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2016.12.28 (Wed)

子供たちが熱狂! 懐かしのヒット商品の裏側(第3回)

シンプルなゲーム「オセロ」を普及させた戦略とは

posted by 味志 和彦

 1973年に発売された、黒と白の駒を使ったボードゲームといえば「オセロ」です。発売当初は10年で50万個を販売するという目標でしたが、初年度だけで売り上げは30万個を突破し、3年後には250万個に達しました。今や愛好者は世界70カ国にまで及んでいます。

 世には数多くのボードゲームがありますが、なぜここまでの大ヒットになったのでしょうか?

昔からあったゲームを少しだけ変えて大ヒット

 オセロには元となるゲームがいくつかあります。たとえば、「裏返す」言葉にちなむ「リバーシ」というゲームや、黒と白ではなく、赤と白の駒を用いた「源平碁」などがあります。

 オセロの発案者である長谷川五郎氏も、著書で上記のゲームが「源流」と述べていますが、駒の色や盤のデザインも一定ではなく、ゲームによってはルールがあいまいだったようです。

 ここで長谷川氏は一工夫します。ボードの目の数を基本は8マス×8マスの全64マスとし、開始は中央に対角線式におくことを、明確にルールとして定めました。ネーミングは「オセロ」とし、駒の色は黒と白、盤面は緑色に統一しました。オセロの名前は、五郎氏の父親が、シェイクスピアの戯曲「オセロー」から推薦したといいます。

 結果的に、オセロは大人気になりました。特に長谷川氏は、女性も気軽に楽しんでいるのを見てヒットすると確信したそうです。実は長谷川氏は、以前に身近な女性に囲碁やチェスのルールを教えようとして「面倒くさい」「難しい」と言われて失敗した経験があったといいます。

 「はさんで取るだけ」というシンプルなルールは、海外でもあっという間に浸透。「ゲーム界のエスペラント(万国共通語)」と呼ばれるほどでした。アメリカのTIME誌は「チェス以上のゲーム」と評し、チェスチャンピオンとの戦いはBBCで放送されました。

「情熱がないと普及しない」長谷川氏の戦略とは

 とはいえ、シンプルだから普及した、というわけではありません。長谷川氏自身は自著で「広めようという情熱がないと普及しない」と述べているように、普及のためにはあらゆる手を尽くしました。

 たとえば長谷川氏は、自らオセロ連盟を立ち上げ全国大会を開催し、何冊もオセロ紹介の本を出版しました。さらに、オセロの魅力にはまった玩具会社の社長から、長期契約で販売協力の確約を得ました。さらには大会の後援も得ることができ、店頭で人々にプレイしてもらうことで、アピールの場を広げていったのでした。有名人に取り上げられたのがきっかけでYouTubeの動画が大ヒットする事例があるように、人々に認知させる戦略は不可欠なのです。

 その後、定石や勝ち方の研究本も何冊も出版され、海外でも翻訳されて出版されました。やがてオセロの「段位」や「名人」といった称号も生まれました。長谷川氏は、積極的にメディアを活用し、競技者の輪を広げることで、愛好の火が消えないようにしたのです。

 さらにいえば、知的財産対策に抜かりの無かった点も評価されるべきでしょう。人気商品は模倣によって浸食されるのが世の常ですが、オセロの場合は、早期に商標登録を済ませることで、オセロのデザインと名前が乱用されるのを防ぎました。結果としてブランドは独占され、リバーシでも源平碁でもなく、オセロが圧倒的な知名度で勝利したのです。

名誉を得られるのは、必ずしも「最初の人」ではない

 オセロの長い歴史の中には、リバーシや源平碁の模倣品だと揶揄されたこともありました。確かに「元ネタ」がある以上、それは仕方ない面があります。

 しかし産業史を見れば、この手のことは珍しくありません。たとえば「トランジスタ」といえば、アメリカのベル研究所の発明品です。しかしながらソニーがトランジスタ・ラジオやウォークマンで大成功したために、一時は「トランジスタ」と言えばソニーが連想され、今でもソニーの発明と思っている人がいます。

 また白熱電球の発明においては、エジソンの前に何人も貢献した科学者達がいます。「エジソンは初の発明者ではなく、最後の発明者だ」という評論家もいるぐらいです。しかし「実用化」に功績があり白熱電球の「市場」で大成功したこと、それに伴うメディア報道によって、「電球の発明者」と言えばエジソンのことを思い浮かべるようになりました。

 元ネタがあったにもかかわらず、この安価なゲームセットは、世界各国で最低でも6億ドル以上の売り上げを出しました。ビジネスで成功し、名誉に輝くのは、必ずしも「最初の人」ではありません。長谷川氏のような「普及させた人」だって輝けるのです。

 「ウチの商品はオリジナリティが無い」といって、諦めてはいけません。たとえ似たような製品があったとしても、オセロのように少しだけ視点を変え、普及のための努力を怠らなければ、ヒットにつながる可能性は十分にあるといえるでしょう。

参考文献

増川宏一『盤上遊戯の世界史 – シルクロード 遊びの伝播』平凡社
増川宏一『盤上遊戯』法政大学出版局
長谷川五郎『オセロの打ち方 – 勝つための基本戦術』講談社
長谷川五郎 『オセロ百人物語 オセロ史を飾った名選手たち』河出書房新社
長谷川五郎 『オセロゲームの歴史』河出書房新社
レトロ商品研究所編『国産はじめて物語 Part2<1950〜70年代編>』ナナ・コーポレート・コミュニケーション
一般社団法人日本オセロ連盟

2016.12.13

味志 和彦

味志 和彦

佐賀県生まれ。産業技術の研究者を経て雑誌記者など。現在コラムニスト、シナリオライター。

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