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スマートシティ技術の“いま”(第1回)

海外スマートシティ最新事情

posted by 指田 昌夫

 今注目が高まっているスマートシティ。日本でも総務省や国土交通省、経済産業省などが主導し、各地でさまざまな関連プロジェクトが走っています。民間主導でも、トヨタが実証都市「コネクティッド・シティ」を東富士工場跡地に作ることを宣言したことは大きなニュースになりました。

 一方、世界中のさまざまな都市でもスマートシティへの取り組みが広がっています。世界各地のスマートシティの中から注目されるプロジェクトはどのようなものがあるか、野村総合研究所(NRI)にお聞きしました。NRIでは独自の調査をはじめ、政府の委託事業、民間企業のスマートシティ立ち上げ支援も手がけるなど、長年にわたりスマートシティの調査研究を続けています。

巨大ITプラットフォーマーが取り組むスマートシティ構想

株式会社野村総合研究所
コンサルティング事業本部
グローバルインフラコンサルティング部
海外インフラ開発グループ
グループマネージャー
又木 毅正 氏

 NRIの又木毅正氏は、スマートシティの現状を次のように説明します。「スマートシティは、主に省エネルギーを主眼に置いた第一世代から、自治体のデータ基盤構築を進めた第二世代、そして集めたビッグデータをAIなどによって分析し、新しいサービスを提供しようとする第三世代の3つのグループが、現在も混在している状態です」

 また、第一世代の都市が第二、第三世代へとステップアップを目指しているのかというと、必ずしもそうではないようです。NRIの石上圭太郎氏は「比較的古くからスマートシティに取り組んできた都市の中で、シンガポール、ドバイ、アムステルダム、コペンハーゲンなどは、都市データの蓄積が進み、その活用度も上がってきていると思います」と話します。

 最近のスマートシティの動きとして、「特に第三世代で、Googleやアリババといった巨大ITプラットフォーマーが主導することで開発を加速させようとしています」と又木氏は指摘します。

Sidewalk TorontoのWebページ(https://www.sidewalktoronto.ca/

 その一例が、カナダ・トロント市の「Sidewalk Toronto」です。Googleの持ち株会社であるAlphabetの子会社、Sidewalk Labsが事業主体として街自体を開発するスマートシティプロジェクトです。特徴は、都市の利用者(居住者、勤労者、訪問者)の利便性向上にデジタル技術をフル活用する点です。都市内の各所に張り巡らされたセンサーの情報と個々の住民のアカウント情報を連携して、最適なサービスを提供します。Googleが開発している自動運転車などの実装も行う予定です。

 

 

株式会社野村総合研究所
コンサルティング事業本部
グローバルインフラコンサルティング部
海外インフラ開発グループ
上級コンサルタント
石上 圭太郎 氏

 「現在主流となっているスマートシティのコンセプトは、もともと欧州から出てきたものです」と石上氏は説明します。欧州では多くの都市で、自治体としての効率化、省エネルギー化、公共サービスの改善などに主眼を置いて開発を進めてきました。

 その代表例の1つがスペイン・バルセロナ市です。実に20年前の2000年から、知識集約型の新産業とイノベーションを創出するための大規模なプロジェクトが進行しています。都市内にWi-Fi環境を整備してネットワーク基盤とするなど、現在のスマートシティの原型ともいえる取り組みをいち早く行ってきました。当初の10年間で約10兆円の経済効果を生み出したという調査結果もあります。

Bicingのウェブサイト(https://bicing.barcelona/mapa-de-disponibilitat-provisional)。
地図上のステーションをクリックすると現在何台の自転車が利用可能か表示される

 具体的なサービスの成果も多く出ています。会費が年間約6000円(47.16ユーロ)の自転車シェアリングの「Bicing」(ビシング)は、1日に約3万5000回の利用件数があります(2018年実績)。ほかにも街中の街灯を人がいないときに自動で消灯する「スマートライティング」、都市の植栽への水やりを気温、湿度、風速、土中の状態などのセンサーデータによって最適化する「スマート水管理」、さらには「ゴミ収集」「バス停」などさまざまな自動化サービスを導入しています。もはや当たり前のサービスとして都市に定着しているようです。

