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2017.12.07 (Thu)

(第21回)

「乾けない世代」30代以下の価値観が企業を変える

posted by 塚田 沙羅

 育ってきた社会・経済状況といった背景によって、働くことに対する価値観は世代ごとに異なります。特に、他の世代と価値観が大きく異なるのは、30代以下といわれています。なぜなら、彼らは生まれたときから何もかも揃っていた社会で育ち、何かを渇望した経験がないので、価値観が大きく異なっているからです。

 IT批評家の尾原和啓氏は、著書『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』で、30代以下の世代を「乾けない世代」と表現して、彼らの価値観と仕事に対するモチベーションが、それまでの世代と大きく違うことを解説しています。

 また同書では、乾けない世代の価値観と仕事に対するモチベーションが、これらからの働き方にどんな変化をもたらしていくかについても言及しています。

「乾けない世代」は、生まれたときから何でもあった

 30代以下の「乾けない世代」は、生まれたときから社会に「ないものがない」時代で育ってきました。必要な家電はすべて一家に一台あり、小さいころからコンピュータや携帯電話に触れ、娯楽も充実している。何かに飢えるということを経験していません。そのため、世の中にないものを生み出すという達成感を経験していないのです。

 それ以前の「乾いている世代」は、社会に「ないもの」を埋める仕事をしてきました。過去になかったものを生み出して生活を豊かにするという価値観をベースに、仕事では働けば働くほど、経済や社会が成長し、自分への報酬も増えるというのがモチベーションだったのです。また価値観とモチベーションは、国や社会を支えているという大きなビジョンとリンクしていました。

 しかし、上の世代が「ないもの」をほとんど埋めた現在では、生活を豊かにすることや、国や社会を支えるといった大きなビジョンを達成したという感覚を持つことが稀となっています。そのため、乾けない世代は、家庭や友人、自分という身近で共有されている価値観を大切にするようになったのです。

乾けない世代が重要視する3つの要素

 尾原氏は著書で、アメリカ人心理学者マーティン・セリグマンが唱えた「幸せの5つの軸」というものが、上の世代と乾けない世代では違うと説明しています。その5つとは「達成」「快楽」「良好な人間関係」「意味合い」「没頭」です。

 上の世代は、最初の2つ「達成」「快楽」を重視して働いてきました。与えられた目標や、ないものを生み出すという達成感。一生懸命仕事をした報酬で、高い生活水準を手に入れるという快楽。つまり成功者といわれるような社会的なステータスを手に入れることが幸福だったのです。

 しかし乾けない世代は、ないものがない社会で育ったので、社会的なステータスで達成や快楽を満たすということに重きを置いてはいません。それよりも、精神的な要素が強い「良好な人間関係」「意味合い」「没頭」という3つの軸に幸せの価値を置いています。

 よって乾けない世代は、企業が掲げた目標を達成する喜びや、豪華な暮らしをするために、脇目も振らずに働くことに懐疑的です。それよりも大切な人と過ごし、意味のある仕事をし、好きなことに没頭する生活のほうに価値があると思っています。「自分の好きな」人、こと、ものというように、個人的な主観が判断基準の主軸となっています。

仕事で必要となる「偏愛」という能力

 しかし乾けない世代の価値観は、まだ社会では少数派です。そのため仕事に対する価値観やモチベーションは、達成と快楽が主流のままとなっています。これからを担う乾けない世代にとっては、理解しにくい価値観やモチベーションを押し付けられている状況といえます。しかし今後の世代交代を考えると、社会の主流が転換する時期は到来するでしょう。それに伴い企業も仕事に対する価値観やモチベーションを転換することが必要となります。

 たとえば、ないものを埋める時代は、生活が便利になるものを作り出す、質の高いものを安価に供給するというったことが企業の価値観でした。現在は、安価で質の高いものは、市場に溢れています。すでに市場では「個人の嗜好や感情」といった付加価値を与えないと売れない時代になっています。そのためには、消費者の細かな欲求を見つけ、商品に付加価値として与えるというプロデュース能力が重視されているのです。

 このような付加価値を見つける仕事を行うには、個人の思考や感情の元となる価値観を理解していないと難しいでしょう。自らがこだわりや嗜好を持っていないと、消費者の目線にはなれないからです。尾原氏は、その目線を持っている人の価値観を「偏愛」と呼んでいます。

 また尾原氏は、自分の好きなことを追求する偏愛があれば、仕事で「新しい価値」を創出できるとしています。偏愛の根源は個人の「嗜好性」です。嗜好性を基盤にしたものは、社会になくてもよいものが多い半面、個人の人生を豊かにする可能性を秘めています。個人の偏愛を、人の嗜好性を刺激する付加価値へと変換できる能力が、今後のビジネスでのカギとなるのです。

 今後の仕事は、達成感や快楽のために「稼ぐ」というものから、自分の好きなものを「追求」ということが働くということのモチベーションとなるでしょう。

 個人の好きなものを追求するためには、自分だけの時間も大切なことの1つとなるでしょう。1日の労働時間を、すべてオフィスで費やすだけでは偏愛を理解できません。乾けない世代が理解する偏愛の能力を最大限に引き出すよう、企業は価値観とモチベーションの転換をはかることが、これから「ないものがない」時代の次に到来する社会で、生き抜くために必要な戦略になるでしょう。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年11月25日)のものです。

【参考書籍】
尾原和啓『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』幻冬舎

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塚田 沙羅

塚田 沙羅

イギリス・ロンドン在住のライター/英日翻訳者。東京芸大卒業後、出版社編集部を経てフリーランスに。イギリス情報・文化、ビジネス(働く人にとっての学びや気づき、人材育成、グローバル思考など)、アート・カルチャーについてさまざまな媒体で多数執筆。
https://japanesewriterinuk.com/article/contact.html

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