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ビジネスを成功に導く極意(第22回)

中国が欲する日本サッカー育成術とビジネスの共通点

posted by 藤原 裕久

 世界第1位の人口と世界第2位の経済力を持つ中国ですが、日本への観光客数は現在も増加中で、その勢いはまだまだ続きそうです。

 そんな中国で2015年に発表された政策が、世界中のサッカー関係者の注目を集めました。それが国内スポーツ産業の活性化を目的とした「サッカー改革発展総合計画」です。熱烈なサッカーファンで知られる習近平国家主席の肝いりで策定されたこのプランは、国策としてサッカーを強化することをうたっています。

 このようにサッカーの強化を国家戦略として進めている中国サッカー界で今、熱い視線を集めているのが、日本サッカー界が持つ選手の育成・教育システムです。

発展する中国サッカーが直面する指導者不足

 中国にはアジアを代表するサッカーリーグがあります。その名は「中国スーパーリーグ」。予算や規模はアジアの枠を大きく超えた文字どおりのスーパーリーグです。

 世界で最も資金力のあるリーグといわれており、その予算は破格です。日本で最も人気のあるJリーグチーム、浦和レッズの年間予算(営業収入)が約66億円と発表されているのに対し、中国スーパーリーグに所属する上海緑地申花足球倶楽部の年間予算は、筆者がチームの副社長らに行なった取材によると日本円で300億円以上でした。

 中国スーパーリーグに所属するチームの多くは、豊富な資金力を背景に、海外の有力選手や指導者を獲得しています。またアジアのサッカークラブの王者を競うAFCチャンピオンズリーグでは、ここ5年間で、2度も中国スーパーリーグのチームが王座に輝いています。また昨年は、リーグの1試合平均の観客動員数が、ドイツ、イギリス、スペイン、メキシコに次ぐ世界第5位にまで成長しています(Jリーグはトップ10位圏外)。

 しかし中国スーパーリーグのチームが外国籍選手の活躍でアジアを席巻する一方、中国代表チームは、オリンピックやワールドカップのアジア予選を突破することができずにいます。また中国代表は激しいプレースタイルのため、ファンからも厳しい批判にさられることが珍しくありません。

 代表チームが苦戦する最大の理由は、2000年代に発覚した中国スーパーリーグの八百長事件です。ほぼ全てのチームが関与したとされるこの事件により、中国サッカー界は観客の信頼を大きく失ってしまいました。

 失ったのは観客や信頼だけではありません。八百長に関与したとして、実績のある指導者や関係者の多くがサッカー界から追放されたため、中国サッカー界では慢性的な人材不足に陥ってしまったのです。

中国が求める日本の育成スタイル

 指導者不足という問題に、中国が最初に行なったのは、欧州の指導者を招聘するや、欧州の育成システムを活用することでした。まず15歳から17歳の若手選手を年間500名以上も欧州へ派遣し、中国スーパーリーグでは、チームの監督に欧州で有名な指導者を就任させるなど、さまざまな取り組みを行ないました。しかし文化的な違いもあって、大きな成果を挙げることはできなかったのです。

 次に中国が注目したのが、同じ東アジアの文化圏でありながら、代表チームの成績と選手育成の両方で実績のある日本サッカー界の選手育成・教育システムだったのです。1993年のJリーグ誕生以来、急速に実力を伸ばし、ワールドカップの常連国となった日本代表の活躍に学ぼうというわけです。

 2012年に元日本代表監督の岡田武氏が、中国スーパーリーグの杭州緑城足球倶楽部の監督となり、チーム作りや育成の手腕を評価されたことも背中を押しました。今、中国のサッカー界では「日本に学べ」という機運がかつてないほどに高まっているのです。

発展する中国で高まる育成と教育の重要性

 その機運に乗ろうという動きはすでに始まっています。1980年代に中国代表チームで活躍し、日本でもプレー経験のある呂洪祥さんは、今年に7月に長崎で日中友好体育振興株式会社を立ち上げ、中国の指導者向けに日本の選手育成ノウハウを教える事業を開始しました。

 「日本の選手育成と教育のシステムは素晴らしい。中国では2014年まで一人っ子政策が徹底されていた影響で、規律や協調性などに不慣れな選手がいる。サッカーだけじゃなく、人間教育のためにも、中国の指導者には、日本の育成や教育システムを学ばせたいと思っている」と語る呂さんのもとには、続々と中国から問い合わせがきているそうです。

 中国は経済大国となったことで、プロサッカーリーグの資金は潤沢になりましたが、自国選手の育成や教育のシステムというソフトが不足していました。中国にとっては、日本サッカーの持つ育成・教育システムは、価値のあるソフトとして映ったのです。

 現在、数多くの日本人選手が世界各国のプロリーグで活躍しています。その背景には、実力を認められていること以上に、マナーやチームの規律を重んじる姿勢が高く評価されていることがあります。

 日本のビジネス社会でも協調性やマナーが重視されますが、個人だけでなく企業の品位と信用を守り、高めるためにもマナーが重要であることを、日本と中国のサッカー界から学ぶことができます。

【関連記事】
https://www.footballchannel.jp/2016/08/31/post169589/
https://web.gekisaka.jp/news/detail/?221508-221508-fl
http://www.football-zone.net/archives/44192

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藤原 裕久

藤原 裕久

長崎県出身。フリーライター。2006年より執筆活動を開始し、主にサッカーを中心としたスポーツをメインとしながら幅広く取材・執筆を行っている。複数のスポーツ専門誌やウェブサイトにも数多く寄稿しており、取材を執筆のベースとする現場第一主義を座右の銘としている。

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