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2017.01.18 (Wed)

子供たちが熱狂! 懐かしのヒット商品の裏側(第4回)

子供達を熱狂させた「ガチャガチャ」が世界を動かす

posted by 味志 和彦

 コインを入れて、レバーをガチャっと回すと、カプセルに入った景品が出てくる「ガチャガチャ」(ガシャポン、カプセルトイ)。ゴロッと出てきたカプセルを手にし、「何が出てくるのか……?」と、駄菓子屋の一角で胸を高鳴らせた経験を持つ人は多いでしょう。

 しかし、ガチャガチャは“懐かしの一品”ではなく、今でもビジネスの現場で活躍する「現役」のヒット商品です。その市場規模は300億円を超えるほど成長しています(一般社団法人 日本玩具協会調べ)。

 なぜガチャガチャはここまで大きな市場に成長したのでしょうか? その歴史を紐解きます。

置いておくだけで稼げるスグレモノ

 ガチャガチャはもともと、ガムやキャンディを販売する機械として、1960年代にアメリカから輸入されました。コインを入れ、レバーを回すことで、球体のガムやキャンディが出てくるというシンプルな構造は現在も変わりませんが、全国に普及するにつれ、球体のカプセルの中に玩具を入れるという発展を遂げていくようになります。

 最も爆発的な人気を呼んだのが、漫画「キン肉マン」の人気キャラクターを象った消しゴムをカプセルの中に入れた「キンケシ」人形です。1983年から発売されたこのキンケシは社会的な大ブームとなり、現在まで累計1億8,000万個販売されたといいます。こうしたブームの中で、ガチャガチャは日本文化の中に着実に根を下ろしました。

 なぜガチャガチャが日本で普及したのか、その理由のひとつに、「コスト」面の優秀さが挙げられます。一度設置すれば、あとは放置するだけ。朝晩関係無しに働いても、文句を言うこともありません。もちろん初期投資費用は必要ですが、大した値段ではありません。ジュースの自動販売機のように光熱費やメンテナンス料もいりません。残り少なくなったカプセルを補充するだけで運用できます。

 もちろん、店番をする人件費も要りません。「当たらない」場合も、カプセルの中身を替えれば何度もチャンスが作れます。ガチャガチャ普及の大きな理由の1つに、「投資リスクの低さ」があるといえるでしょう。

コストと大きさの制約が「尖った商品」を生む

 投資リスクの低さに加え、「商品力」がシビアに判断されることも、ガチャガチャの特徴のひとつです。

 ガチャガチャは「景品を小さなカプセルに入れる」「1回当たりの料金は数百円」という、大きさとお金という2重の制約があるため、チープでありつつも、誰もが欲しがるようなものを考え出さねばなりません。つまり、「いかに優れた付加価値をつけるか」が勝負の決め手となるわけです。

 この商品力が最も発揮されたガチャガチャの景品のひとつが、奇譚クラブという玩具メーカーが手がけた「コップのフチ子」シリーズです。2012年に発売されたOL姿の人形は、コップのふちにつけるアクセサリーとして、大人の女性にも大ヒットしました。販売数はシリーズ累計で700万個を超え、写真集やイベントまで開催されるほどの人気となりました。

 コストや大きさの制限があるからこそ、逆に普通の玩具メーカーからは生まれてこない特徴的な商品も生まれてくるのが、ガチャガチャの魅力のひとつでもあります。

景品ではなく、ガチャガチャという「経験」にお金を使っている

 ガチャガチャはまた、「商品は売り方によって差が出る」というビジネスの本質を身をもって分からせてくれるツールでもあります。

 ガチャガチャは望みどおりの商品が出てくるわけではありません。たとえば前述の「コップのフチ子」には、1シリーズ当たり約7パターンのデザインが用意されていますが、全パターンを揃えるのは簡単なことではありません。同じデザインがカブることもしばしばあります。そのため、散々お金をつぎこんだ後で「普通に買った方がマシなのでは?」「この商品にここまでお金を使う必要があったのか」と冷静になることもあります。

 これは、縁日の屋台でお金をはたくのと同じ原理です。我々は、景品を買っているのではなく、ガチャガチャという「経験」にお金を使っているのです。

 経済の世界には、経営コンサルタントのB・J・パインII氏とJ・H・ギルモア氏が提唱した「体験経済」という概念があります。これは「商売の本質は、物ではなく体験を売っている」という考え方で、原価1セントのコーヒーも、高級カフェでは5ドルで売れるといったことがその例です。

 「体験」は私たちを強く引き付けます。ガチャガチャを回すときには、スリルと興奮、幸運を期待する心情があります。そのため、たとえガチャガチャで人気の景品であっても、店頭で販売したとしたら、必ず売れるというものではありません。キンケシも、あくまでコレクション欲とガチャガチャが組み合わさり、「どのキャラクターが出るか?」というワクワク感を付加したからこその大ヒットなのです。

「ガチャガチャ」でコモディティ化した価値を見直すべし

 ガチャガチャはとかく「子供向け」と扱われがちですが、実際にビジネスに有効活用している例は数多くあります。

 たとえば某高級ブランドは、「靴紐」をガチャガチャで販売するというスタイルを採用しています。東京国立博物館でも、埴輪、青銅器等々の「考古学コレクション」をガチャガチャの景品とし、人気を呼んでいます。最近では、空港に設置されたガチャガチャを、外国人旅行客が利用しているというニュースも話題となりました。帰国の際に余った小銭が利用されているようです。

 ゲーム業界でも、ゲーム中のくじ引きを「ガチャ」と呼ぶことが一般化しています。「○万円課金してやっとレアなキャラクターをGETした」のような、現実のガチャガチャと同様のビジネスが、ゲームの世界の中でも展開されているのです。

 ガチャガチャは単なる子供の遊びではありません。世界中の人々が熱狂するビジネスモデルのひとつなのです。あらゆるものがコモディティ化し、「付加価値」の重要さが叫ばれる昨今、「ガチャガチャ」に秘められた可能性を、改めて見直してみてはいかがでしょうか。

味志 和彦

味志 和彦

佐賀県生まれ。産業技術の研究者を経て雑誌記者など。現在コラムニスト、シナリオライター。

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