 スマートシティの取り組みでは、自治体や政府だけで実現できる事業は限定されており、もちろん民間企業の力も必要です。しかし、「特に公共サービスの分野では民間企業にとって利益を出せる魅力的なテーマは必ずしも多くない」と石上氏は指摘します。スマートシティのプロジェクトでは、収益化がむずかしい分野は官が中心となり、民間の力を生かす部分では競争原理を働かせるなどの設計が必要でしょう。

 また、複数の民間企業が1つのプロジェクトに参加する場合、各社の思惑が交錯しないように調整する役割も重要です。アメリカ・ニューヨークのハドソンヤードで進められているスマートシティ事業は、ビジネスプラットフォームを共通化し、その上で複数のテクノロジープロバイダが分野ごとに開発を行う方式を採用しています。ヘルスケア、スマートホーム、小売りのスタートアップなど複数の事業者が広く参加できる形をとることで、開発のスピードアップとさまざまなアイデアの実装を目指しています。

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シンガポールや中国の"スマートシティ構想"

 より大規模な取り組みの例は、アジア地域に多く見られます。シンガポールでは、「スマートネーションシンガポール」の名の通り、都市というより国家全域としてのスマート化を推進しています。身分証明書の電子化、電子政府の構築や電子決済の標準化、都市内センサー基盤の標準化などを行い、政府負担でインフラを整えて民間企業の参画を呼びかけてきました。

 2014年より開始された事業は多くがすでに実用化されており、さらに新規開発が行われています。「プンゴルデジタル地区」では、大学(SIT:シンガポール工科大学)を中核に、企業や商業施設、居住地区を併設。設備や住民サービスの自動化を進めるとともに、約2万8000人分の新たな雇用の創出をめざしています。

雄安新区の公式サイト(http://english.xiongan.gov.cn/

 一方、中国では各地で国家級新区(国家プロジェクト)の開発が進行中です。もっとも新しい開発エリアの1つである雄安(ユーアン)新区は、2017年からスマートシティとしてゼロベースの開発が始まっています。

 北京市に近い河北省の雄安新区は、面積が1770平方キロメートルで、東京23区の約3倍もの広さです。最初に開発を行う地域を「スタートアップ区」として100平方キロメートルを設定、そのうち38平方キロメートルが「先行開発区」で、金融やビッグデータ分析などのプロジェクトを進めています。2022年までに先行開発区の基礎インフラを整備して、周囲に拡大する計画です。

 最先端のハイテク技術をふんだんに投入し、自動車も地下に専用レーンを掘って自動運転車を走らせる計画です。地上は自動運転の周回バスや人間に開放します。無人配送車や無人店舗も積極的に導入し、買い物は顔認証システムで安全かつ便利に行えるようにします。市民データは一括管理され、行政サービスや医療・教育にも利用できます。また100%クリーンエネルギーの実現を目指し、ソーラー発電した電力で海水を淡水化するシステムも導入するなど、考え得る未来の都市像をすべて盛り込んでいます。将来的に想定人口1000万人のハイテク産業集積地をめざします。

 中国では新区だけでなく、既存の都市でもデジタル技術で社会的問題の解決に取り組んでいます。アリババは、本社がある杭州市で交通渋滞の解消に向けて交通監視カメラの画像をAIで分析し、自動制御する信号機を導入。車両の平均移動速度が15%向上したといいます。また、交通事故を95%の精度で認識し、緊急車両の到着時間を30%改善するなど、大きな成果を挙げています。アリババではこの技術をほかの都市にも展開する一方、医療や治水など、交通以外のさまざまなインフラ事業に応用する計画を発表しています。

 このように、世界各地で多数のスマートシティプロジェクトが進行中です。今後は、収集された膨大なインフラと人のデータをどう管理し、活用していくのかに注目が集まっていくと考えられます。

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指田 昌夫

指田 昌夫

ビジネス出版社で雑誌編集者、記者、デスクとして25年以上活動後、フリーランスに。IT、製造、金融分野を中心に企業取材と執筆を行う。

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