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離島の廃校で学ぶ酒造りとまちづくり(第6回)

ライフネット生命会長らと考える「幸せを産む働き方」

 「佐渡は課題先進地。でも、それを越える希望がある」——。そんな言葉がとても印象に残る催しでした。

 ライフネット生命保険の会長や日本総研の主席研究員を“先生”に招き、佐渡島の廃校で開催された「学校蔵の特別授業」。

 島内外から約120人が参加し、「佐渡から考える島国ニッポンの未来」をメインテーマに、常識を覆すような世界地図の見方を学ぶとともに、「幸せを産む働き方」などについて意見を交わしました。

離島の廃校で島国ニッポンの未来を考える

 廃校となった小学校を酒蔵として再生し、酒造りの他、学びや交流の場などとしても活用する「学校蔵プロジェクト」。学校蔵では交流の場づくりの一環として、学校蔵がスタートした2014年から年に一度「学校蔵の特別授業」と題したワークショップを開催してきました。

 学校蔵を運営する尾畑酒造の尾畑留美子専務は「さまざまな人が集まってこそ学校。いろいろなテーマで人が集い、意見を交わしてぶつかることによって、“化学反応”を起こす場所にしていきたいと考えました」と思いを語ります。

教室に室名札を掲示するなど細かな演出も

 特別授業の参加者は、初回は約40人、2回目は約80人、3回目は約100人、そして4回目の今回は約120人と、どんどん増えています。各回に共通する大テーマは「佐渡から考える島国ニッポンの未来」。人口減少や高齢化などの課題先進地といわれる佐渡島を“日本の縮図”と捉えれば、日本再生の何らかのヒントが得られるのではないか、との思いが込められています。

 特別授業で“学級委員長”を務める尾畑専務は「特別授業は、参加者に何かをしてあげるためのイベントではありません。それぞれに何かを学んで成長できる場を目指しています。ここに来る“生徒”は熱量の大きな人が多い。熱量の大きい物がぶつかった方が、大きな化学反応が起きますよね。小さな教室ですが、大きな化学反応があちこちで起きているのが面白いんです。これからも化学反応を起こすための場づくりに向けて、学級委員長を続けていきます」と意気込んでいます。

地図を回して眺めてみれば、世界の見え方も変わってくる

 4年目を迎えた特別授業は、“校長先生”を務める尾畑酒造の平島健社長のあいさつからスタート。「ここは答えを提供する場ではありません。講義ではなく、授業です。皆さんとのインタラクティブなやりとりを大切にしています。答えは皆さんがそれぞれに導き出していただければ」と、授業に臨む心構えを語りました。

廊下に並べられた“小道具”としてのバケツ

 尾畑学級委員長からは「廊下にはバケツも用意していますので、立たされる経験を懐かしみたい方はご利用ください(笑)。今日は新聞部(新聞社)や放送部(テレビ局)の人もたくさん来ていますから、もし休み時間にコメントを求められたらご協力をお願いします」などと、遊び心たっぷりに“注意事項”が伝達されました。

 キンコンカンコ〜ン。始業のベルが鳴り響くと、佐渡高校の生徒が「起立!」「礼!」「着席!」と懐かしい号令を掛け、全員で「よろしくお願いします!」と元気よくあいさつをして授業が始まりました。

先生役を務めた日本総合研究所の藻谷浩介主席研究員(左)とライフネット生命保険の出口治明会長

 今回の“先生”は、ライフネット生命保険の出口治明会長と、日本総合研究所の藻谷浩介主席研究員。1時間目の科目は「世界から佐渡を見る」です。

 藻谷先生は、まず「日本の学校教育の世界史は、日本人の考えるメインストリームだけを教えてきました。世界の感覚からズレている部分もあります」と指摘しました。

 「『全世界史』講義Ⅰ、Ⅱ」などの著書もあり歴史に造詣の深い出口先生は、「人間は、交易を行うことで繁栄し、文明を築いてきました。外の世界から物を持ち込んで豊かになってきたのです。日本で最初に文明が起こったのは九州。朝鮮半島から鉄が伝わり、クワやスキなどの器具を作れるようになりました」と説明。

