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2018.03.07 (Wed)

デキる上司になるための「仕事の流儀」(第7回)

臆病な小心者こそ、優れたリーダーになる資質あり!?

posted by 平島 聡子

 「優れたリーダーの条件は?」と聞かれて、「小心者であること」と答える人は、ほとんどいないでしょう。たとえば大胆な決断力や意志の強さ、物怖じしない社交性など、優れたリーダーの条件として思い浮かぶ資質は、およそ小心者とは真逆のものばかりです。

 しかし、日本を代表するタイヤメーカーであるブリヂストンの元社長、荒川詔四(あらかわしょうし)氏は、「小心者こそ優れたリーダーに育つことができる」と主張しています。

 経営者として世界150カ国、14万人を超える従業員を率いてきた荒川氏が、「一流のリーダーには臆病さ、繊細さこそが必要である」と考える理由を、著作『優れたリーダーはみな小心者である。』から読み取っていきます。

繊細な人は、困難を他人や環境のせいにできない

 荒川氏は自らのリーダーシップの芽生えとして、ブリヂストン入社2年目にタイ工場で直面した困難を挙げています。在庫管理を任されたものの、タイ人従業員には無視され、上司には突き放され、在庫は積み上がる一方、という逃げ道のない環境に追い詰められたとき、初めて困難に正面から向き合う心の持ち方を手に入れたのだといいます。

 困難を他人や環境のせいにして逃げるのではなく、自分事として受け止め向き合うという心の持ち方こそが、リーダーシップの出発点であるとしています。この出発点に立てる人こそ、困難を誰かのせいにして平気な顔でいられる強心臓の持ち主ではなく、そんな厚顔無恥なことができないという繊細な人間なのだ、と荒川氏は述べています。

トラブル解決こそ、小心者の繊細が必要

 リーダーの重要な役割のひとつに、トラブル解決があります。小心者にトラブル解決は不向きに思えますが、荒川氏は自らの40年以上に渡るビジネス経験を振り返り「強気で好戦的なリーダーよりも、繊細さを持ったリーダーのほうが、トラブルには強い」と断言しています。

 ビジネス上のトラブルを解決するということは、信頼を回復することと同義です。そのためには、相手の立場や利害、心理状態などを細やかに察知する繊細さが必要だとしています。それによって相手の真意を理解し、誠実に対応することを徹底すれば、性格や文化の違いなどに関わらず、信頼関係を結べるようになり、トラブルは解決に向かうそうです。

自分に懐疑的なリーダーほど、部下の意見が活発に

 繊細である一方で、「自分は答えを知っている」という人物と、「自分には答えがわからない」「自分の考えは間違っているかもしれない」という人物、どちらがリーダーとして優れた資質があるでしょうか。荒川氏は、後者のような懐疑的で臆病な人が、優れたリーダーになり得るとしています。

 「自分は答えを知っている」と考えるリーダーは、自分とは異なる意見を切り捨ててしまいがちです。一方、「自分には答えがわからない」と考えるリーダーは、部下の意見にも積極的に耳を傾け、取り入れようとします。その結果として、懐疑的で臆病なリーダーが率いる組織では、会議などでも自由闊達に意見が飛び交うようになり、より幅広い選択肢の中から意思決定が可能になります。

 そもそも、正解の用意された学生時代のテストとは異なり、ビジネスの課題への対処は、未来にならなければ正解がわかりません。そのことを十分に理解し、つねに「自分は間違っているかもしれない」といった懐疑的な姿勢で、他の意見に真摯に向き合う人物こそ、優れたリーダーとなり得る資質を備えていると荒川氏は述べています。

心配性で繊細な人ほど、大胆な決断が成功する

 もう1つ、リーダーに必要な力として挙げられているのが「先回りする力」です。荒川氏はその力を、1980年代から1990年代前半に社長であった家入昭氏の元で、秘書課長として働いていた時代に学んだと述べています。

 家入氏の功績の1つとして知られているのが、1988年のファイアストン買収です。アメリカの大手タイヤメーカーであるファイアストンは当時、経営難に陥っており、買収はリスクが大きすぎると社内外から猛反発を受けたにも関わらず、家入氏の決断は揺らぎませんでした。その背景には、イタリアのタイヤメーカーであるピレリも、その買収に乗り出していたことがありました。

 この状況を間近で見ていた荒川氏は、家入氏が備えていた心配性で繊細という資質の重要性に気が付きます。

 家入氏はつねに「ある状況が生じたときに、社内外にどのような影響が及ぶか」を何手先までも綿密にイメージしていたそうです。心配症だったからこそさまざまな状況をイメージでき、繊細だからこそ具体的に影響を想定できる家入氏だからこそ、誰よりも早く「ブリヂストンが世界市場で生き残るためには、ファイアストンを買収する他に道はない」という結論にたどり着いたといえます。

 この大胆不敵に見えた決断が成功したのも、繊細で心配症という資質に裏付けされた先回りする力が家入氏に備わっていたからでした。この買収を契機にブリヂストンは世界市場でのシェアを伸ばします。

 先回りする力を磨き上げられるのは、心配性だからです。「これをすれば、何か悪いことが起きるのではないか?」と心配するからこそ、先を見通そうと努力し、「これ以上心配のしようがない」と思えるまで、可能な限りの手立てを講じる、こうした資質こそ優れたリーダーになり得るのだ、と荒川氏は結論付けています。

 臆病さや繊細さ、小心さといった特徴は、一見リーダーというポジションには不向きに思えます。荒川氏自身も元々は人付き合いが不得意な内向的性格で、自分の小心さにコンプレックスを抱いていたと回想しています。しかし上司となった人たちの姿や、自分で課題を解決した経験を通じて、臆病さや繊細さは短所ではなく長所だと考えるに至ったそうです。

 臆病な小心者こそがリーダーに向いているという荒川氏のリーダー論は、自分にリーダーの資質がないと考えている人にとって、着眼点や発想の転換をもたらす指標となるでしょう。

【参考書籍】
荒川 詔四『優れたリーダーはみな小心者である。』ダイヤモンド社

平島 聡子

平島 聡子

ヨーロッパ在住ビジネスライター。大企業・ベンチャー双方での就業経験や海外でのビジネス経験を活かし、経営や働き方に焦点を当てたコラムやインタビュー記事の執筆を手掛ける。

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