2020.12.23 (Wed)

【特別企画】キーパーソンが語るビジネス最前線(第4回)

ブレインスリープとNTT東日本が挑む、健康経営支援

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スタンフォード大学医学部精神科 教授
同大学睡眠生体リズム研究所(SCNラボ)所長
株式会社ブレインスリープ 代表取締役 兼 最高研究顧問
医師 医学博士 西野 精治氏

 スタンフォード大学で30年以上睡眠研究を続ける『スタンフォード式 最高の睡眠』の著者、西野精治氏と、「スカルプD」などのヒット商品で知られるアンファー株式会社の道端孝助氏が共同で設立したのが、株式会社ブレインスリープ。

 OECD(経済協力開発機構)が2018年に実施した調査によると、日本は睡眠時間世界ワースト1位。その日本に、ブレインスリープはどのような変化を起こそうとしているのでしょうか。今回は西野氏を囲み、ブレインスリープ共同代表取締役 道端氏、ブレインスリープ社が提供する「睡眠偏差値for Biz」サービスの共同開発に携わったNTT東日本 ビジネスイノベーション本部 プロダクトサービス部 尾形哲平氏に話を伺いました。

確かな情報と医療を土台に事業をスタート

株式会社ブレインスリープ 代表取締役
道端 孝助氏

 ブレインスリープは、「最高の睡眠で最幸の人生を」をミッションに掲げ、睡眠外来の設立サポートをはじめ、睡眠に特化した商品を取り扱うECサイト「zzzLand」や、睡眠の正しい情報を伝えるウェブサイト「SleepediA」などを展開する企業です。2020年9月からは、NTT東日本をイノベーションパートナーとし、企業の健康経営をサポートするサービス、「睡眠偏差値for Biz」の提供を開始しました。

 

 ブレインスリープ設立のきっかけは、道端氏がアンファーの事業のひとつとして睡眠デバイスやスリープテックの相談をするため西野氏のもとを訪れたことです。西野氏は、日本の既存の睡眠サービスには根拠のない情報が多く、結果検証もされていないことに以前から不満を持っていました。医療技術に基づく商品やサービスの開発を行っているアンファーから相談を受け、西野氏も「日本の睡眠市場を変えたい」という想いを持っていたことからブレインスリープを設立することになりました。

 話し合いを重ねる中で、道端氏が感銘を受けたのが、西野氏の「ケアだけでなく、キュア(治療)が必要な人がいる」という言葉でした。そのため医療を土台に事業を展開すべきであると考え、太田睡眠科学センター所長で睡眠時無呼吸症候群研究の第一人者である千葉伸太郎先生、西野氏の研究所のOBで、産業医として活躍する丸山崇先生に協力を要請。臨床経験が豊富な先生方のサポートを受け、睡眠外来の設立に携わることから事業をスタートさせました。

 「単純に商品を売るような事業ではなく、医療と連携して一歩踏み出すことを重視しました。『医療を土台にすること、日本に正しい知識を伝えていくこと』、そういった根本の考えが一致していたので、西野先生に安心してパートナーになっていただけたのだと思います」と道端氏。

 西野氏は「私が最初から強く希望したのは、データを取って、実際に役に立っているのか結果検証をしながら進めるということ。その考えを理解いただけたことと、千葉先生や丸山先生のサポートが受けられることになったことも、一緒に事業を進める決め手になりました」と話します。

「睡眠偏差値」で日本の睡眠を可視化する

 次にブレインスリープは、睡眠に関する正しい情報を発信するためのウェブサイト、「SleepediA」を公開しました。同サイトは西野氏や西野氏の研究所のOB・OGが記事の監修を担当。コロナ禍においては、毎月およそ10万人ずつ訪問者数が増えており、道端氏は睡眠に問題を抱える人が増えていることや、正しい情報が求められていることを実感しているといいます。

NTT東日本
ビジネスイノベーション本部
プロダクトサービス部
尾形 哲平氏

 また「zzzLand」は、睡眠に関する課題を解決するきっかけを提供することを目指したECサイトです。香りや光、寝る前のストレッチなど、自分にとって最適な睡眠のスイッチを見つけてもらうため、多様な商品を集めています。

 そして2020年9月からはNTT東日本と共同開発した「睡眠偏差値for Biz」の提供も開始しました。「睡眠偏差値」とは、医療現場で使われている問診をベースとした睡眠に関する幅広い質問を作成し、日本人に馴染みのある「偏差値」として数値化することで、日本人の睡眠状態を可視化するためのシステムです。偏差値のベースデータは全国10,000人の有職者の睡眠データが活用されています。

