2021.4.19 (Mon)

ビジネスを成功に導く極意(第34回)

日本に必要なのは「問題児」。APU出口学長が語る

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 アフターコロナ時代の組織マネジメントはどうあるべきか?ライフネット生命の創設者であり立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務める出口治明氏がその本質を語ります。

<目次>
コロナでマネジャーの無能が露呈するワケ
「年間2000時間労働でGDP成長率1%」の事実
「良い子」の中からスティーブ・ジョブズは生まれない
“日本らしさ”にこだわらず、変化へ適応できる者だけが生き残る

コロナでマネジャーの無能が露呈するワケ

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークを導入する企業が増えています。しかし、オフィスで顔を合わせる機会が少なくなることで、組織や部下のマネジメントは、従来よりも困難になることが予想されます。

 立命館アジア太平洋大学(APU)で学長を務める出口治明氏も、コロナ禍における組織のマネジメント手法に問題があることを指摘。日本企業は人材マネジメントの方法を、従来から根本的に変える必要があると主張します。

 「テレワークに移行して生産性が下がった企業もあると聞きますが、それは端的にいえばマネジャーが仕事の振り分けをうまくできなかったことが原因です。マネジャーは、組織が達成すべき最終的なアウトプットをイメージして仕事を分割し、部下に明確に指示しなければいけません。従業員が同じ空間にいないテレワークの環境では、マネジャーの能力が浮き彫りになるといえるでしょう」

 出口氏は、国内生命保険大手の一角である日本生命で、海外現地法人社長を含む数々の要職を歴任。退職後、2006年にネットライフ企画(現:ライフネット生命)を起業。さらに2018年から、APU初の民間出身学長に就任したユニークな経歴を持つ人物です。

 大企業、スタートアップ、教育機関など、さまざまな立場で組織のマネジメントを経験してきた出口氏は、結果が出せないマネジャーの特徴として、部下を「育てる」という意識を持ちすぎていると指摘します。

 「そもそも人材を『育成する』という考えが間違いです。人にはそれぞれ特徴があり、個性があります。それは研修や教育で身につくものではありません。部下と向き合って面談し、個人の希望や個性、適性を見極めた上で、適切な仕事を割り振っていく。それがマネジャーの役割です。野球の監督と同じように、うまく打順や守備位置を決めなければ結果につながらないのです。いくら研修しても全員が150㎞/hの速球を投げられるわけではありません」

立命館アジア太平洋大学(APU)
学長
出口 治明氏

 つまり、マネジャーの仕事とは「人を教育して変える」のではなく、「適切な人材配置を考える」ことである、というのが出口氏の考えです。

 「やりたいことを見つけ、頑張って働くことが社員の幸せでもあり、企業にとっても幸せのはずです。『ずっと自社で働いてもらうのだから、どの部署でも使えるように』という発想のもと、適性を無視してジェネラリストを育てようというのは、終身雇用制度の遺物であり、いまや歪んだ考えであることを理解しないといけません」 

「年間2000時間労働でGDP成長率1%」の事実

 では、企業や組織はどのような考えに基づいてチームや人材のマネジメントを行えばいいのでしょうか。出口氏は、日本経済が落ち込んだという事実に向き合い、日本の伝統的な雇用制度の仕組みから脱却すべきだと主張します。

 「日本経済が、ここ30年間で大きく落ち込んだというエビデンス(証拠)をもとに考えましょう。がんばれば何でもできるという根性論は今の時代にはもはや通用しませんし、プレイヤーとしての成績が良かったからといってマネジメントがうまくできるとは限りません。新卒一括採用や終身雇用、年功序列、定年といったメンバーシップ型雇用の制度を根本から見直す必要があります」

 出口氏が指摘するとおり、日本経済は平成の30年間で大きく落ち込みました。1989年(平成元年)の企業の時価総額世界ランキングでは、トップ20社のうち日本企業が14社を占めていました。それが、いまではトップ20社に日本企業は1社も入っていません。IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)による「世界競争力年鑑(World Competitiveness Yearbook)」でも、日本の競争力は1989年の1位から現在は34位まで落ち、GDP(購買力平価ベース)の世界シェアは9%から4%へと約半減しました。

 その要因は日本の企業体質にあると出口氏は語ります。

 「この30年間の、日本企業における正社員の労働時間は年間約2000時間で、GDP成長率は約1%。一方、ドイツやフランスの労働時間は年間約1500時間であるにも関わらず、2.5%成長を遂げています。日本にはサイエンスに基づくマネジメントがありません。根拠なき精神論で企業を運営してきた結果、大きく差をつけられたのです。

