2020年4月、新型コロナウイルス感染症対策の限定的な措置として、オンライン診療が初診を含め、全面的に解禁となりました。日本政府は現在、オンライン診療を一時的な措置ではなく、恒久化していく検討を進めています。また、オンライン診療が全面解禁されたことでLINEがオンライン診療サービスを開始したり、大手調剤薬局によるオンライン服薬指導・配送サービスが導入されるといった取り組みが進行しています。ここでは、オンライン診療を取り巻く最新の動向を紹介します。
月間利用者8,600万人のLINEがオンライン診療サービスに参入
パソコンやスマートフォン、タブレット端末で予約から診療、支払いまでを完結できるオンライン診療。2020年9月には田村憲久厚生労働大臣が、初診を含めたオンライン診療の恒久化を検討していくとして、実現を見通した問題点の洗い出しを示唆しました。日本政府の動向に伴い、活発化しつつある民間企業の取り組みを見ていきましょう。
LINEとエムスリーの合併会社であるLINEヘルスケアは、2020年12月から首都圏の一部で「LINEドクター」の先行提供を開始。LINEユーザーであれば専用のアプリをインストールする必要なく、医療機関の検索と予約、ビデオ通話での診療、決済ができるようになりました。医師が発行した処方箋は、自宅への郵送か、指定した薬局へFAXのいずれかが選択可能。決済はLINE Payまたはクレジットカードに対応しています。月間利用者8,600万人(2020年10月時点)のLINEがオンライン診療サービスを始めたことで、認知や利用が一気に広がる可能性があります。
調剤薬局大手のココカラファイン、クオールホールディングスなどは、全国計5,000店超でオンライン服薬指導システムの導入を決定しました。導入するのは、医療系のアプリやデータソリューション事業を展開するMICINが開発した「curonお薬サポート」。このシステムでは、4,500個所の医療機関と連携している同社のオンライン診療サービス「curon」ユーザーに加え、電話診療や他社が提供するオンライン診療の受診者にも対応できるのが大きなポイントです。
利用者は服薬指導日時の予約後、オンラインで指導を受ければ、後日調剤された薬が配送されます。決済はクレジットカードに対応。患者側が気軽に利用しやすいこと、予約から決済、薬の配送までをシステム内で完結できることで、薬局側の事務作業負担が軽減されることもメリットです。
社会課題の解決を見込み、与那国島で実証実験開始
コロナ禍以前にも、オンライン診療は社会課題を解決するための手段として利用が期待されていました。近年では医師不足が深刻な離島で、解決法の一つとして実証実験が進んでいます。
島民約1,700人に対して医師が1人しかいない沖縄県与那国町では、2020年12月から沖縄セルラー電話と、クラウド診療支援システム「CLINICS (クリニクス)」を開発・展開するメドレーの協力のもと、全島民を対象にした実証実験をスタートしました。沖縄セルラー電話がオンライン診療の利用や緊急時に使えるタブレット端末を手配し、メドレーが診療に関わる各種サポートを担当することで、「CLINICS」を活用した受診体制・環境を構築しています。
島唯一の医師が新型コロナウイルスに感染した場合、島民に対して必要な医療を提供できなくなるほか、患者にとっても一つしかない医療機関の待合室での待機は、感染リスクを高めます。高齢者がアプリをうまく使えるかなどを検証した上で、同町での本格導入や沖縄県のほかの離島での利用につなげる考えです。
コロナ禍で需要が増加、5割超の男女が「関心ある」
2020年6月にデロイト トーマツ グループが実施したオンライン診療の活用状況に対するウェブ調査では、オンライン診療を「知っている」と答えた人は全体の43.9%に上るものの、「利用したことがある」と答えた人はわずか1.9%にとどまりました。しかし、同年10~11月に行われたMMD研究所による調査では、オンライン診療を「利用していた」「現在利用している」と答えた人は18%。「関心がある」と答えた人は52.6%に上り、コロナ禍でのオンライン診療需要が高まっている様子がうかがえます。
今後は、具体的な検証作業を通した安全性と有効性の確認プロセスと合わせて、ニーズの高まりに応える、より受診しやすいシステムの開発が待たれます。
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