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2017.09.11 (Mon)

海外発ビジネス最前線(第6回)

複雑化した米国の医療保険を救うAI

posted by 前田 健二

 米国の医療保険には、日本の国民健康保険のような公的な医療保険が存在しません。その代わりに個人や勤務先の企業が、民間の保険会社から医療保険を購入する仕組みになっています。米国は保険会社ごとに独自のプランを提供するので、商品は多種多様かつ複雑な条件が絡み合う混沌とした様相を呈しています。そのため、自分に適した医療保険を探すのに労力をかけても、ベストなものが見つけられるとは言い切れない状況です。

 その医療保険選びにAI(人工知能)を活用するというビジネスが登場しました。開発したのは「ジョアニー」という企業です。

非常に複雑な米国の医療保険システム

 民間主導である米国の医療保険システムでは、多くの人が勤務先の契約している民間医療保険を購入しています。一方、そうした医療保険を購入できない人は、予算や条件に合わせて保険プランを自分で選択します。保険選択のための情報は複雑かつ膨大で、消費者は保険会社や保険プランの選択に相当の時間をかけています。

 また、オバマケア(医療保険購入時の条件緩和や、購入していない者への追加税による罰金など)の影響で医療保険の間口が広がったこともあり、消費者が選択上の混乱に直面する機会が増えてきています。

 「ジョアニー」は、消費者に代わって最適な医療保険プランを選択するプラットフォームです。企業名もジョアニーとなっており、クリスティン・キャリオ氏とヘレン・リー氏という2人の女性起業家兼ソフトウエアエンジニアによって立ち上げられました。その事業目的は「医療保険の購入時の負担を軽減」です。こうした観点の企業が出現するほど、米国の医療保険システムは、複雑なのです。

簡単な入力でAIが最適な保険プランを選択

 ジョアニーの使い方は簡単です。まず、自分の居住地の郵便番号(ZIPコード)、年齢、配偶者の年齢、扶養者数などを入力します。続けて、家族に通院中の人がいるか、年内の通院予定数、政府からの助成金受給資格有無、年収などの情報を入力します。

 入力が終わるとジョアニーが最適なプランを提示します。保険料、病院窓口での自己負担額、自己負担最大額などが表示され、プランが気に入ればワンクリックで申し込みが完了します。

 ジョアニーが採用したのはディープラーニング型AIです。高度な予想モデリング機能に基づいて、AIが消費者に最適な保険プランを導き出しています。ジョアニーのAIは、既存データをベースに被保険者が支払う窓口負担額や保険料などの金額をディープラーニングにより高い精度で予測、人間では不可能な次元のお勧め案を提示してくれます。

 ジョアニーが現在の医療保険に関して満足度調査を行ったところ、調査対象となった人の52%は現在加入している医療保険に満足していないという結果になりました。また、46%が予想していなかった医療費の請求書を受け取った経験があり、78%が最適な医療保険を選択するためのアドバイスを受けたことがないと答えています。

 別の言い方をすると、もはや人間の手では最適なプランを提案することが困難なレベルにまで、米国の医療保険はカオス化しているのです。

 同社のビジネスモデルは、ジョアニーのシステムに参加している保険会社から紹介手数料をもらう仕組みです。紹介手数料は平均で保険加入者1人当たり月12ドルだそうです。

 ジョアニーの分かりやすいビジネスモデルは投資家からも評価され、これまでに複数のベンチャーキャピタルや個人投資家から総額で1918万ドル(約20億円)という投資を集めています。

 ジョアニーのビジネスの仕組みには、特別な仕掛けなどありません。ホテル予約紹介サイトなどと同様のビジネスモデルですが、消費者が保険に加入し続ける限り紹介手数料が得られることと、その市場規模の大きさを鑑みるに、極めて有望なビジネスであるといえるでしょう。

医療品質やコスト、交通アクセスにも変化はあるのか?

 米国の医療は、医療品質、コスト、アクセス(どの病院にかかるかを選ぶこと)の3つは両立できないといわれています。それぞれはトレードオフの関係にあり、特にコストに対して品質とアクセスは対立関係にあります。

 ジョアニーは、複雑怪奇な米国の医療保険システムの世界において、消費者に代わって保険プランを比較検討し、未来予測モデルに基づいて最適プランを提示するという、消費者の側に立ったビジネスを展開しています。このことは、保険会社に対して医療品質の改善、アクセスの向上、コスト削減を促す効果を生じ、長期的には消費者にとってさらなるプラスの影響をもたらす可能性があります。

 ガン治療薬などのハイテク薬や先端医療機器の開発などにより、米国の医療費の高騰はいまだ続いています。米国では日本と異なり自由診療ですので、今後も膨張し続ける可能性は高いだろうと見られています。

 しかしジョアニーで医療保険に加入した人は、平均で年間4000ドル(約43万円)の保険料を削減しているそうです。ジョアニーのようなAIスタートアップ企業が、米国の消費者の負担を少しでも減らせそうなのが、せめてもの救いになっています。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年8月19日)のものです

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前田 健二

前田 健二

フリーライター。大学卒業後渡米し飲食ビジネスを立ち上げ、帰国後海運企業、ネットマーケティングベンチャーなどの経営に携わる。2001年より経営コンサルタントとして活動を開始。現在は新規事業立上支援を行っている。アメリカのビジネスに詳しく、特に3Dプリンター、ロボット、ドローン、IT、医療に関連したビジネスを研究、現地から情報収集している。

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