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2017.05.10 (Wed)

地方振興の事例から、ビジネスのヒントを学ぶ(第1回)

ハワイは人工的に作られた“楽園”だった

posted by 味志 和彦

 太平洋に浮かぶアメリカ領の島といえば「ハワイ」です。青い海と椰子の生い茂る白いビーチ、フラダンスやウクレレといった“楽園”的なイメージは、日本でも広く浸透しており、海外旅行の定番ともいえる土地です。

 しかし、そうしたハワイの“楽園”のイメージは、近代に人為的に創られたものです。ハワイはもともと観光地ではありませんでしたが、観光地であることを意図的に宣伝することで、世界有数の観光地となったのです。

楽園どころか「出稼ぎ」の土地だった

 もともと日本にとって、ハワイは名の知れた存在でした。しかしそれは、「観光地」という意味ではなく、「働く場所」という意味においてです。「優雅に楽園を楽しむ」どころか、サトウキビやパイナップル畑の労働者として出稼ぎに行くような場所でした。劣悪な条件で、労働者が酷使されるケースも少なくなかったといいます。

 明治時代に日本に流入するハワイの情報のほとんどは、現地での仕事や暮らしに関するもので、いわば「就業案内」に近いものでした。アメリカへの海外視察でハワイに立ち寄った福沢諭吉も、「刺激が少なく、特筆するような文化も無い」と、その印象を書き残しています。

 当時のハワイには「魅惑的なリゾート地」などどこにも存在していませんでした。今では観光名所となっているワイキキビーチも、そのころは魚の養殖地であり、近くにはタロイモ畑や水田が点在していました。ちなみに「ワイキキ」とは、現地語で「水の湧き出るところ」という意味です。元々は湿地で、ヤブ蚊の害がひどい土地でした。

ワイキキビーチの白い砂の秘密

 ですがハワイは、1960年頃から大きく変わります。

 もともとハワイは独立国家でしたが、1898年にアメリカ領となり、1959年にはアメリカ50番目の州となりました。これを契機に、欧米の資本家たちは、ハワイをサトウキビ栽培などの第一次産業から「観光」を主産業にしようと、明確なコンセプトを定めて開発を行いました。ハワイの観光化には、もともと植民地政策的な側面があったのです。

 島の沿岸には、港湾や人工運河が整備され、灌漑設備も普及し、不衛生な湿地は姿を消しました。大規模な区画整理で島中に道路が走り、山の頂上付近までドライブできるようになりました。

 ワイキキビーチも姿を大きく変えました。溶岩に由来する玄武岩の黒い砂利が散らばっていたビーチには、他の島や遠いカリフォルニアから白砂が運び込まれました。ビーチ沿いには、著名な建築家がデザインした豪華なホテルが林立。豪華客船の定期運航便も就航され、多くの億万長者が足を運ぶようになりました。

 ハワイはハリウッドの映画にも度々登場しました。髪に花を飾ったエキゾチックな美女がフラダンスを踊り、青い海のサーフィン、珍しい果物、カクテル、浜辺のロマンチックな恋愛模様が、銀幕で繰り広げられました。またラジオでも、波の音を背景にハワイアン・ミュージックが度々流れました。

 日本でも、戦後はハワイに対する「楽しく魅力的な観光地」というイメージが浸透。第二次世界大戦前までの「労働移民する場所」から、「憧れのハワイ」へと変貌していきました。

魅力的でないなら、魅力的になるように変えればいい

 ハワイは、何年にも及ぶ投資の末に、太平洋の漁村は、夢のような別世界へと変わっていきました。たとえワイキキビーチのようにシンボルとされるような場所でさえも、「天の恵み」ではなく、あくまで「人が為した」人工の地だったのです。

 こうした例は、何もハワイだけではありません。たとえば、シンガポールも同じです。

 シンガポールはもともと、汚職や犯罪がはびこり、また水質汚染により衛生環境も芳しくない街でした。しかし、清潔で近代的な都市にするという強力なポリシーの下に都市作りが行われました。シンガポールでは道に唾を吐くと罰金刑を受けますが、こうした厳しい衛生基準は、かつての悪いイメージを払拭するための取り組みのひとつです。

 ハワイも最初から自然環境や観光資源に恵まれていたわけではありません。世界中の人が集まる“楽園”にするために、明確な意図を持った人がいたから、変えられたのです。南海に浮かぶ、これといった取り柄のなかった島は、今では世界中の金持ちが移住してくる有望なリゾート地となり、世界中の観光投資マネーが集まる場所となっています。

 何も無いならば自分で作ればいい、魅力的でないなら魅力的になるように動けばいいだけです。日本にも「これといった観光資源がない」「人を集める要素がない」という悩みをかかえた地域があるかもしれませんが、ハワイのように確かな意図を持って取り組めば、やがて人が集まってくることでしょう。

参考文献
・矢口祐人『憧れのハワイ 日本人のハワイ観』 論新社
・中嶋弓子『ハワイ さまよえる楽園』東京書籍
・ハロラン芙美子『ホノルルからの手紙』中公新書
・スザンナ・ムーア『神々のハワイ』早川書房

味志 和彦

味志 和彦

佐賀県生まれ。産業技術の研究者を経て雑誌記者など。現在コラムニスト、シナリオライター。

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