逆さ日本地図とも呼ばれる東アジア交流地図を指しながら授業を行う出口先生

 そして、佐渡市役所が発行している環日本海の逆さ地図を示しながら「交易で物を運ぶのは陸路ではなく海と川。この地図を見ると、朝鮮半島と九州は非常に近いことがよく分かります。そして瀬戸内海は川のように見えます。この瀬戸内海を上ってヤマト政権へと通じたのです。江戸時代には鎖国が始まりましたが、日本国内で物資を運ぶなら、太平洋を回っていくよりも、日本海の方が近い。そこで活躍したのが北前船で、日本海航路の真ん中に位置する佐渡島は北前船の寄港地として重要な役割を果たしました」と解説しました。

 また、中国・ロシアの視点でこの地図を見ると「太平洋に出ようとするとき日本はとても邪魔な存在。逆に、冷戦時の米国から見ると、日本列島は浮沈空母。戦後、日本は繊維、鉄鋼、自動車、半導体など米国のスネをかじり続けて成長してきたわけですが、米国が日本を甘やかしてくれた理由が分かるでしょう。今後、米国と中国・ロシアが自由に行き来するようになれば、日本の地政学的価値は低下するかもしれません」との見方を示しました。

「デフレの正体」や「里山資本主義」などの著書がある藻谷先生

 藻谷先生は、米国と近い太平洋側の地理的優位に言及する一方、今後は中国の台頭などにより、「日本海側の交易ルートの価値が見直される可能性があります」と話しました。

 出口先生は「地図は逆さまにしてみたり、回してみたりして、四方八方から眺めるととても面白い。いろんな見方をすれば、世界の見え方も変わってくる。今、日本海で大きな港は韓国・釜山や中国・上海です。国を忘れて地形だけを眺めてみると、どのように動けば面白いことができるか考えることができるでしょう」と、世界が大きく変化していく中でどう行動すべきかのヒントを提示していました。

「幸せを産む働き方」とは

 2時間目の科目は「幸せを産む働き方」。「『働き方』の教科書」などの著書もある出口先生はまず、こんなエピソードを紹介しました。

 20代で一緒に起業した男女。毎日夜中まで働き、会社は大きくなりました。しかし、体はくたくたで、遊びにも行けず、けんかも絶えません。30歳を迎えた時、2人は、本当はどんな生活がしたいか話し合いました。「月に数回、外食しておいしいものを食べたい」「年に1、2回、海外旅行に行けるといいな」。それをかなえるために仕事をセーブすると、売り上げは落ちましたが、体調は改善し、けんかもなくなったのだそうです。

 そんな話を紹介した上で、出口先生は「仕事なんてどうでもいいもの」と主張。「働き過ぎといわれる日本人でも労働時間は年間約2千時間。1年を時間に換算すると8,760時間で、残り6,760時間は別のことをしています。全体の4分の1にも満たない仕事なんてどうでもいい、というのが僕の基本的な考え方」だとして、「仕事が人生の全てなどと考えると、上司の顔色をうかがったり、空気を読んだりして、ひどいケースでは心身に変調をきたしてしまいます。どうでもいいことだと割り切ることができれば、逆に、自分のやりたいように思い切り仕事にチャレンジできます」と力説しました。

 そして「ライフとワークのバランスは、人生の時期や置かれた状況によっても異なるので、『今年はこれぐらいのバランスでいこう!』とそれぞれに考えればいいのでは」と語り掛けました。

“生徒”たちとインタラクティブに授業

 これに対して平島校長は「私は、2千時間は長いと感じます。仕事も含めて全部を楽しみたい」と話しました。また、平島校長は会場の“生徒”に対して「幸せに働いていますか?」などと質問を投げ掛け、生徒たちが意見を述べ合いました。

