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2016.02.01 (Mon)

ビジネスマガジン(第12回)

研修はこうして作られる

posted by 須田 俊江

人材育成は、会社経営の根幹を成す重要な取り組みです。多くの企業では、上司が現場で部下を指導する方法を中心に育成しています。実際に経験しながら仕事を習得する方法は、現在の会社の仕事を学ぶためには最適な方法です。しかし社内教育では社会の変化をとらえた新しい知識、技能や、体系的な方法を身に付けることはできません。また社員は置かれた階層毎に適切な意識・行動が求められますが、そうした行動変容を促すきっかけを提供することも必要です。仕事の現場を離れ、その分野の専門家のもとで学ぶ「研修」と組み合わせて、人材育成を考えるとよいでしょう。

社員は研修参加の目的を理解していますか

「研修」とは、集合型の教育のことです。会社の課題や実態に沿った内容を求めるならば、「社内研修」を実施します。しかし一部の企業では、研修計画を立て、講師を招聘して実施するだけの費用を捻出するのは困難です。研修に参加する社員の人件費も無視できません。そこで市町村や地元の商工会議所や商工会、取引のある金融機関、業界団体等の支援機関が主催する各種研修プログラムに社員を参加させる「社外研修」を積極的に活用したいものです。

筆者も依頼があれば経営コンサルタントとして研修講師を引き受けることがありますが、その折、真剣に研修に参加されている受講者の中に、他人事のようにその場におられる受講者の方も見受けられます。社長や上司に「社内研修するので参加するように」「役に立ちそうな社外研修があるから行って来い」と言われて参加した社員の方です。講師は、研修に求められた目的、つまり研修の主役である「受講者」の行動変容を達成しなければなりませんが、受講者が何のためにここにいるかを認識していなければ、どんな言葉がけをしても成果につながることはありません。講師は受講者の「学び」と「気づき」の支援役でしかないのです。

一方、研修に自ら参加される経営者層、担当部署の責任者は、目的をはっきり自覚して参加されているので、講義においても、自ら頭と手を使うワークにおいても、自分の仕事と関連させて理解し、アウトプットされます。研修効果は非常に高いものとなり、後日メール等で質問、問合せをいただくこともあります。

「研修」成果を得るためには、研修に参加する社員に、企業としての期待を理解させておくことが何より重要です。

研修は企業に新風を呼び込む

社員を研修に参加させることで、会社を革新させている企業事例をご紹介します。

A社は社員15名の美容室です。日々の技術の修練は、技術者である経営者が自ら指導していますが、しばしば取引先メーカーが主催する技術や接客向上等の社外研修に社員を参加させて、常に業界の動向をキャッチアップしています。人材が潤沢にいるわけではないので、研修に社員が参加することは店舗のシフトに影響するので難しいものですが、A社では社外研修を年間計画に組み込むことで、それを可能にしています。

研修に参加して刺激を受けた社員は、主に朝礼の時間を使って、学んできたことを報告します。教えることで知識・技能が定着して行動できるようになりますが、その報告を受けた他の社員もまた新しい刺激を受けて、美容室として今後どうしたらよいか、という議論につながるそうです。社員が研修で学んできたことを全員で共有することで、店舗を革新させているのです。

研修策定の根幹にあるのは研修成果の獲得

研修はどのように企画され、実施されるのでしょうか。それを知っておくことで、社員に研修の目的を適切に説明し、理解させることができるかもしれません。「社内研修」を例に講師が研修目的を設定する一般的なプロセスをご紹介します。なお複数の企業から受講者が集まる「社外研修」においても、「企業」を「支援機関等」に置き換えていただければ、基本プロセスは同じです。

1.企業の概要を把握する

公開されているホームページ等から、企業情報や企業をめぐる社会状況などを把握します。経営者の経営に対する考え方も理解して、クライアントである企業をよく知ることです。

2.研修企画の背景を知る

企業に内在する問題、研修実施の背景、研修に対する企業の期待などを把握して、何のための研修であるかを理解します。

3.研修目的の本質を探る

研修には、必ず実施する目的があります。講師は企業から研修目的を提示されますが、実は担当者も目的を熟慮できていない場合があります。人事部担当者の視点だけでなく、経営戦略、現場課題の視点から眺めるなどして、研修目的の本質を探ります。

4.受講者を知る

人事担当者や関係者ヒアリングなどで受講者の仕事の内容、階層、仕事に対する問題意識、研修内容に対する現在の理解度、期待感などを把握します。企業側の受講者への期待の把握も行います。

5.研修に対する企業の期待を把握する

企業が期待している「研修のねらい」(何をどの程度、どのように指導するか、その結果どういう効果が得られるか)を担当者とよく話し合います。これにもとづき研修企画書を作成します。

6.研修企画書の作成

企画書は(1)実施背景(解決したい課題の明確化)、(2)目的・ねらい、(3)内容、(4)受講者が得られるもの、(5)特徴・他との違い、(6)タイムスケジュール、その他で構成されます。各項目が目的を達成するために一貫性を持っていることがポイントです。

7.実施打ち合わせ

企画書に記載された「目的・ねらい」について企業の合意を得ます。その他事項についても企業と詳細を詰め、実施内容に無理がないかを検討し、調整します。内容を盛り込みすぎないように気をつけます。

8.研修プログラムの作成

内容を整理し、体系的に展開するように研修シナリオを策定します。教材を作成しますが、テキストは研修後も使えるように工夫します。指定期日までに原稿、必要資材を納品して、研修当日を迎えます。

このように研修講師は、研修実施にあたり単に企業や支援機関等の要望を聞き入れるだけではなく、研修に対する真の期待を読み取り、受講者を含めた企業や地域の現状を把握してから、研修内容を組み立てます。研修は受講者の行動変容につながらなければ、成果を得たとは言えませんが、それは研修を実施する企業や支援機関等の協力があってこそ実現するものです。企業は、受講者である社員に対して研修企画書や、支援機関等による研修参加者募集チラシにある「研修の目的・ねらい」を説明し、受講者に対する会社の期待を意識させるとよいでしょう。また、研修から戻ったら、A4用紙1枚でもよいのでレポートの報告を受け、それに対して上司がコメントされることをお薦めします。

やりっぱなしにしないことが、受講者自身の研修への期待を高めることにつながります。

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須田 俊江

須田 俊江

中小企業診断士。情報処理技術者。中小企業のモノづくりから出口戦略まで、マーケティングを見据え一貫したご支援を得意とする。現場に密着し、経営者の想いを具現化することを信条とする。経営革新支援、企業再生支援実績多数。

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