ビジネスシーンでのデジタル活用が、新型コロナウイルスによって加速しています。テレワークやオンラインでの会議や接客などはその一例。これらの「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、企業規模の“大小”や“業種”を問わず、これからのビジネスにおいて不可欠といえます。ここではビジネスパーソンが知っておきたいDXの基礎について解説します。
そもそも、DXとはなにか?
DXは、2018年12月に経済産業省が発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」をきっかけに広まった言葉です。
経済産業省によれば、「ビジネスにおけるマーケット環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。“DXの本質”は、単にICTツールなど導入することではなく、「デジタルを駆使して新たなサービスやビジネスを創出する」ことだといえます。
DXの必要性は、さまざまな調査で示唆されています。例えば、2018年にMicrosoftとIDC Asia/Pacificが行った調査では、「2021 年までに、DXが日本の GDP に約 11 兆円貢献する」「2021年までに日本のGDPの約50%をデジタル製品やデジタルサービスが占める」と予測されています。「DXのリーディングカンパニーは、フォロワーと比較して2倍の恩恵を享受する」という見解も発表されました。こうした調査からも、ビジネスにおけるDXの影響度が見て取れます。
AmazonやMicrosoftも、DXでビジネスを変え続けている
では、「デジタルを駆使して新たなサービスやビジネスを創出」するために企業はどのようなことを行えばよいのでしょうか。
DXの象徴的な事例として挙げられるのが「GAFAM」(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)といった、現在世界を席巻するICT企業です。これらの企業の共通点は、デジタル技術によって、既存の産業構造やビジネスモデルにとらわれず、新たなサービスや商品を作り出したことです。
例えばAmazonは、インターネットであらゆる商品が自宅にすぐ届くサービスをつくりました。サービスの裏には高度なデジタル技術があり、住所やクレジットカードの入力なしにワンクリックで注文できる仕組みや、注文履歴を機械学習で分析して商品をレコメンドする、売れ行きを予測して配達先近くの倉庫に在庫する即時配送などを実現しています。これらの利便性から、Amazonは「買い物は店でする」という既成概念を覆しました。
Microsoftは、Windowsをはじめとする「ソフトウェアの開発や販売」で世界トップシェアを誇っていましたが、クラウドの流れをいち早く感じ取り、2008年にはビジネスモデルをクラウドサービスAzureによる「サービスの提供」にシフトしました。2014年にはOfficeの無償化とサブスクリプション版の提供、コミュニケーションプラットフォームTeamsのリリースなど、次々とクラウドをベースにしたサービスを打ち出しています。同社は、コロナ禍でのテレワーク需要を受け、2020年の1~3月期決算では、売上高約15%増、純利益約26%増を記録。旧来型ビジネスの成功体験にとらわれず、ビジネスモデルをシフトしたことが要因といえます。
一太郎で知られるジャストシステムが、DXで復活?
国内でも、さまざまな企業がDXによって「ビジネス変革」に取り組んでいます。
日本語ワープロソフト「一太郎」を開発・販売する株式会社ジャストシステムは、一太郎のノウハウを通して培った教育業界とのつながりや知見を活かして、タブレットを利用した通信教育サービス「スマイルゼミ」をリリース。同社は日本語ワープロソフトの販売が芳しくない状況が続いていましたが、「スマイルゼミ」の好調によって息を吹き返し、2020年度は連結経常利益が前期比で70.3%増と伸長を見せています。
組織や人材に関するコンサルティング事業を行う株式会社リンクアンドモチベーションは、2016年、そのノウハウを集約し、国内初の組織改善クラウドサービス「モチベーションクラウド」をリリース。労働集約型のコンサルティング事業からHRTech事業へとビジネスモデルをシフトし、株価が一時10倍になったことで話題となりました。
このようにDXには、企業のビジネスを大きく動かす可能性があります。自社の業務システムを大幅に刷新するといった大掛かりな投資をしなくても、「対面だった営業をオンラインでもできる仕組みをつくる」といったことも、新たなサービスやビジネスを創出につながるDXです。コロナ禍でオンライン化が進む昨今は、企業が自社ビジネスのDXを加速させる好機ともいえます。
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