 最後に出口先生は「人の顔がそれぞれ違うように、幸せの定義も人それぞれ。そんな中で、『苦しくない』『苦痛じゃない』ということは幸せの大切な要素だと思います。世の中には理不尽なことがたくさんあります。それを楽しめるかどうか。そういう力も幸せを左右します。生真面目になりすぎず、笑いやユーモアも大事にしてほしいですね」と、幸せに生きるコツを伝授して2時間目を締めくくりました。

大人になると、なぜか友達をつくるのが下手になる

佐渡の活性化策について発表した佐渡高校の生徒たち

 最後の生徒総会では、佐渡高校の生徒たちが「佐渡をテーマパークに!!〜カジノで照らす佐渡の未来〜」と題したプレゼンテーションを行った他、自由な意見交換などが行われました。

 中でも、学校蔵の特別授業に当初から関わってきた?木(もてぎ)崇史さん(株式会社BOLBOP社長)の話は、学校蔵の魅力の一端を分かりやすく伝えていました。?木さんは、マッキンゼーアンドカンパニーなどに勤めたあと、東日本大震災をきっかけに会社を辞め、気仙沼で復興に向けた活動を行っていました。そんな頃に東京で尾畑さんと偶然の出会いがあり、協力するようになったそうです。

学校蔵の特別授業に当初から協力してきた?木さん

 「僕自身がなぜ毎年ここに来るのかといえば、人に会いに来るのであり、同窓会に来るような気持ちです。美しい自然というだけなら全国にあります。結局、そこに誰がいるか。人が介在して、その人に会うために来る。ここに集う人が増えるのを楽しみにしながら頑張っています。幸せとは、何をやるかより、誰とやるか。いい仲間と一緒なら、何でも楽しめます。今日、校門での交通整理をしながら、そんなことを感じました」(?木さん)

 これを受けて出口先生は「長く続く飲み会は、幹事がしっかりしていて、店も決まっている。続かない飲み会は、幹事が輪番。地域おこしも会社も、核となる人や場所が必要なのです。求心力となる人や場所をどうつくるか。人は1人でなくてもいい。佐渡には学校蔵という素晴らしい“ベースキャンプ”があり、素晴らしい校長先生と学級委員長がいる。これをどううまく使っていくかが大事ですね」と答えていました。

 特別授業を終え、会場を移して行われた懇親会の最後に、尾畑学級委員長が「子どもの頃は一緒に遊べば友達になれました。でも、大人になると、なぜか友達をつくるのが少し下手になる。ここは学校なので、自然と友達が増えていきます。友達ができると、相手のいいところを見つけるのと同時に、自分のいいところにも気付くことができます。自分の可能性が見つかれば、希望が生まれます。そんな希望に満ちた島にしたい。そこに学校蔵が何かのお役に立てればうれしいです。佐渡は課題先進地ですが、それを越える希望があります。これからも皆さんには応援団であってほしいと思います」とあいさつすると、会場からは大きな拍手が湧き起こりました。

“化学反応”の連鎖で、地域の未来が変わる

 学校蔵プロジェクトでは、特別授業にとどまらず、今年8月、初の試みとして「夏休み登校日&夏期講習」を開催。「離島発 イノベーションの創り方〜人と食とテクノロジーの共生を考える」をテーマに、人工知能(AI)研究者の石山洸さん、「dancyu web」編集長の江部拓弥さんがさまざまな提言を行いました。特に「佐渡を車の完全自動運転の実験の場に」というアイデアには、会場からも多くの意見が出て大いに盛り上がりました。

 尾畑学級委員長は「“化学反応”とは、気付きを得て発想が変わること。発想が変わればアクションが変わる。アクションが変われば未来が変わります」と明るく語ります。

 日本にもさまざまな課題が山積していますが、学校蔵で生まれているような化学反応が各地で生まれれば、日本の未来も大きく変わるかもしれません。かつて日本を象徴する鳥とも呼ばれたトキ(学名:ニッポニア・ニッポン)が、佐渡島の人々の地道な活動によって、絶滅の危機から見事に復活を遂げたように。

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