出勤した」従業員に付与されます。

 年次有給休暇は、基本的に従業員が時季指定を行って取得します。ただし、従業員側からの申請日が業務に著しく支障を来す場合や、従業員側からの申請がない場合には、雇用者が時季指定を行って取得させる義務があります。なお、違反した場合には「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の罰則があります。

雇用形態に左右されない待遇の確保

 非正規雇用者と正規雇用者の待遇格差の解消は、働き方改革の中でも大きな柱の1つです。働き方改革では「同一労働同一賃金」の原則を採用し、身分に関わらず、従業員の能力や仕事ぶりに応じた賃金や待遇の確保を促しています。

 法改正により、「パートタイム・有期雇用労働法」「均衝待遇規定」と「均等待遇規定」が整備されました。2つの規定はそれぞれ、「不合理な待遇差」や「差別的な取扱い」を禁止した規定です。これにより、企業では、非正規雇用者と正規雇用者の間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇における不合理な格差が禁止されました。

 さらに法改正により、非正規雇用者は企業に、正規雇用者との待遇差について説明を求めることができるようになりました。企業は従業員に説明を求められた場合、待遇差の理由の説明を拒否することは禁じられています。

長時間労働の是正

労働基準法において、法定労働時間は「1日8時間、週40時間」と定められています。雇用者が従業員に法定労働時間を超えて労働をさせる場合には、労基法に基づき、両者間での36協定の締結が必要です。36協定とは、時間外労働に関するさまざまな事項に関する協定です。

 法改正以前は、36協定の内容は青天井で、雇用者は従業員を実質無制限で労働させることが可能でした。しかし働き方改革により、時間外労働に上限規制が設けられました。36協定を結んだ場合でも、時間外労働時間は、原則として「月45時間、年360時間以内」と規定されています。

 臨時に特別な事情がある場合は、「年720時間以内」「休日労働を含め単月100時間未満」「休日労働を含め2~6カ月間の平均が80時間以内」で、時間外労働を課すことができます。上限規制に違反した場合、企業には「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の刑事罰が科されます。

勤務間インターバル制度

 働き方改革では、企業に勤務間インターバル制度の導入の努力義務が課されました。勤務間インターバルとは、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息時間を設ける制度です。たとえば勤務間インターバルを10時間と設定した場合、前日の退社時刻が0時であれば、翌日の出社時刻は10時となります。

 勤務間インターバルを設けることにより従業員の長時間労働を防ぐことができます。さらに一定の休息時間を確保することで、従業員が充分な睡眠と生活時間を得ることができるため、ワークライフバランスの実現が期待されています。

 勤務間インターバル制度は日本ではなじみが薄いため、他の制度と異なり、罰則はなく努力義務に留まりました。

残業割増賃金率が一律で50%以上

 残業割増賃金には、「時間外手当」「深夜手当」「休日手当」の3種類があります。このうち「時間外手当」の残業割増賃金率の引き上げは大企業では2010年にスタートしていたものの、中小企業では猶予期間が設けられていました。働き方改革によって猶予期間の終了期間が明確に設けられ、中小企業でも2023年4月より施行開始されます。

 2023年4月からは、月60時間を超える時間外労働には一律で50%の割増賃金率が適用されることになります。「休日手当」は週に1回の法定休日の労働に支払われ、割増率は35%です。「深夜手当」は22時~翌5時間の労働に支払われ、割増率は25%です。休日手当と深夜手当は、時間外手当に上乗せして算定します。

産業医・産業保健機能の強化

 長時間労働による過労死・自殺・精神疾患などを防ぐ目的で、産業医や産業保健機能の強化が行われました。原則として、1カ月あたりの労働時間が80時間を超える時間外労働を行った従業員には、医師の面接指導が必要です。

 医師の面接指導は努力義務ですが、働き方改革では、産業医が独立性と中立性を持って適切な健康指導を行いやすい環境づくりのために、さまざまな制度の充実を図っています。たとえば産業医の就任・解任の際は、事業者は必ず、その旨と理由を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければなりません。

 さらに、事業者は産業医に対し、事業者への意見を述べる権限や、従業員に必要な措置を与える権限の付与の他、従業員のメンタルヘルスケアを行うにあたって必要な情報を提供することが義務付けられています。

