今や当たり前となっている、コンビニ内に設置されたATM。わざわざ銀行に足を運ぶことなく、買い物ついでに利用できる大変便利なサービスですが、はじめから順調に普及が進んだわけではありません。
今回は、コンビニATMの代表的な存在である「セブン銀行」の歴史について紹介します。好調に利益を上げているセブン銀行のビジネスモデルを見ていきましょう。
「それなら自分たちの銀行を作ろう」
コンビニATMが誕生する前は、銀行もしくは出張所に行かなくてはお金を引き出すことができませんでした。そこで、セブン-イレブンやイトーヨーカ堂を運営するセブン&アイグループ(当時はアイワイグループ)は、1999年には複数の銀行などと「ATM研究会」を発足させ、コンビニを利用したATMの可能性について議論を重ねます。
しかし、「ATM利用料が土日祝日は有料になるのはなぜなのか?」「なぜどこの銀行でも手数料額が同じなのか?」など、銀行の常識を揺るがす疑問が多く、銀行側との考え方の相違が目立ったといいます。
特に問題だったのが、銀行との提携です。既存の銀行のATMをコンビニに設置する場合、「銀行の出張所」扱いとなるため、ATMの営業時間が限られるなど、サービスに制約を受ける恐れがあったのです。
そこでセブン&アイでは「それなら自分たちの銀行を立ち上げよう」と、銀行業の免許をとることを決断。2001年、セブン銀行が誕生します(当時はアイワイバンク銀行)。バブル崩壊に多くの金融機関が破綻し、当時の大蔵省が新銀行の認可に前向きだったこともありって、設立自体はスムーズに進みました。
設立当初は、金融機関各社が加盟している「総合ATMネットワーク」への加盟が認められなかったため、同ネットワークに加盟している銀行のカードは利用できませんでした。そのためセブン銀行は、自前で提携する銀行を募集。提携した銀行には、利用手数料は各銀行に設定してもらうという斬新な取り決めを採用することで、多くの銀行と提携を結ぶことに成功。銀行だけでなく信用金庫も利用できるようになりました。2016年3月末時点の提携金融機関は595社にも及んでいます。
後発組だからこそできた海外対応
セブン銀行で利用できるカードは、何も国内のものだけではりません。海外で発行されたキャッシュカードやクレジットカードからも、現金を引き出すことが可能です。
実はセブン銀行では、サービス開始当初から海外のクレジットカードに対応したATMが使用されています。日本と海外ではカードの磁器の位置が異なるため、当時は利用できない金融機関も多くありました。
さらに、「海外送金サービス」というものもあります。これはセブン銀行で海外の銀行に送金すれば、数分後には現地の銀行で現金を下ろすことができるというもので、主に日本で働く外国人向けのサービスです。
金融機関としては後発組のセブン銀行ですが、だからこそ従来の銀行では対応できない部分をカバーできたのでしょう。
コンビニATMのお金を補充する賢い方法
コンビニ銀行における懸念点のひとつが、現金の補充です。圧倒的に現金引き出しの利用が多いため、定期的に現金を補充しなくてはなりませんが、頻繁に補充を行うとなると、その分コストがかかります。
セブン銀行がコスト対策として導入しているのが、「売上金入金サービス」です。これは飲食業やタクシーの運転手などで、夜のうちに得た売上を、企業の専用口座に入金するサービスで、店舗に現金を置いておかずに済むという防犯上のメリットがあります。
この「売上金入金サービス」のおかげで、セブン銀行のATMには定期的に入金が行われるため、個人利用者の多くが現金を引き出しても、現金補充の回数は少なく抑えられるというものです。セブン-イレブンの店舗の売上も、この売上金入金サービスを利用しているといいます。
セブン銀行ではさらに、店舗ごとに「出金よりも入金が多い店」「千円札が多く出る店」などATMの利用状況を、セブン-イレブンの管理システムを用いてデータ分析し、最適な現金を準備するようにしているといいます。
もはやコンビニでは当たり前の存在となりつつあるセブン銀行ですが、それが当たり前となった裏には、制度や後発であることのハンデを乗り越えるための工夫があったのです。
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