2020.12.23 (Wed)

他人には聞けないICTの“いま”(第42回)

こんなAI/IoTの導入は失敗する!重要なのは顧客視点

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 AI/IoTを導入したもののビジネスの成果につながらないケースがあります。早稲田大学でビジネス変革を研究する稲田修一教授は「失敗と成功にはパターンがある」と話します。

<目次>
「AI/IoTで何かしよう」ではうまくいかない
顧客視点なくしてAI/IoTで成功なし
PDCAだけではデータから価値を見出せない
「価値発見人材」の育成が欠かせない

「AI/IoTで何かしよう」ではうまくいかない

 ビジネスのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するテクノロジーとして、AI(Artificial Intelligence、人工知能)やIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の導入を検討している企業は多いかもしれません。しかし、やみくもにAI/IoTの導入に突き進んでもうまくいくとは限らないようです。

 早稲田大学リサーチイノベーションセンターの稲田修一教授は、AI/IoTを導入しようとしてビジネスの成果に結びつかない企業には、いくつか失敗パターンがあるといいます。

早稲田大学
リサーチイノベーションセンター研究戦略部門教授
稲田修一氏

 その一つは、経営者が現場まかせにしてしまうパターンです。経営者から『AIがスゴいらしい。わが社もAI導入を検討せよ!』という漠然とした指示を受け、部下は自社のビジネス課題を十分に検討することなく、ツールの導入を進めてしまう場合です。

 たとえば、手書きの文字を読み取り、テキストデータとして抽出できるAI-OCRによって「伝票処理を●●●時間短縮!」という同業他社の事例を見てAI-OCRを導入。しかし、自社の課題は上長決裁など承認フローの煩雑さにあり、伝票処理を効率化しても業務全体の効率化にはほとんどつながらなかった、といったケースです。

 「同業であっても企業規模や業務プロセスが異なれば、成功事例がそのまま自社に当てはまるとは限りません。AIやIoTといったツールの導入が目的となってしまうと期待したような成果につながらず、導入プロジェクトがとん挫してしまうのです」(稲田教授)

 「課題の洗い出しが不十分」「解決が難しいことをテーマにしてしまう」というパターンもあるといいます。

 たとえば、製造業でシステム開発部隊がIoTセンサーとAIによる分析で不良品を発見する仕組みを作ろうとしたものの、現場の工場長から「品質管理には困っていない、課題は原価管理が十分にできていないことだ」と反発を受けたり、「不良品のデータサンプルを集めるのが難しく、AIの分析精度がいつまでも上がらない」といったことです。

 「多くの企業ではAI/IoT を本格導入する前にPoC(Proof of Concept、概念実証)を実施しますが、現場のニーズがなく使い道がないまま終わってしまうことは多いです。PoCを長期間続けても成果が出ないことをテーマにしてしまうと、開発部隊が疲弊してしまいプロジェクトが自然消滅するケースもあります」(稲田教授)

顧客視点なくしてAI/IoTで成功なし

 ここまで挙げた失敗パターンに共通するのは、「誰に対して、どんな価値を提供するのか」がプロジェクト開始前に明確になっていないことです。逆に言えば “顧客視点”(社内や関連企業向けであればユーザー視点)で考えることが、AI/IoT導入を成功させるためには重要となります。

 稲田教授は、企業が顧客視点でAI/IoT導入するために有効な思考のフレームワークとして以下を挙げます。
・顧客(ユーザー)は誰か
・顧客(ユーザー)が抱えている課題は何か
・AI/IoTでの課題解決に必要なリソースとその組み合わせは何か
・ビジネス上の創出価値は何か、従来の価値と何が違うのか
・価値を実現する上での課題は何か、他に有力な解決法はないか
・どのようにしてユースケースの実現可能性を検証するのか

 「AI/IoTに限らずですが、ビジネスにおいて価値創出のチャンスがあるのは、『顧客にとっての有用性』、人材や技術、資金などによる『価値の実現可能性』、市場環境や競合、ビジネスモデルなどからの『ビジネスとしての持続可能性』という3つの要件が重なるところです。中でも、『顧客にとっての有用性』を検討のスタート地点とするのが有効だと考えています。

 たとえば、医療において患者は、医者がより高度なサービスを提供してくれるよりも、そもそも病気にならない方がうれしいわけです。そのため昨今の製薬メーカーは、新薬の開発だけではなく、病気にならないための方策をどうサービス化するかを探り始めています。顧客視点というのはこういったイメージです」(稲田教授)

 ビジネスアイデアの「顧客にとっての有用性」を検証するために必要となるのが「プロトタイプの構築」です。そのアイデアが本当に顧客やユーザーの価値創出につながるのかは、プロトタイプをもとに顧客やユーザーの声を聞くことが最も近道だからです。

 「顧客やユーザーの声を聞いて、価値につながらないと判断される場合はアイデアから見直すことが必要です。逆に言えば、顧客を起点にすれば、売れないリスク、使われないリスクを最小化することができます」(稲田教授)