高度プロフェッショナル制度

 高度プロフェッショナル制度とは、高度なスキルを持つ一部の従業員に対し、労働時間に基づいた制限を撤廃する制度です。対象となるのは専門的かつ高度な職業能力を持ち、一定の年収要件を満たした従業員です。たとえば弁護士などの士業、研究開発業務、金融商品の開発業務などが対象となります。

 対象の従業員には、「時間外・休日労働協定の締結」「時間外・休日・深夜の割増賃金の支払い義務」等の適用が除外されます。労働基準法に縛られない働き方ができるため、ライフバランスに合わせた働き方を叶えるワークライフバランスの実現や、労働生産性の向上などのメリットが期待できます。

 一方デメリットとしては、長時間労働の温床となりやすいことや、外部からの評価基準を設定しにくい点などが挙げられます。

フレックスタイム制度の拡充

 フレックスタイム制は、一定期間内の総労働時間の範囲内で、従業員が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決める働き方です。働き方改革では少子高齢化による生産年齢労働人口の減少や、従業員の働き方に対するニーズの多様化に応えるべく、フレックスタイム制の拡充が行われました。

 具体的には、従来は1カ月であった清算期間が3カ月に延長されました。より柔軟な働き方が許容されたことで、個々の従業員はワークライフバランスに合わせた働き方が可能になります。たとえば介護や育児との両立や、通勤の混雑時間を避けられるなどのメリットが期待されています。

働き方改革の導入経緯は?

働き方改革という制度はなぜ誕生し、そして注目されているのでしょうか。最後に、働き方改革が導入された経緯について解説します。

労働人口の減少

 日本の労働人口は2000年頃からほぼ横ばいの状態が続いています。15~64歳の男性の労働人口は1997年をピークに減少しており、15~64歳の女性や、65歳以上の高齢者の社会進出によって、労働力が補われている状態です。

 現在の状態が続けば、2025年には労働人口は減少し始め、2065年には生産年齢人口は51.4%まで低下すると見込まれています。

国際競争力の低下

 国際的に見ると、日本はバブル期の1993年までは国際競争力トップを誇っていました。しかしバブル崩壊以降は順位を下げ、2019年には30位にまで下落しています。

労働生産性の低さ

 労働生産性には「名目労働生産性」「実質労働生産性」の2つがあります。世界の主要先進国で労働生産性を比較すると、日本は名目労働生産性・実質労働生産性ともに低い水準となっており、上位国との差は1.5~2倍程あります。

働き方改革を阻む原因

 働き方改革は、少子高齢化により労働人口が減少しても、日本が高い社会水準を保ち続けることを目的に施行が開始されました。具体的な施策には長時間労働の是正や休日・休息時間の一定の確保などがあります。これらによって労働の質が高まり、少ない人口でも高い労働生産性をキープできると期待されています。

 働き方改革では、さまざまな制度は罰則という強制力を持って施行されています。しかし、多くの企業では働き方改革は思うように進められていないのが現状です。その原因として、「制度改革に伴う企業側の負担の大きさ」「従来の働き方の観念から脱却できない」「ICT環境整備のための資金力不足」が挙げられます。

働き方改革元年後の浸透率

 2020年にデロイト トーマツ グループが発表した「働き方改革の実態調査」の結果を見てみると、「働き方改革を実施した・実施している」と答えた企業は89%に上りました。一方で、働き方改革を必要だと感じているにも関わらず、実施することができていない企業は8%程度に止まります。

 しかし、働き方改革の各目的に対して効果を感じたと回答している企業はおよそ半数に留まっており、働き方改革が実現されたと言うにはまだ時間がかかりそうです。

働き方改革の内容を理解し有効活用しましょう

 働き方改革では労働生産性の向上を目的とし、個々の従業員が多様な働き方を選択できる環境づくりを行っています。例えば、働き方改革における長時間労働の是正や休日・休息時間の確保は、従業員のワークライフバランスを叶えるだけでなく、仕事への意欲や労働参加率の向上が期待されています。

 しかし、現実には働き方改革の推進が難しい企業も多く存在します。企業は「制度変革の負担」「ICT環境整備の資金」などの課題点をクリアしなければなりません。従業員側もまた、意識改革を行って新しい働き方を受け入れるなど、企業の努力に理解を示す姿勢が必要です。働き方改革は企業・従業員双方の努力によって成し遂げられるものであり、それぞれが協力することが重要です。

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