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2017.01.24 (Tue)

元気な企業はどこが違う?成功企業の戦略とは(第19回)

「雪印」ブランド、その転落と復活の物語

 「雪印」といえば、日本の乳業メーカーのひとつ。大正時代に創業した老舗ブランドで、雪の結晶を模したシンボルマークで有名です。

 しかし2000年、ある事件をきっかけに、“雪印”というブランド価値は大きく落ち込みました。今回は、雪印ブランドの転落の理由と再建までの道のりを紹介します。

「私は寝てないんだ」発言となりやまない電話

 2000年6月、雪印乳業の大阪工場で製造された低脂肪乳を飲んだ人が、次々に食中毒を起こすという前代未聞の食中毒事件が発生しました。原因は、停電により9時間以上冷却されずに放置され、有害菌が発生した脱脂乳を、廃棄せずにそのまま使用したことでした。

 この事件が起きた当初、幹部陣にはさほど緊迫感がなく、すぐに公表しませんでした。これが事態の悪化を招きます。製品の自主回収が滞り、被害は近畿地方を中心に広い範囲にまで及んだのです。その被害者数は1万人を超えるほどでした。

 しかも、事件が公になった時点でマスコミの前に立った社長(当時)は「私は寝てないんだ」と発言。これがメディアで繰り返し取り上げられ、瞬く間に大事件へと発展しました。安全管理の甘さ、危機管理広報における脇の甘さにより、伝統の「雪印」のブランドはその信用を完全に失墜。もはや回復不能と言われるまでに至りました。

雪印ブランドをさらに追い込んだ「牛肉偽装」

 雪印の不祥事は、食中毒にとどまりませんでした。続く不祥事の発端は、2001年9月10日の農林水産省の発表です。日本国内産の牛肉のうち、BSE(狂牛病)にかかったものがあるとして、対象となる食肉を買い取るというものでした。

 この時、雪印食品の関西ミートセンターは、「国外産」の牛肉を「国内産牛肉」として偽装し、農林水産省に買い取り費用を請求したのです。この不正は内部告発によって発覚。前述の食中毒事件以後、雪印では社内の事業の分割が始まっていましたが、この偽装問題によって、「雪印食品」という会社法人が解散されることが決定的になりました。

どん底から這い上がった地道な努力

 「雪印ブランド」の再生への道のりは、このどん底の状態から始まりました。

 これらの事件の後、雪印グループの各事業はさまざまな会社に再編され、牛乳などを扱う市乳部門も雪印乳業から離れます。しかし、バターやチーズなどの乳製品部門は、雪印乳業が引き続き継承することが決定。同社は、地に落ちた信頼を回復するため、まずは商品の品質保証体制の整備・強化に取り組みました。

 そのひとつが、検査士認証制度による検査レベルの維持向上です。この制度は、教育・研修・技能試験によって一定の知識・技量を得た従業員を「検査士」として認証するというもの。全国6か所に地域品質保証センターを設置し、地域の顧客の声を吸い上げることで、地域単位で品質保証の取り組みを推進するというものです。

 在庫管理については、2000年の事件以前から取り組んでいたSCM(サプライチェーンマネジメント)を強化。生産量の調整不足による不良在庫抱え込みや、欠品をなくすための業務フローを考案し、システムの開発を行いました。

 組織の改革にも取り組みます。社内には、コールセンターにかかってきた顧客の声に耳を傾け、改善につなげる「雪印体質を変革する会」を、社員の有志で発足。加えて、全社の職員をいくつかのグループに分け、統一のテーマについて月に1回討議を実施し、情報共有するという取り組みも実施します。

 さらに、第三者の意見を積極的に取り入れる仕組みづくりもスタートさせます。たとえば酪農家・生産者たちとの対話会を実施したり、製造現場には顧客モニター制度も新設しました。また、事件後に雪印が“変わった”ことを消費者に伝えるため、消費者を北海道の工場に招く視察ツアーを実施したこともありました。

スーパーに並ぶ「雪印北海道100」の裏に

 こうした努力を重ねた雪印乳業は、2007年に不祥事以来初となるチーズの新ブランド「雪印北海道100」をスタートさせます。これは、北海道産の原材料を使用し、道内で製造・加工された“100%北海道産”を謳うブランドです。このブランドの開始に当たり、同社は「北海道」を冠しながらも100%北海道産ではない既存の商品の名前を、すべて改称するという徹底ぶりを見せます。

 そして2009年。雪印乳業は、「MEGMILK(メグミルク)」ブランドで乳製品を展開していた日本ミルクコミュニティと合併し「雪印メグミルク株式会社」となり、現在まで続いています。

 一度は失墜した「雪印」ブランドですが、社内の組織を見直し、社員が改善に取り組み、そして新たな製品を開発することで、見事に復活を遂げることができました。今では「雪印北海道100」をはじめ、同ブランドの商品は当たり前のようにスーパーの食品売場で扱われていますが、その「当たり前」にたどり着くまでには、それを取り戻すための地道な努力があったのです。

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