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離島の廃校で学ぶ酒造りとまちづくり(第3回)

日本酒の輸出戦略から探るグローバル展開のヒント

 日本酒のマーケットはピークだった1970年代の3分の1にまで縮小し、依然として微減が続いています。

 ところが、海外に目を転じると、違った景色が見えてきます。日本酒の輸出は7年連続で過去最高を記録。市場規模はこの10年で2.5倍に拡大しているのです。

 そしてここ数年、海外で外国人が清酒を醸造する動きが広がりつつあります。一見、日本酒の輸出と競合するようにも見えるこの動き。実は、日本酒が「世界酒」へと飛躍する強力な追い風になると期待されているのです。

「東京をゴールにしない」という戦略転換

 日本酒(清酒)の販売(消費)数量は、1975年度に約168万klだったのが、他のアルコール飲料との競合などにより、2015年度には約56万klと3分の1にまで落ち込んでいます。(国税庁「酒のしおり」2017年3月)

 一方、輸出については順調に推移しており、2016年の輸出数量は約2万kl(一升瓶換算で約1,100万本。対前年比108.6%)と、この10年でほぼ倍増。輸出金額は約156億円(同111.2%)と、この10年で約2.5倍の伸びを示しています。(国税庁「酒類の輸出動向について」2017年2月)

 尾畑酒造は、佐渡島という離島にある小さな酒蔵ですが、2003年と比較的早期に輸出を開始し、現在では19カ国・地域にまで拡大。輸出に注力した理由の1つとして尾畑留美子専務は「東京の市場を目指すことが、パイを奪い合う消耗戦に思え、限界を感じました。その時、世界のマーケットに目を向けたらパーッと視界が開けたのです」と述べています。

“世界標準”の世界地図を背にする尾畑酒造の尾畑留美子専務

“世界標準”の世界地図を背にする尾畑酒造の尾畑留美子専務

 「地方、特に離島から東京をゴールにすると、どうしても運賃や時間のハンディがあります。しかし、世界を市場として見ると、そんなことは小さなこと。むしろ『島』だからこその風土や文化が、貴重な個性になると実感しています。地方も直接、世界の市場とつながっていることを考えれば、地方にいることは、ちっとも怖くありません」(尾畑専務)

 尾畑酒造のように、直接海外に輸出する地方の酒蔵も少しずつ増え始めていますが、その一方、日本酒の輸出は国内生産量全体の約3%にすぎません。海外での日本酒の認知度はまだ限定的で、多様な食文化に合わせたマリアージュの提案など課題も多いのが現実です。

 しかし裏返してみれば、まだまだ新たなマーケットを切り開いていく可能性があふれています。そこには、競争過多ともいわれる国内市場とは違ったブルーオーシャンが広がっていることも期待できます。和食のユネスコ無形文化遺産登録や東京オリンピック・パラリンピックの開催など、日本酒の魅力を世界に伝える絶好のチャンスも控えています。

海外でじわりと広がる外国人醸造家による“JIZAKE”造り

 そして今、海外で新たな潮流が生まれようとしています。外国人醸造家がマイクロブリュワリーで酒造りを始めるケースが見られるようになってきたのです。

 尾畑専務によると、海外で外国人醸造家が酒を造る取り組みは、アメリカ、カナダ、ノルウェー、スペイン、メキシコ、オランダ、イギリスなどにあり、さらに準備が進行中のプロジェクトも複数あるそうです。

 「ワインが世界に広がった背景を考えてみても、第三世界、ニューワールドでワインが造られ始めたことが、世界的なワインのマーケットの創出につながったと思っています。海外ローカルの人が、現地の視点で日本酒の魅力を発信してくださることは、日本酒を世界に普及させていく上で、日本人によるPRとはまた異なる影響力があるはずです」(尾畑専務)

 新潟県醸造試験場の金桶光起場長(農学博士)も「外国で清酒が造られるようになると、日本から輸入された物は“本物の日本酒”として1つ上のランクになり、価値が高まります」と期待を込めて話します。

 こうした事例は、日本の伝統産業はもちろん、グローバル展開をめざすビジネスにもさまざまな示唆を与えてくれるものといえそうです。

外国人醸造家が日本へ酒造りを学びにやって来る

「SAKE」に関する自著を手にするアントニオさん

「SAKE」に関する自著を手にするアントニオさん

 海外で広がりつつある外国人醸造家の一人がスペインのアントニオ・カンピンスさん。もともと実業家だったアントニオさんは2016年2月、ピレネー山脈の麓、カタルーニャ州の村で清酒造りを始めたそうです。若い頃から日本文化、中でも和食文化に関心があったアントニオさんは2005年、ドイツで「本物の日本酒」に出合い、「ワインとはまた違った、謙虚で秘めやかな、いろいろな食事を引き立てるお酒で、これは素晴らしい!と感激しました」。

 以来、日本酒に魅了され、日本の酒蔵を訪ねるなど勉強を重ねながら、2008年には日本酒の本を出版。それをきっかけに、さらに日本人や酒蔵との縁が広がり、スペインにも正しい日本酒の知識を広めたいと、大学で日本酒に関する講義を行ったり、利き酒会やマリアージュのイベントを開いたり、レストランのソムリエやシェフに日本酒の魅力を伝える活動を行ったりするようになったそうです。まさに日本酒の“伝道師”です。

 そのうち自分で造りたくなり、2015年に酒造りのための会社を設立し、準備期間を経て2016年2月から醸造を開始。生産規模は、720ml瓶にして年間約2千本で、「絹の雫」と名付けました。

 そして昨年10月、「友人を介して尾畑さんとバルセロナで出会い、『学校蔵』のことを聞きました。日本酒造りはミステリアスな部分が多く、自分の造り方に疑問もあったので、酒造りの現場を実際に見てクリアにしたいと思い、その場で『行こう!』と決めたのです」(アントニオさん)。

 尾畑酒造が運営する「学校蔵」では、本格的な酒造りを、1週間にわたって体験しながら学ぶことができます。国内にとどまらず、海外からも体験希望者が訪れることについて、尾畑専務は「異文化を持つ人が学校蔵に集い、酒を通して交流することで、私たち自身も学ぶことが多く、新しい視点も持つことができます。そして、海外産の“JIZAKE”によって、メイド・イン・ジャパンの日本酒の魅力を再発見できると思っています」と語ります。

 日本酒の醸造技術は、世界でも類を見ないほど高度だといわれています。学校蔵では今夏、先人たちの知恵が詰まった酒造りに最先端のICTを活用する取り組みを開始しました。伝統的な酒造りの技にICTを融合させる学校蔵の新たなチャレンジについては次回、紹介することとします。

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