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(第28回)

Googleや味の素も注目、「無意識の偏見」のリスク

 「雑用は若手の仕事」「定時で帰る従業員はやる気がない」。かつてはこうした考え方が当たり前だったかもしれませんが、今は違います。本人が気づかないうちに持っている偏見は「アンコンシャス・バイアス」と呼ばれ、多種多様な人と関わるビジネスの場で悪影響を引き起こすものとして、近年注目されています。ここでは、アンコンシャス・バイアスの基本と職場でのリスクについて解説します。

アンコンシャス・バイアスとは

 アンコンシャス・バイアスは「無意識の偏見」と訳され、自分自身は気づいていない「ものの見方やとらえ方の歪み・偏り」のこと指します。2000年代から知られるようになった概念で、アンコンシャス・バイアスについての知識や対処法がダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の施策のひとつとしてアメリカのICT企業で取り入れられたことにより、注目されるようになりました。

 アンコンシャス・バイアスは、些細な言動や行為にも含まれることから「よくあること」と見過ごされがちです。たとえば「上司にNOと言ってはいけない」「A型はまじめで几帳面」といった認識も、アンコンシャス・バイアスから発生しているものといえます。また、危機的状況になっても自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりする「正常性バイアス」や、集団に所属することで同調傾向や圧力が強まり、自然と周りに合わせてしまう「集団同調性バイアス」、「裁判官は男性」「外国人は自己主張が強い」など、あるグループに所属する者には特定の特徴があると判断してしまう「ステレオタイプバイアス」もその一種です。

 アンコンシャス・バイアスは誰もが有しており、人の本能的な機能ともいえます。複雑な意思決定をアンコンシャス・バイアスにかけることで単純化し、素早い判断を促すというメリットもあるため、なくせばよいわけではありません。しかし、組織の中でアンコンシャス・バイアスに気づかないまま行動していると、ときに悪影響を及ぼすことがあります。

「無意識の偏見」はビジネスの場でどんなリスクを生むのか

 無意識の偏見に気づかないまま仕事を進めると、どういった問題が起こるのでしょうか。ビジネスシーンにおけるリスクについて紹介します。

 まず評価や育成の際に「子どもがいる女性は営業に向かない」「転職の多い人は仕事ができない」といったバイアスを有していると、短・長期で悪影響をもたらす危険性があります。たとえば「子育て中の女性が家を空けるのは難しいだろう」との配慮から、本人に確認しないまま出張を伴う仕事から遠ざけたりすると、実際には対応可能で行きたいと思っていた場合、気遣いが逆効果になり、従業員が不満を抱きます。柔軟に働ける場を求めてその企業から転職するケースが増えれば、定着率の低下や企業への信頼低下といった長期的な問題につながります。

 自身が気づかずにとっている行動が人間関係の悪化を招くケースも少なくありません。「これだからゆとり世代は」「やっぱり外国人は大雑把」など属性で傾向を決めつける発言は典型的な例といえます。言われた側は偏見を持たれていると感じますし、もし「そんなことはありません」と反論すれば、発言した側は反発されたととらえてしまう。この積み重ねが関係性を歪めていくのです。

 部下に任せていたプロジェクトに問題が発覚したとき「自分が同じ年のときはこれくらいできた(できて当たり前)」のように考えてしまうのもバイアスです。相手を軽く扱う発言をしたり、視線を合わせないまま報告を聞くといった対応をすれば、相手にストレスや無力感を与えます。管理職やリーダーなど力を持っている人ほど自分の中のバイアスを自覚し、意識的に取り扱う必要があると留意しましょう。

 アンコンシャス・バイアスの一番の問題は、その存在に気づかず相手に不快な思いをさせて、良い関係が築けなくなることです。さらに、社会が高度に複雑化して多様な価値観を有する人々が交わり合っていくこれからの時代に対応できなくなったり、多様性の排除につながる危険性が非常に高くなったりします。何よりも危ないのは“無意識”であるということです。外部から教育するなどして働きかけをしないと、個人だけでなく組織全体がいつの間にか時代から取り残されていくことにもなりかねません。

偏見は誰にでもあるもの。自身に潜むバイアスを認識することが改善への第一歩

 アンコンシャス・バイアスについて、アメリカでは多くの企業が研修に取り入れています。たとえばGoogleでは、従業員が偏見を理解し多様な視点を持つ組織づくりに向けて、2013年にアンコンシャス・バイアスの教育活動を開始しました。これは2010~2013年の間に検索エンジンの日替わりロゴ(Doodle)に登場した著名人の62%が白人男性で、女性はわずか17%だったことが差別的であるとの指摘を受けての取り組みです。現在では2万人以上の従業員がトレーニングを受けて、偏見をなくすための情報交換が社内で活発化。ワークショップに使えるスライドやガイドも公開しています。

 日本でもP&Gや味の素といった大手企業がアンコンシャス・バイアスの研修に取り組み、社員一人ひとりがバイアスをコントロールしていけることをめざしていますが、まだ浸透しているとは言い難い状況です。

 アンコンシャス・バイアスと上手に付き合っていくための第一歩は、「誰もが偏見を持っている」ことを前提に、自分の心の奥底に潜んでいるバイアスを認識することです。企業の人材育成を支援するサイコム・ブレインズや採用広報支援を手掛けるhypexは、一部のバイアスに関わるチェックリストを無料公開しているので、一度試してみるのもよいでしょう。今後さらに多くの企業が無意識の偏見によるリスクを理解し、教育や研修に取り入れていくことが望まれます。

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