請求書の完全なデジタル化をめざす動きが加速しています。日本政府は請求書のデータ仕様の統一化に向けて、民間企業と協議会を立ち上げました。近年はクラウド請求サービスも登場しているほか、デジタル化を実現して成果を出している企業もあります。生産性向上やコスト削減効果が期待される請求書のデジタル化。その実態について、代表的なクラウド請求サービスや、企業の最新事例も交えながら紹介します。
経理のテレワークを阻害する「紙の請求書業務」
2020年7月、請求書のデジタル化に欠かせないデータ仕様の統一について、日本政府と民間のシステム・ソフト会社が協議会を立ち上げたという報道がありました。この協議会には「弥生会計」の弥生株式会社や、「勘定奉行」の株式会社オービックビジネスコンサルタントなど約50社が参加予定。異なる会計ソフトを使っていても電子請求書のやりとりをスムーズに行えるように、データ仕様の統一化を目指しています。2020年10月1日には「改正電子帳簿保存法」が施行され、条件を満たせば請求書を紙ではなく電子で保存することが可能になるなど、紙文化が色濃く残る「請求書」のデジタル化に向けた動きが本格化しています。
「さよなら紙の請求書」を掲げる民間企業50社の賛同プロジェクト「日本の経理をもっと自由に」の調査によると、テレワーク浸透後も経理部門は出社している企業が多く、その理由の1位が「紙の請求書業務」となっていました。
同プロジェクトを主導する株式会社ROBOT PAYMENT代表取締役の清久健也氏は、「請求書を電子化することで年間200〜300時間の削減を見込める」と、メリットを説明しています。日本経済新聞が「企業は1枚の請求書に人件費やシステム費用で650円以上をかけている。デジタル化で100円程度に抑えられそうだ」という見解を示しているように、請求書のデジタル化によって業務効率の改善だけでなく、コスト削減効果も見込めるのです。
請求書の管理を無料で行うサービスも登場
日本政府の動向に先駆けて、すでに多くのクラウド請求サービスが世の中に登場し、着実に利用数を伸ばしています。代表的なサービスを紹介しましょう。
「freee」は、個人事業主から中規模法人に対応したクラウド会計ソフトとして、成長中のサービスです。直感的な操作で会計処理が行え、経理を専門としないスタッフが請求処理を行うことの多いスタートアップ企業やベンチャー企業に支持されています。
「マネーフォワード クラウド請求書」は、請求書の作成から郵送までを自動化するサービス。印刷・封入・送付といった作業がワンクリックで完了できるため、経理担当者の負担削減が期待できます。
近年は無料のクラウド請求管理サービスも出てきています。そのひとつが「INVOY」。請求書の作成、メール送信、取引先管理といった業務をクラウド上で簡単に処理できて、そのすべてが無料(発行額10億円/月、または発行枚数5,000枚以上/月は要相談)。郵送代行サービスも郵送実費を払えば利用できます。
サービスによって価格、利用条件、サポート体制、連携できる会計システムなどの違いがあるので、導入する際は数社を比較し、自社のシステム体制やセキュリティ条件、求める機能などと照らし合わせて検討することをおすすめします。
デジタル化の鍵を握るのは、取引先からの理解
クラウド請求サービスのほとんどは有料であるため、費用対効果を気にされる人も多いと思います。具体的にどの程度の業務効率改善やコスト削減効果が得られるのか、実際にデジタル移行した企業の事例を見てみましょう。
HR-Tech分野のSaaS事業を展開するパーソルプロセス&テクノロジー株式会社は、低単価で多くの顧客にサービスを提供するビジネスモデルのため、毎月多くの請求処理が発生していました。同社はクラウド請求サービスを数社検討し、ROBOT PAYMENTの「請求管理ロボ」を採用。業務プロセス全体の見直しとともに請求処理の工数を大幅に減らし、約7割ものコスト削減に成功したそうです。
医療業界向け出版物を刊行する株式会社メディカ出版は、医師や看護師などの執筆協力者に毎月800件程度の支払い明細を郵送していました。この作業負荷を低減するため、株式会社ラクスの「楽楽明細」を導入。7日ほどかかっていた支払い業務を2〜3日に短縮できたそうです。関係先の病院や医療機関ではペーパーレス化が推進されていたことから、支払い明細の電子化に抵抗がなかった点も、スムーズに移行できた要因だと述べています。
インテリア総合商社の株式会社トルハートは、毎月約8,000件もの納品書と請求書を作成・発送していました。そこで、インフォコム株式会社の帳票配信クラウドサービス「eco Deliver Express」の導入を検討。納品書・請求書をウェブ配信サービスに切り替えることについて取引先にヒアリングを行い、賛同を得られた取引先数からコスト面に問題がないと判断したうえで導入を決断しました。結果的に導入2カ月で業務効率化とコスト削減につながり、利用する取引先も当初の見込みの2倍を超えたそうです。
メディカ出版やトルハートの例のように、請求・支払関係の書類は取引先に送付するものなので、先方の理解や了承を得られるかどうかもデジタル化を推進するポイントになりそうです。
請求書のデジタル化で着実に成果を出している企業がある一方、自社の運用フローの改善、仕様の統一、取引先・経営層・グループ企業など関係各所からの了承など、クリアすべきハードルが高くて導入に踏み切れない企業もあるのが現状です。世界的な動向としても請求書のデジタル化が推進されるなか、日本政府の取り組みとともに、各企業が一体となってデジタル化に向けた動きが活発化されることが期待されます。
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