2021.6.15 (Tue)

他人には聞けないICTの“いま”(第49回)

建設業の人件費を約4割削減も、進むi-Construction

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 人手不足が叫ばれて久しい建設業界。国土交通省もICT化を後押ししており、多くのイノベーティブなICTソリューションが導入されています。建設業のICT化を推進する国の取り組み「i-Construction」や、注目されているソリューション、事例などを紹介します。

 

3Kは昔の話。ICTで建設業が変わった

 2021年1月に帝国データバンクが発表した「人手不足に対する企業の動向調査」によると、数ある業種のなかで、従業員が不足している業種の第2位が「建設」であることがわかりました。少子高齢化に加え、建設業は「きつい」「汚い」「危険」の、いわゆる「3K」のイメージが根強く、若い担い手がなかなか増えないという事情も影響しています。

 こうした状況を打開するため、2016年に国土交通省が始めたのが、ICTの全面的な活用(ICT土工)などの施策を建設現場に導入することによって建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場をめざす「i-Construction」という取り組みです。建設業のあり方を変えるような技術の土木現場への導入や開発を支援したり、3次元データを活用するための基準を整備したり、「i-Construction推進コンソーシアム」を設置しシーズとニーズのマッチングを行うなどの取り組みを実践しています。ほかに、優良事例を表彰する「i-Construction大賞」を開催しており、幅広く、業界を変える施策を行なっている点が特徴です。

 i-Constructionがスタートして約6年。これらの取り組みが奏功し、最近では土木だけでなくさまざまな建設現場で、ロボットやVR、ARなどの技術が活用されるようになりました。2020年6月には、「2019年度に発注された国交省の直轄工事において、対象になり得る工事のうちの約8割でICT施工が実施された」という成果も報告されています。また、技術の活用によって安全性や生産性が向上し、労働者の心と体に余裕が生まれ、給与や休日が十分に保障されるようになったという例も少なくありません。長い間「3K」と言われ続けてきた建設業界の構造が、テクノロジーによって、いま、大きく変わろうとしているのです。

建設現場にドローン、AI、MRデバイスを総動員

 では、実際にどのようなICT技術が建設現場で使われているのでしょうか。人手不足の解消や労働環境の改善に寄与する事例をピックアップして紹介します。

 福井県大野市にある九頭竜川橋は、2019~2020年にかけて、多くの先端技術を活用しつつ建設されました。例えば、橋桁の建設に使われる移動式の巨大な工事機器「ワーゲン」の位置を、iPad上に表示された3Dモデルと、リアルタイムで転送されてくる座標値を重ねて確認することでミリ単位で微調整したり、ワーゲンのライブ動画をAIで解析し傾きや移動量を監視したり、といった具合です。また、ドローンを使って膨大な数の鉄筋が正しく配筋されているかを全数検査する取り組みも行われました。さらに注目したいのが、ヘッドマウントディスプレイ式のMR[1]デバイス「Microsoft HoloLens」を使った型枠の寸法計測です。型枠とは鉄筋を配置したあと、コンクリートを流し込むために設置する枠組みのこと。これまでは少なくとも2人の作業員が1組になって、巻き尺やスケールを当てつつ寸法を計測していたのですが、今回の工事では、HoloLensを通して見える橋桁の画像をエアタップ(ジェスチャーでの操作)しながら計測する実験的な手法が試されました。こうした取り組みの結果、非常に高い精度で、安全に、人手を抑えつつ一連の工事ができることが証明されたといいます。

[1] Mixed Reality、複合現実。コンピュータ上の仮想の世界と現実の世界を密接に融合させる技術

 JR西日本は2021年4月、国内鉄道業界で初となる、ロボットアームを搭載した鉄道電気工事用車両「ブラケットハンドリング車」を開発したと発表しました。ブラケットとは、電柱に取り付けて使用される架線を支える部材のこと。これまでは作業員が複数人で電柱に登るなどしてブラケットの取替作業をしていましたが、ブラケットハンドリング車の登場によって、人の手による高所作業を経ることなく、安全に取替作業ができるようになりました。ロボットアームの先端には空間を認識する3Dカメラが搭載されており、アームをブラケットまで自動で近づけられるのもポイントです。この技術によって複雑な操作をすることなく簡単かつ効率よく作業ができるようになり、作業員を約4割も削減することに成功しました。

 そのほか、タワークレーンを地上で遠隔操作するシステムや、型枠を使わずにコンクリートで建造物をつくることができる「3Dコンクリートプリンター」も注目を集めています。

VR・AI・ロボットの最新技術が集結する “巨大テクノロジー産業”

 2021年は、「i-Construction」において、既に「土工における無人航空機による空中写真測量を用いた出来形管理の監督・検査手法を定めた要領」「舗装工事における地上型レーザースキャナーを用いた出来形管理の監督・検査手法を定めた要領」をはじめとする多くの要領の整備や改定が進められています。あわせて、引き続き、技術の現場実装や優良事例の周知などの取り組みが進められる予定となっています。

 次から次へと新しいテクノロジーが投入され、そして今後も、国の後押しによって強力にICT化が進められる計画である建設業界は、いまやさまざまな技術が集まる巨大テクノロジー産業です。そう遠くないうちに、現場での作業はロボットアームやコンクリート3Dプリンター、ドローンなどの機械が自律的に行い、機器の操作や測量確認は遠隔地で人が実施する時代がやってくるかもしれません。建設業界は、建設関係者だけでなく、AR、VR、AI、ロボットなど、テクノロジーに関わる技術者や研究者にとっても見逃せない領域となっていくことが予見されます。

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