2016.02.03 (Wed)

スマートフォン時代の企業サバイバル術(第2回)

“ネオ公私混同”で業務効率を200%アップさせる

posted by 中村 俊之

 個人情報保護法や機密保持契約の徹底など、一昔前に比べると、企業の情報管理は非常に厳しくなっています。その一方でスマートフォンやSNSの普及など、ITによるコミュニケーションも急速に発展。会社支給の機器に比べ、個人持ちの機器のほうが使い勝手がよい、という意見もしばしば見られるようになりました。この差を活かす方法はないでしょうか。

「公私混同」「寝た子を起こすな!」で良いのか?

 取引先からの依頼や、必要あって定めた社内ルールの厳格な運用により、極めて窮屈な働き方をしている会社があります。会社運営にあたってこれは、契約上やセキュリティ上、安全度の高いやり方であるのは確かです。とはいえ、古い考え方や逃げ腰の運用で、自縄自縛になっている面はないでしょうか。

 ある会社で新入社員からこんな提案があったそうです。「会社支給の携帯電話ではなく、自分のスマホのほうが性能がよいので使ってよいか?」「外勤で合間の時間がもったいないので、自分のノートPCを使ってよいか?」「自分の使っているクラウドのサービスで社内の情報やスケジュールを共有してくれないか?」。これをけしからん公私混同の発想と考えるべきでしょうか。

 学生時代から、スマートフォンやクラウドを使ったデータ共有に慣れていた新入社員からすると、業務効率を上げるために当然の提案をしたつもりでしょう。しかし、この会社にとってこれまで考えてもみなかった事例。規程もなければ、クラウドが何なのかもよくわかっていません。具申された上司や管理部門からすると寝耳に水、新システム導入の手間を考えると、寝た子を起こすな、といった面もあったようです。

効率化の観点での“公私逆転”

 一般的には、個人の機器を会社で使うのは就業規則上かなりグレーでしょう。また、クラウド、つまり社外に会社の情報を置くことは機密保持の面で簡単に認めてよい問題でもなさそうです。

 しかし、実際に社内でヒアリングを進めてみると、すでに自分の機器を業務に使っている人や、無料のクラウドサービスを用いたスケジュール共有を進めているチームもあったそうです。そして社内全体での情報共有は、ずっと以前から要望が続いている課題でもありました。

 こういった未解決の課題に対して、個人が自分のやりやすい方法でいつのまにか勝手に対処をはじめていたといえます。業務管理なのに、会社が提供する手法より、個人が何気なく使っている手法のほうが効率がよい、という逆転現象が発生していたのです。そして幹部達の知らない間に、社内の情報システムの私的運用が少しずつ、悪く言えば無軌道に、広がりを見せていました。

二重三重のロスをなくす結果につながる

 もちろん、業務の効率化や情報の共有は、経営陣としてはのどから手が出るほど進めたい事柄です。しかしそういった動きをコントロールできる人材はなかなかいないのも現実。先ほどの会社では、提案した新人も含め、(勝手に)外部のクラウドを使っていた社員数人を集めてプロジェクトチームを結成。新しい情報システム導入のロードマップを作りました。

 中堅、ベテラン層は微妙に ITに対する保守的な意識があって、新サービスの導入には乗り気でない人も多かったようです。しかし、いざロードマップにのって始めてみれば、半年後には顧客や商品のリストから業務フローまでたくさんのデータがクラウドで共有されるようになりました。この共有情報に外勤先からアクセスしたい、という要望も増え、申請された個人の機器を接続できるようにしたり、社内の無線LANの整備も一挙に進行。潜在的な需要が水面下では膨らんでいたのでしょう。あっという間に新しい文化が社内に根付きました。同じリストをあちこちで作っていたことで二重三重のロスが発生していた部分が相当効率化されたそうです。

発想転換で会社の情報流通を変える

 IT専門のスタッフがいないとしても、こういった若い「デジタルネイティブ」世代の発想をとりいれることで、新技術の導入は可能です。きっかけは“自分勝手”だったかもしれませんが、会社のことを長い目で見て提案してくれるスタッフは得がたいもの。いわば、“ネオ公私混同”の発想といえるでしょう。

 社内で実績が少ない新人の意見を取り入れることや、慣れたワークスタイルの変更を強いることなどハードルはあります。また、情報が漏えいしないための措置が優先されるべき場面もあります。しかし、さまざまな事情をいったん横に置いて、フラットにアイデアを検討できる状況は、経営陣の決断でしか作れないもの。そして具体的に動き始めることで、どんな問題があって、どんな専門家や業者の助けを借りればいいかも見えてきます。社内に生まれた小さな芽を大きく育ててはいかがでしょうか。

中村 俊之

中村 俊之(中村社会保険労務パートナーズ
【記事監修】

特定社会保険労務士、中村社会保険労務パートナーズ代表。1954年、東京都生まれ。2005年、社会保険労務士登録、同年に「中村社会保険労務パートナーズ」(文京区本郷)設立、代表として現在にいたる。30年以上にわたり人事・労務一筋に携わり、人事労務相談・研修講師・人事制度設計・書籍の執筆監修等を行っている。

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