新しい顧客体験を実現するマーケティング手法「OMO」が注目を集めています。OMO(Online merges with Offline)とは、 オンラインとオフラインの融合を意味する言葉です。アプリやECサイトといったオンラインと、リアル店舗などオフラインの垣根を取り払う考え方で、相互のデータなどを活かしつつ新しい購買体験を創出することを目的としています。なぜいまOMOが注目されているのか、その背景や現状、具体的な事例などについて紹介します。
オフラインとオンラインの垣根を取り払い、新しい顧客体験をつくる
OMOはO2O(Online to Offline)を進化させた考え方で、2017年頃にGoogleチャイナの元CEO李開復(リ・カイフ)氏によって提唱されました。
O2Oは、その名の通り、インターネット上(オンライン)からリアル店舗(オフライン)へ、またはリアル店舗からインターネット上へ顧客を誘導するような施策を示す考え方です。オンラインとオフラインをあくまで別物ととらえ、一方からもう一方のチャネルへと送客するような仕組みを指しています。
一方のOMOは、前述の通りオフラインとオンラインの垣根を取り払い、データやチャネルを相互に利用しながらサービス全体の質を高めていく施策のことを指しています。「どこが入口でどこが出口か」といったことは特に規定せずに、自社サイト、ECサイト、アプリ、SNS、サイネージ、リアル店舗などのあらゆる顧客接点を融合させ、新しい顧客体験を創出しようという考え方なのです。
新型コロナウィルスの影響によって消費者の購買行動がオンラインにシフトしつつある現在、OMOこそが、時代に即したマーケティング手法であると注目を集めています。中国など取り組みが先行している国では既に当たり前の概念となっており、今後日本でもますます広がっていく可能性があります。
LINEで実現、既存プラットフォームを活用したOMO事例
現在、国内で注目を集めているのが、LINEを活用したOMO施策です。LINEには、ウェブアプリやネイティブアプリに組み込むことでLINEと連携した会員認証ができる「LINE Login」や、特定のエリアにいるユーザーにメッセージを送ることができる「LINE Beacon」など、OMO施策に適した機能が複数盛り込まれています。これを利用してOMOに着手する企業も多く、さまざまな事例が登場しています。
例えば、株式会社サントリーは、LINE上でコーヒーの味をカスタマイズし、ラベルを作成し決済して、選択した時間に店舗に行きロッカーから取り出すというコーヒーショップ「TOUCH-AND-GO-COFFEE」を開店しました。この仕組みを通せば、LINEのユーザーIDに紐づいたすべての購買関連データが得られ、商品やサービスの開発、よりよい顧客体験の創出につなげることが可能です。
他にも、店舗スタッフ100人に接客用のスマートフォンを支給して店員と顧客が直接つながる「LINE接客」を実施し、店員ひとり当たりの売上を1.3倍に押し上げた株式会社コメ兵や、すしの注文に加えて、好みのすしを集めたオリジナル桶の作成ができるサービスを展開し、友だち登録数300万人を記録した「銀のさら」など、LINEを活用したOMOサービスの成功事例が出てきています。
LINEは、コストを抑えつつ、スピーディーにオンラインとオフラインを融合させることができるプラットフォームです。まずはここからスタートし、徐々に対応するツールやサービスを拡大させていくのが、有効な手段であると言えそうです。
今後はOMOが当たり前になる?
他に、自社で開発したアプリやECサイトを軸にOMO施策を進めている企業も存在します。
家具販売大手の株式会社ニトリは、自社のショッピングアプリに「おうちでニトリ」「お店でニトリ」というふたつのタグを配置して、自宅でも店舗でもアプリを通して買い物が楽しめる仕組みを開発しました。例えば、「おうちでニトリ」で探した商品が、リアル店舗に行った際どこにあるかアプリに表示されたり、「お店でニトリ」のバーコード読み取り機能で家具のバーコードを読み込むとアプリ上で配送手続きが完結するようになっています。
自社開発のアプリやECサイトを軸にした事例はまだそれほど多くはありませんが、今後日本でも、OMO先進国の中国のように、企業独自のOMOシステムが当たり前に機能する時代がやってくることでしょう。
少子高齢化、DX、With/Afterコロナなど、さまざまな観点からもOMOという観点は無視できません。小売業の企業にとって避けては通れない、“生き残りのためのカギ”になると見込まれています。
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