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2017.11.17 (Fri)

元気な企業はどこが違う?成功企業の戦略とは(第43回)

信用失墜したマクドナルドの、起死回生の地道な手段

posted by 大福 汁粉/studio woofoo(www.studio-woofoo.net)

 2014~2015年の日本マクドナルドホールディングス(以下マクドナルド)の業績は、2期連続の赤字という危機的状態にありました。原因は、2014年7月から2015年1月にかけて起きた期限切れ鶏肉の使用問題や食品への異物混入などの事件によるお客さまの信用失墜です。しかし、2016年になると業績はV字回復を果たしました。危機的状況を脱した施策とは、マクドナルドの原点である「人への回帰」に立ち返ったことだったのです。

ハンバーガーのパイオニアが不信感から赤字へ

 2016年度以降、マクドナルドの業績が好調へと持ち直しています。2016年の経常利益は66億1,400万円、2017年の経常利益(業績予想、第2四半期時点)は175億を見込んでいます。

 2014~2015年にかけてのマクドナルドは、大幅赤字という状態に陥っていました。2014年12月期の連結決算では連結純損益が218億円の赤字、翌2015年12月期には連結純損益347億円と、2期連続の赤字を計上します。赤字幅も2001年の株式上場以降で最大のものという、危機的状況に追い詰められていました。

 原因の1つは、食品管理に関する問題が次々と発覚したことです。2014年に中国・上海の食品工場で期限の過ぎた鶏肉が使用されていたり、その取り扱いが不衛生だったことを報道されたことが発端でした。その工場からマクドナルドはチキンマックナゲットの2割を仕入れているという事実が判明し、同商品の販売中止を余儀なくされます。

 その事件に対する会見で、社長兼CEOであるサラ・カサノバ氏が「マクドナルドも被害者だ」という趣旨の発言が波紋を呼びます。お客さまへの謝罪より、自社の弁明を優先したという印象を与えてしまったのです。

 2015年になると続けざまに事件が報道されます。まず、過去に青森県の店舗でチキンマックナゲットにビニール片が混入していたことが地方新聞に掲載されたのを機に、異物混入について報道やSNSによる投稿などで4件も取り上げられます。

 これらにより「高い」「汚い」「子どもに食べさせられない」などの声が広がり、マクドナルド離れが進行。その結果として、2年連続の赤字を計上するに至ったのです。

最悪の危機を脱する原動力は「人」

 その危機の中でマクドナルドが打った手は多岐に渡りますが、それらはすべて「人への回帰」という地道な作業でした。それはお客さまや従業員に改めて向き合うことによって、信頼を回復することです。

 お客さまに対する施策としては、「タウンミーティングwithママ」と呼ばれる母親を交えたタウンミーティングを行いました。食品衛生に敏感かつ、子供の食事内容を決定している母親を呼び、生の声に耳を傾けたのです。この施策では事件後も来店してくれるお客さまに、来店しなくなったママ友をミーティングに連れてきほしいというお願いをし、来店しなくなった理由のリサーチが行われました。

 それらのフィードバックによって改革案が決定されていきます。まず「店舗が汚い」という声に応えて、店舗をカフェ調に改装するという従来からあった改革案を前倒しで行うなど、母親が子どもと訪れやすい雰囲気づくりに注力しました。

 タウンミーティングは、社長兼CEOであるサラ・カサノバ氏が提案した施策です。カサノバ氏は、現場で直接お客さまの声を聞いて回りました。その行動により、初回は8人だった出席者も回を重ねるごとに増えていったそうです。

 また同社のウェブサイトでは、お客さまからの疑問を募集。それでは「パンが腐らないのは本当か」「ミミズの肉を使っているのか」など、これまで都市伝説のように広まっていた噂レベルの声にまで一つひとつ回答を重ねていきます。

 ウェブサイトで集められたお客さまの声には、店員の態度に言及するものもありました。その意見から、マクドナルドの代名詞だった「スマイル0円」のメニュー掲示を復活させます。掲示だけでなくマニュアルも改善して、接客での笑顔を徹底することで、顧客満足度の向上を図りました。

 また2015年には、お客さまが店舗を評価するためのアプリ「KODO」をリリースします。真摯に向き合う姿勢をさらに示したことによって、顧客から信頼が徐々に回復していきます。お客さまの声も不備を指摘するものが多かったのが、あの店員の接客が良かったなどの好意的な反応も徐々に増えたそうです。

 一方、従業員への施策としてカサノバ氏は、社員と店舗スタッフ、その家族に対して直々に手紙を送ります。その手紙は、マクドナルドの現状と今後の対策について説明と、回復に向けた協力を依頼する内容でした。

 加えてフランチャイズ店のオーナーに対しては、フォロー体制を本社からの指示だけではなく、それぞれが権限を持つ地区本部制へとバックアップ体制を再編しました。その際に各地で行われたオーナー会議では、不満や質問に耳を傾けるとともに、店舗改装や接客マニュアルの改善などを訴えて、一緒に危機を脱するには協力が必要だと要請して回りました。

 これらの施策により社内外の信頼が回復に向かうと、業績も回復の兆しを見せ始めます。そこで投入した新メニューがヒットしたことにより、2016年12月には業績のV字回復を達成。その好調は2017年も継続したことで、「マクドナルド復活」を世に印象づけました。

ピンチのときには初心を取り戻す

 マクドナルドほどの巨大企業が危機を脱する際に重視したのが「原点回帰」であったというのは示唆的といえるでしょう。

 「顧客第一主義」は、さまざまな分野のビジネスでも最初に掲げる理念です。マクドナルドには「ピープルビジネス」というスローガンがあります。それは、最も重要な資産は人である理念を表したものです。しかし、時間が経つとその理念には多くの改革が持ち込まれてゆきます。時代に沿った変貌を遂げていくなかで、基本とかけ離れてしまうことも経営ではよく起こることでしょう。その改革が行き詰ったときに基本に立ち返ることが業績回復の原動力になることは、マクドナルドだけでなく多くの企業で証明されています。

 ピンチのときほど、自社が提供するビジネスの価値を見直す大きな契機なのです。マクドナルドのV字回復劇は、人へ回帰することの大切さを再確認させた事例といえます。

【関連記事】
https://dot.asahi.com/aera/2017062600057.html
https://news.infoseek.co.jp/feature/mcdonalds/
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/16/090800019/090800004/

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大福 汁粉/studio woofoo(www.studio-woofoo.net)

塾講師、マーケ系情報コンサル等を経てフリーライターへ。企業のオウンドメディア、英語学習サイト、ニュースサイトを中心に執筆している。

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