最近は、副業を検討する社員が増えていると聞きます。会社からの給与の他に、あと少し収入を増やすことでゆとりのある生活を手にしたいと考えているのでしょうか。あるいは賞与が減った、減俸になった、経営状態が良くないなど、切羽詰まった理由なのかもしれません。
副業を行うにあたっては、一つの障害があります。それは、多くの会社が就業規定で副業を禁止していること。そのため、副業したくてもできないという人も多いと思います。
しかし近年は、副業を解禁する会社が増えているようです。一見、喜ばしいことのように思えますが、実際はどうなのでしょうか。今回は、製薬大手のロート製薬が、「社外チャレンジワーク」の導入により副業解禁したことを中心に、副業解禁の背景を見ていきます。
なぜロート製薬は副業を解禁したのか
ロート製薬は「社外チャレンジワーク」という制度を導入しました。土・日・祝・終業後であれば、収入を伴った社外の仕事に就業することを会社として認めるという制度です。
つまり、会社公認で本格的な副業が行えるというわけです。この制度が発表された後、インターネット上では多くの人たちが好意的な意見を述べていたことからも、副業のニーズが高いことが分かります。
では、なぜロート製薬は副業を解禁したのでしょうか。ロート製薬によれば、社員の可能性を広げて多様性を高めることが目的であり、社員の多彩な経験が会社としての強みになることを理由にしています。
ただし勤続3年以上の正社員が対象で、まず副業の内容を人事部に申請し、承認される必要がある他、上長との面談も実施されます。手続きが煩雑なため応募者は少ないようですが、実際に副業をしている人が身近に現れれば、自分もやってみようと思う人が増えるかもしれません。
しかし、ロート製薬をはじめとする大手企業の副業解禁は、副業しないと危うい時代になったのだ、という危機感も多くの人たちに与えています。
インターネット上では、ロート製薬ほどの大手でも社員の生活を保障できなくなっているのではないかとか、個人で稼ぐ力を身に付けさせることで、稼ぐ力の無い社員との格差を明確にしようとしているのではないか、あるいは大企業の社員といえども、いつ放り出されるか分からないから稼ぐ力を身に付けておけ、ということではないかといった意見も見られるのです。
副業を解禁することによるメリット
では、副業を解禁するメリットとはどのようなものでしょうか。
会社側のメリットとしては、ロート製薬が掲げたとおり社員の可能性を広げて社内の多様性を高めることが挙げられます。社内だけでは得られない経験や知見、スキル、人脈などを社内に持ち込ませることで、業務改善やビジネスチャンスの拡大を期待できるというものです。
また、副業のために社員が定時帰宅を目指すようになれば、業務が効率化されて残業を減らせるといった効果も期待できるでしょう。さらには、人材が多様化することで、企業の多角化に貢献できる人材の獲得も期待できます。
次に、社員側のメリットを考えてみましょう。最も現実的なメリットは、本業による収入を補填するために、堂々と副業を行えるということがあります。
より切実なメリットとしては、リストラによる解雇や倒産などによって職を失ったとしても、バックアップとしての収入源が確保できるという点も挙げられます。
つまり、副業解禁は、企業側にも社員側にもメリットがあるわけです。
経済政策や社会環境も、副業推奨に向かっている
副業解禁への流れは、経済政策の方向性や社会環境の変化によっても後押しされています。
3月11日に開かれた経済財政諮問会議では、名目GDPを引き上げるためにも、社員の兼業や副業を促進させるべきだという意見が出ました。
これは、能力が高い人材に副業や兼業を認めることで活躍できる場を広げ、中小企業や地域企業の人材不足を補うという考えです。これを促進するために、仕事を掛け持ちしている際の雇用保険の扱いも改善するべきだという意見も出ています。
そして社会環境としては、少子高齢化による労働人口の減少や低賃金層の増加が生じている一方で、ITの発達が副業に有利なインフラとして整っているという現状があります。この二方面からの社会的要請は、副業への参加を後押ししていると言えるでしょう。
副業を禁止する法律はない
前述のとおり、社員の副業参加へのニーズが高まっているにもかかわらず、会社の就業規則に副業禁止が盛り込まれていることが障害となっています。
しかし、そもそも会社が社員の副業を禁止することは、法律上は原則として認められていません。会社が社員を拘束できるのは、あくまで就業時間内のことで、契約外となる就業時間外では何をしても構わないはずなのです。
ところが会社側は、副業の疲労が本業に影響することや競合相手を有利にすること、あるいは機密漏えいや企業のイメージを損なうなどの理由によって、社員の副業を禁止しています。
それでは、この就業規定による副業禁止には拘束力があるのでしょうか。実際に懲戒処分を受けて裁判となった例では、一部例外を除いて懲戒処分は認められていません。むしろ会社側は損害賠償義務すら負わされるリスクがあるのです。
一部例外とは、会社側が明らかに損害を与えたと見なされる副業で、女性社員が連日深夜のキャバレーで働いていた例や、会社と競合する副業を行っていた場合などに限られています。
副業が必須の時代が始まっている
政府は現在、人材の流動性を高めるためとして雇用の規制緩和を進めています。これにより、社員は生涯を1つの会社に保証されることを期待できなくなることを自覚するべきでしょう。いつリストラにより解雇されるか分かりませんし、そもそも会社や所属部門がいつまでも存続する保証はありません。
その意味でも、セーフティーネットとなりうる経験やスキルを、副業によって培っておく必要がある時代だと言えます。
このような社会環境の変化を背景に考えれば、会社の副業解禁への動きは、単純に喜んでばかりもいられません。社員だからといって安定した昇給が期待できないばかりでなく、いつ本業を失うか分からない時代であることの反映であるとも考えられるからです。
企業の副業解禁は朗報であると同時に悲報でもあるのです。
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