 かつては、電機や自動車に代表される高品質な製品を生み出すことができました。それは、大量生産が前提で、長時間労働をいとわず上の指示に従って黙々と働く、いわゆる製造業の『工場モデル』が有効だったからです。しかし現在の世界では、そのやり方はもはや通用しないのです」

「良い子」の中からスティーブ・ジョブズは生まれない

 世界が大きく変わっていることは、世界の時価総額ランキングでGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)を中心としたサービス産業が名を連ねていることからも明らかです。

 このような巨大なサービス産業に対し、日本企業はどのように立ち向かっていくべきなのでしょうか。

 出口氏は「サービス産業はアイデア勝負。年間2000時間も働いて、残業後も遅くまで上司の“飲みニケーション”に付き合っていて、新しいアイデアが本当に生まれてくると思いますか?」と、その解決手段が労働時間や“飲みニケーション”ではないことを主張します。

 そして、新たなアイデアやイノベーションを生み出すための要素として、「人」「本」「旅」の3つが重要であると指摘。残業する代わりに外に出て面白い人に会い、たくさんの本を読んでさまざまな考え方に触れ、環境の異なる場(流行りの店など)に旅をすることで脳が刺激され、それがこれまでにないようなアイデアにつながるといいます。

 「新型コロナ感染症は、ワクチンの供給が始まるなど、根本的な解決手段が社会に行き渡るまで、しばらくは自由に人に会ったり旅をしたりはできません。ただし、コロナ禍でテレワークが普及し、通勤時間はなくなりました。この時間をいかにうまく使うかが、アフターコロナの時代に生き残る鍵となるはず。今こそ、本を読んで勉強する絶好の機会です」

 アイデアやイノベーションを生み出す人材に必要なのは、「常に常識を疑い、本質がどこにあるのか見極める探求力」と、「エビデンスとサイエンスを元に、自分の頭で考えて判断し、自分の言葉で意見を述べる能力」だと出口氏は語ります。

 「製造業が中心だった時代に求められていた人材の要素は、成績が良く、素直で、我慢強く、協調性が高く、上司に従うこと。いわゆる『良い子』とみなされる人材が求められていました。もちろん今も、このようなタイプの人がいなければ社会は維持できません。

 しかし、『良い子』の中から、iPhoneなど革新的な製品を生み出したスティーブ・ジョブズのような人材が生まれることは決してないのです」

“日本らしさ”にこだわらず、変化へ適応できる者だけが生き残る

 この考え方は、出口氏が学長を務めるAPUの方針にも反映されています。

 「好きなことに夢中になり、社会の常識を素直に受け取らず何事でも疑い、我慢しないでやりたいことをやる。周りに合わせず我が道を進み、おかしいと思ったことは上司に対してでも口に出して主張する。残業や上司との飲み会よりも、人に会い、本を読み、旅をすることを優先する。このような人材は、従来の日本的な組織からすると問題児かもしれません。ですが、APUでは、こうした問題児こそ積極的に受け入れていきたいと考えています」

 出口氏は、イノベーションを生み出すには、既存の常識や価値観にとらわれず、思い切り好きなことができる環境が必要だと考えており、APUでもそのような環境を用意し、“個性派”を歓迎しています。APUの学生は、半数が海外からの留学生。キャンパスは、世界90を超える国や地域から集まった、まるで「地球の縮図」のような学生で構成されます。その中では、日本の常識が疑われることも日常茶飯事です。

 出口氏は、世界で通用する人材をAPUから輩出するべく、さまざまな改革を進めています。その1つが、2018年に立ち上げた「APU起業部」です。自身がベンチャー企業の起業家であった出口氏自らがリーダーを務め、将来本気で起業したい学生を支援するための課外プログラムとして発足。その後わずか1年で4組の学生が起業し、さらに4組が起業準備中とのことです。

 出口氏は、APUでのこうした経験の中から、今後のビジネスには“日本らしさ”はむしろ邪魔になると予想しています。

 「何が起こるかわからない今の世の中では、強い者や賢い者、大きな者が生き残るとは限りません。過去の成功にすがり『日本企業の長所を活かした改革を』という意見がしばしば聞かれますが、それは愚かな考え方だと思います。“日本企業らしさ”にこだわった結果が、『2000時間労働で1%成長』であり、『世界競争力34位への低下』なのです。

 今、日本企業に求められているのは、過去の栄光にすがることではありません。自国が置かれている現状を、エビデンスとサイエンスで分析し、明治の岩倉使節団のように世界の優れたところを虚心に学び、社会の変化に適応していくことこそが必要なのです」 

<インタビュイープロフィール>
出口 治明(でぐち はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長。京都大学法学部卒業後、日本生命に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業し、2012年に上場。2017年に同社を退職後、2018年1月より現職。

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