PDCAだけではデータから価値を見出せない

 AI/IoTによるビジネスでの価値創出においては、「データの収集と活用」が不可欠です。そのためのメソッドとして、稲田教授が示すのが「OODA(ウーダ)」です。

 OODAとはアメリカ軍隊のノウハウから生まれたビジネスメソッドで、
・Observe:データによって現状を可視化(観察)
・Orient:データから課題を発見(状況判断)
・Decide:改善計画を立てる(意思決定)
・Act:計画を実行する(実行)
の頭文字をとったものです。

 計画に重きを置くPDCA(Plan、Do、Check、Action)と異なり、状況の変化に素早く対応するため、観察と判断を重視していることが特徴。OODAのプロセスを繰り返すことで、刻々と変化する市場や顧客ニーズの本質的な課題、提供すべき価値を発見します。

 「AI/IoTでのデータ活用にOODAの考え方を取り入れることで、イノベーションが誘発されることがわかってきました。従来から用いられてきたPDCAに加え、このOODAのループが回る仕組みを構築することが重要です」(稲田教授)

提供:稲田教授

 実際にOODAのループを回すことで新たなビジネスチャンスを発見し、「製品販売」から「サービス提供」へというビジネスモデル変革を進化させた企業があります。稲田教授は、その実例として、栗田工業の名前を挙げました。

 栗田工業は、半導体製造などに使われる、不純物を極限まで減らした超純水や純水を作る装置を製造・販売しています。これらの装置の運転や管理には高度な専門スキルと経験が必要ですが、多くの顧客企業ではそういった人材が不足しており、育成も困難でした。

 そこで栗田工業は、顧客企業の敷地内に純水製造装置の運転データを収集するIoT機器を設置。日常の監視からメンテナンスまでをトータルに請け負うサービスを考案しました。

 ところがこのサービスは、意外な形でビジネス改善に役立ちます。

 栗田工業は、サービスのためにIoTから収集したデータの分析を行う中で、装置の性能が急激に低下するケースがあることに気付きました。そこで、装置の性能低下をもたらす原因を究明。解決策を発見したことで、高価な水処理機能材の交換時期を延ばせるようになったのです。その結果、装置のランニングコストの低減につながり、それが同社の収益性向上に貢献したのです。

 これはデータを「観察」「判断」することによって「新たな価値」を発見するOODAループを回したケースです。

 「栗田工業はOODAループを回すことで、データ活用の価値を拡大しました。その結果、顧客にとっては安定的に良好な品質の超純水や純水が提供されるので、『サービス提供』の価値が高まったのです。現在同社では、データを顧客と共有し、エビデンスに基づいて各種計測技術を開発。水質や水処理装置などのモニタリングを高度化し、運用の効率化や予防保全につなげることで、さらなる顧客満足度の向上を図っています」(稲田教授)

「価値発見人材」の育成が欠かせない

 栗田工業の例から学べることは、「顧客課題を自社課題として受け止め、解決策を生み出した」ことです。稲田教授は、AIやIoTでこうした価値を創出するには経営陣の主導が不可欠であると話します。

 「AIやIoTによるデータ活用の進展によって、今、社会は大きな変革を遂げようとしています。経営陣はそういった波に適応できるよう、AI/IoTという新しいツールを使いこなし自社のビジネスを再定義しなくてはいけません。そのためには収集したデータから価値を発見する『価値発見人材』の育成、登用が不可欠となります」(稲田教授)

 稲田教授は、「価値発見人材」の育成、登用がうまくいっている企業の共通点は、ITを理解している若い人材を積極的に採用し、プロジェクトのリーダーに抜擢。現場の業務をよく理解しているベテランメンバーと協力できる環境を作っていることだといいます。

 「最初にお話ししたようにAIやIoTのプロジェクトは『失敗がつきもの』です。しかし、失敗によって得られたデータやエビデンスを別のアイデアに活かすことで、当初は想定もしていなかった成功が見出せるケースがあります。

 デジタルテクノロジーを活用して、ビジネスを『製品販売からサービス提供』『人手作業から省力化・自動化』『点検・修理から予防保守』『部分最適から全体最適』などへと再定義、変革していく過程では、既存ビジネスと利益相反することが往々にしてあります。そのときは経営陣が主導して、挑戦する人を組織内の抵抗勢力から断固として守る必要があります」

 「データに習熟した人材」や「アイデアを見出す人材」が社内に増えていくことで、現場で起きていることへの気付きや理解が促進され、新たなアイデアの発見や、迅速に意志決定できる組織になっていくと、稲田教授は言います。

 AI/IoT導入を成功させるには「顧客視点」「OODA」「人材登用」が秘訣といえそうです。

<インタビュイープロフィール>
稲田 修一(いなだ しゅういち)
早稲田大学リサーチイノベーションセンター研究戦略部門教授。九州大学大学院修士(情報工学専攻)、コロラド大学ボールダー校大学院修士(経済学専攻)。1979年郵政省入省、ICT政策立案や技術開発業務に従事。大臣官房審議官などを歴任し2012年退官。東京大学先端科学技術研究センター特任教授などを経て2019年より現職。
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