 「偏差値にすることで、自分の睡眠が平均より上か下かなど客観的に見られます。日本人は偏差値に馴染みがあるので、楽しみながら回答してもらえると思いました。多くの人に試していただき、データを蓄えてシステムをアップデートしていく予定です」と道端氏は語ります。

 共創パートナーとして開発に携わったNTT東日本の尾形氏は「睡眠偏差値のお話を伺ったときは、とても面白そうだと思いました。データを解析してアウトプットを出す、大量に蓄えられたデータをAIで分析するといった部分では弊社の強みが生かせます。また、健康経営に興味を抱く企業へアプローチするときには、弊社がもっている顧客基盤も活用できるのではないかと考えました」と語ります。

 西野氏は「睡眠の質を高める施策の成果を見るには、標準化したデータが必要です。AIやビッグデータを活用して進めることで事業の可能性が広がると期待しています。しかし、ただデータを取ればいいというわけではなく、何のためにやるのかが大事。睡眠の専門家とAIの専門家が協議しながらデータを生かしていきたいです」と、目的をもってデータを収集し、活用することの重要性に触れました。

 企業の健康経営をサポートする「睡眠偏差値for Biz」では、従業員に「睡眠偏差値」を実施してもらい、企業全体の分析結果をみて、企業ごとの課題を見い出し、睡眠改善コンサルティングを実施します。

 尾形氏は「睡眠偏差値」のプロジェクトを進める中で、「睡眠は奥が深く、あらゆる業界の人に興味をもってもらえるキーワードだと感じた」と話します。

 また西野氏は「経営者にとっては、睡眠偏差値 for Bizの導入により生産性が上がらなければ意味がありません。生産性がどのくらい上がったかという結果検証もしていきたい」と語りました。

 西野氏は「今後は、子どもの睡眠の大切さも伝えていきたいと考えています。眠れないことでイライラしたり、怒りやすくなったり、集中できずにいる子がADHD(注意欠如・多動症)だと診断されてしまうケースも起こり得ます。日本では子どもに『早く寝なさい』と言いつつ、親が遅くまで起きている家庭も多いようですが、それでは子どもも早く眠ることはできません。まずは両親を啓蒙する必要があります」と、正しい知識を伝えることの大切さを強調しました。

ブレインスリープは日本の睡眠をどう変える?

 道端氏はブレインスリープの事業を始めてから、自分がいかに睡眠を取れていなかったかを自覚したといいます。「一日に占める時間が多いのにダイエットや運動方法に比べると睡眠への注目度は高くありません。西野先生の考え方を発信し、なぜ睡眠が大事なのか、どうすれば質の高い睡眠が取れるのか、睡眠を変えることが人生のプラスになることを伝えていきたい」と話しました。

 また、道端氏が睡眠の知識を深める中で、最も衝撃を受けた病気が睡眠時無呼吸症候群だったそうです。生活習慣病や認知症のリスクが数倍に上がるだけでなく、発症から7~8年で約40%の人が亡くなっている病気です。睡眠時無呼吸症候群には、「CPAP(Continuous Positive Airway Pressure /経鼻的持続陽圧呼吸療法)」という機器を装着して眠る治療が行われていますが、ブレインスリープが携わる「つなぐクリニックTOKYO 睡眠・SAS外来」の睡眠外来では、同治療法と併せて根本的原因を探り、生活習慣の改善なども組み込み、CPAPの離脱を目指す治療を提案していきたいといいます。

 「コロナ禍によりオンライン診療の規制が緩和され、睡眠外来の医療を届けやすくなった」と道端氏。「全国にオンラインで睡眠外来の医療を届けられるようになったので、睡眠時無呼吸症候群の人が早く治療を受けられるよう弊社も尽力したい」と話します。

 長年の睡眠研究に基づいた情報と、治療が必要な人を医療機関に導く体制を基盤にスタートしたブレインスリープ。睡眠状況を可視化し、改善していくための「睡眠偏差値 for Biz」システムも加わり、日本の睡眠市場に変革を起こそうとしています。

 最後に西野氏は、「これからも企業間の垣根をできるだけ低くして、データやAI、センシングデバイスを持っている企業と協業していきたい。睡眠への関心の高まりを一時のブームで終わらせてはいけません。ブレインスリープの事業を、地に足の付いた長く続くビジネスにしていきたいと考えています」と、今後の展望を語ってくれました。

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