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2018.03.12 (Mon)

デキる上司になるための「仕事の流儀」(第8回)

オーケストラの指揮者に学ぶリーダーシップ術

posted by 山田 尚明

 オーケストラの指揮者は、楽団員のそれぞれの役割を活かしながら、1つの音楽を創り出すリーダー的存在です。その仕事ぶりは、会社組織で成果を上げるために部下の能力を活かそうとしているリーダーの姿と似ています。

 本記事では、海外のモントリオール交響楽団、北ドイツフィルハーモニー管弦楽団、モスクワ放送交響楽団などのオーケストラで指揮者として数々の実績を残し、現在はセントラル愛知交響楽団の名誉指揮者である小松長生(こまつちょうせい)氏の著書『リーダーシップは「第九」に学べ』から、指揮者に必要なリーダーシップを紹介します。

「俺が全部やる」の指揮者はうまくいかない

 小松氏は、指揮者の仕事が「楽譜を読みこなす」「完成すべきものをイメージする」「それをもとに楽団員を指揮する」からなるとしています。楽譜を読みこなし、完成すべきものをイメージするためには、指揮法や各楽器の知識、音楽理論、音楽史、語学などの幅広い知識が必要とされます。

 そして完成イメージを楽団員に伝えて指揮するには、信頼関係が大切です。指揮者は自分で楽器を演奏するわけではありません。しかし、楽団全体という「楽器」を指揮することで、音楽を創り上げるからです。

 楽団員たちは、それぞれの楽器で研鑽を積んできたプロです。楽団員の立場からすると、自分たちの力を引き出して、演奏をリードしてくれるプロの指揮者=リーダーを求めています。

 しかし指揮者だからといって「全部俺が指揮してやるんだ」という姿勢で指揮棒を振っても、オーケストラは力を発揮できないと小松氏は述べています。ときには指揮者が楽団員をサポートしながら演奏レベルを引き上げる、またあるときには楽団の自主性に任せることも必要と述べています。

 小松氏は「自分がやらないといけない」と考える指揮者は、楽団員を信用していない側面を持ち合わせている可能性があるとしています。指揮者には、リードするか、任せるかを見極める力が必要です。任せるには、楽団員を信頼して指揮棒を振らなければなりません。

指揮者は楽団員に目標を示す力が必要

 指揮者を目指していた頃の小松氏は、恩師に言われた「指揮者という仕事はリハーサル能力である」という言葉から仕事内容を理解したと述べています。オーケストラでは、演奏会の前に必ずリハーサルを行います。指揮者は、リハーサルを通じて楽団の能力や個性を理解した上で、自分の意図や目標を伝えながら、音楽を完成させていきます。

 リハーサルは、演奏レベルを目標まで達成させる場となります。指揮者は、楽団員に目標を理解してもらうため、リハーサルではコミュニケーション能力を発揮することになります。

 小松氏はリハーサルの流れを「複数の楽器による合奏などの技術難易度の高い箇所から押さえる」「通しの演奏で曲の全体像を把握する」「総ざらいをしながら細部に磨きをかけ、本番同様となる最終リハーサルで全体像をチェックする」という段階別に進めます。

 いきなり楽曲全体を通して演奏して、ダメなところで都度止めて指摘する方法では、メンバーが疲弊してしまい、結果として良い音楽はできません。まず難易度の高いところ、懸念があるところを集中的に取り組み、その後に曲全体を通すほうが、懸念事項が解決されているのでスムーズに進められるそうです。

 楽団員が懸念事項を理解していないまま楽曲全体を通したリハーサルを行うと、途中で曲を止めた段階では、指揮者の意図は理解できません。指揮者が先に技術的なポイントを伝えてから楽曲全体を通せば、スムーズかつレベルも高くなります。

さまざまなスタッフが関わるからこそ、コミュニケーションが大事

 また演奏会を創り上げるのは、指揮者と楽団員だけではありません。企画や宣伝、当日の運営を担当する事務局、そのトップの事務局長、音響や照明といった舞台スタッフと、それらをまとめるステージマネージャーというように、1つの演奏会には実にさまざまなスタッフが関わっています。

 また楽団員の中でも、音の出し方やテンポなどの技術的な指示や、指揮者が伝えきれない細かいニュアンスなどを楽団員に伝えてとりまとめる役割を果たすコンサートマスター、独奏・独唱を行うソリスト、合唱団などと、さまざまな役割に分かれています。

 さまざまな職種や役割の人がオーケストラで混在すれば、それぞれの立場が違うので考え方も違ってきます。そのため指揮者には、それぞれの立場の人に合わせたコミュニケーション力が求められます。たとえば、「力強いアプローチをしたい」とコンサートマスターに指示すれば、コンサートマスターが楽団員に技術的な指示や指導を行ってくれます。

 ソリストは大勢の前で独奏しなければならないため、孤独で精神的な負担も大きい立場です。指揮者が適切にアシストできるかどうかが鍵となりますので、小松氏は「一緒にやれる仲間だな」と思わせるために、打ち合わせのときにはあえて雑談を交えて楽しい雰囲気を作るそうです。

 指揮者にとっては本番やリハーサルの指揮だけでなく、コンサートの企画作りも大きな仕事です。具体的には、予算やオーケストラの編成などを考慮して企画をまとめる力が必要となります。たとえば演奏する曲目から奏者の選定、リハーサルのスケジュール、楽器や合唱団の配置などを決めなくてはなりません。さらに事務局や舞台スタッフなどをコーディネートして、舞台演出も考える必要があります。

 そのため、指揮者は多くの関係者とコミュニケーションを取り、相手によって適切にコミュニケーションの方法を変えなければならないのです。

自分たちが想像もしなかった高みに上がるための心

 指揮者に必要な、不安を取り除くためにサポートする、信頼して任せるという「リーダーとしてのあり方」、最終目標を見通して、難易度の高いパートからリハーサルを始める「リハーサル力」、立場の違う人と適切に接する「コミュニケーション力」という3つは、ビジネスにおける組織運営でも必要なものです。

 ビジネスシーンでは、日々の忙しさなどから、目標の全体の見通しが見えなくなり、周囲とのコミュニケーションが円滑に進まない、という停滞状態に陥ることがあります。結果的に苛立ちが生まれ、「俺が全部やる」という決断を下してはいないでしょうか。そういうときこそ、メンバーとコミュニケーションを取るべきです。

 小松氏は「チームメンバーが素晴らしい仕事をしたときには、我がことのように喜べて、祝福できる心。そんな心をもっていると、リーダーとチームメンバーが一体化し、自分たちも予想さえできなかった高みに上れるのだと思います」と述べています。

 もしオーケストラの演奏を聴く機会があれば、音楽とともに指揮者や楽団員、スタッフの動きや表情にも注目してみましょう。組織運営のヒントが見つけられるかもしれません。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年3月2日)のものです。

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小松長生『リーダーシップは「第九」に学べ』日本経済新聞出版社

山田 尚明

山田 尚明

大学院卒業後、メーカの営業企画部署にて5年半、カタログ・Web制作や展示会の運営などのプロモーションに携わる。その後IT企業にて1年半インターネット広告の運用を担当。現在はフリーランスとしてIT、ビジネス、健康、金融、ニュースなどさまざまなジャンルの記事を執筆するとともに、Webサイトの制作やコンテンツマーケティング、インターネット広告の運用などの業務を行う。

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