業務効率や生産性が求められる近年、それらの実現に試行錯誤している企業は少なくありません。その施策の1つとして、検索エンジン大手のGoogleでは、ビジネスツールの定番である「メール」をほとんど使わないことで、業務効率と生産性を高めたそうです。
これまでメールは、社内外のコミュニケーションの効率が上がるツールと考えられていました。しかし返信などの対応に忙殺され、本業になかなか手がつけられないビジネスパーソンも少なくないでしょう。そのような状況にも関わらず、Googleはメールにとらわれない仕事術を確立しています。
メールが仕事を非効率的にする理由とは
メールがコミュニケーションツールとして普及したことにより、1日で多くのメールを送受信するようになりました。しかしメールは「連絡」という業務に付随する仕事で、たとえば経理業務などの本来業務を処理する仕事ではありません。よってメールに多くの時間を割くことは、業務の効率低下を招いているとも考えられます。
たとえばメール機能でよく見られるメーリングリストは、メールによる情報共有を一括で行えるので送信側には便利です。しかし、受信側には重要度の低いメールまで届くことになります。結果的に発生するメールを選別するという作業が、生産性を下げています。
送信側もメーリングリスト全員からの返信が揃わなければ、仕事が滞ることがあります。会議の日程調整メールを送信したところ、重要な人物からスケジュールが合わないとの返信があれば、日程を改めるメールを送ることになります。一度に開催日が決定できず、効率の悪い作業です。
ほかにもミーティングの議事録や企画書の草案などをメールの添付ファイルで共有した場合は、訂正や更新に時間がかかってしまう場合があります。さらに訂正したもの対して、再訂正ということが繰り返されえれば、訂正ミスや、最新版が不明になるなどのケアレスミスのリスクも増えます。受信側も訂正の指摘や最終版の完成を待つことになり、業務が滞る可能性が考えられます。
メールというコミュニケーションツールには、このように効率という面で不向きな分野があるのです。
Googleが業務効率化に成功した仕事術とは
便利であるはずのメールには、逆に業務効率を低下させてしまうという特性があります。しかしグーグルで働く人々はこれらの特性を良く理解しているため、仕事の進め方や業務フローに工夫を凝らしています。
たとえば、メールの一斉送信は時間のロスが発生します。そこでGoogleは、社内コミュニケーションの場合は必要最小限の人が顔を合わせて短いミーティングを行い、スピーディかつ効率的に業務が進めています。そのため、オフィスの共同スペースには一緒に座って対話できるテーブルが多く置かれているのです。
またGoogleは、日程を調整する際にクラウド型カレンダーを使っています。Google CalendarやOffice 365などのクラウド型カレンダーに各自のスケジュールを登録しておけば、関係者各自のスケジュールを共有できるようになるからです。さらにミーティングの開催を告知する際も、クラウド型カレンダーから関係者の日程を事前に把握できるため、先約のない日を選べられるので効率的です。
議事録や企画書は作成者が1人で保存や編集を行うのではなく、クラウド上にファイルを保存します。ミーティングではクラウド上のファイルに参加者が各自で書き込み、その場で仕上げてしまいます。もしミーティング後に変更が必要になった場合でも、クラウドのチャット機能で告知し、関係者各自に期日までに書き込みを行なってもらいます。
これらのようにGoogleでは、メールが不得手な分野では他のコミュニケーションツールを使うことで、業務効率の低下を防いでいます。
「仕事をその場で終わらせる」がフローを変える源に
Googleは「業務の効率化=メールを他のツールに置き換える」とは決して考えていません。効率を高めるには、従業員のマインドが大切だと考えています。そのマインドとは「仕事をその場で終わらせる」というシンプルなものです。
メールを置き換える仕事術も「仕事をその場で終わらせる」という発想からスタートしています。そのことを日頃から念頭に置くことで、マインドが生まれます。前の仕事を引きずった頭で次の業務に取り掛かるのではなく、その場で終わらせ、クリアにした頭で次へ取り組むほうが仕事のパフォーマンスは高くなるというのが、Googleの考える業務効率の考え方なのです。
現在では、情報伝達ツールもチャットやSNSなどメールに替わる便利なツールがいくつもあります。Googleでは、そのマインドから従業員同士のメール連絡で、業務が終わらないことを解消するためにチャットを採用しています。今後、チャットより効率の良い連絡ツールが登場すれば、社内連絡が変化するかもしれません。もしくはオフィスのレイアウトを見直すこともあるでしょう。
Googleの仕事術から多くの企業が参考にすべきポイントがあるとすれば、それは「その場で仕事を終わらせる」というマインドを持つことでしょう。まずは普段の業務を振り返り、「なぜ」終わらないかという目線で、根底から見直してみるのが一案です。
【参考文献】
「世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか」ピョートル・フェリークス・グジバチ/SBクリエイティブ
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