2016.2.1 (Mon)

ビジネスマガジン(第8回)

中小企業はニッチにこそ活路がある~自社の強みが活かせる分野に集中する

posted by 斉藤 研一朗

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今回から3回にわたり取り上げるテーマは「マーケティング」です。
マーケティングで重視される言葉のひとつに「選択と集中」という言葉があります。2000年代に入ってから流行しましたが、経営を語る中ですっかり定番語になりました。 今回は、特に経営資源の限られる中小企業が考えるべき「集中」する戦略についてお伝えしていきます。

1.マーケティング志向の確立にいたるまで

まずはマーケティングという言葉が重要になってきた、その経緯について簡単にご説明していきます。

モノが足りなかったずっと昔、作れば売れたという時代がありました。この状況を生産志向と言います。この時代では、たとえばA社による自動車大量生産方式に見られるように、いかに多く作れるかという能力の確立が重視されました。

次第にモノが充足してくると、他社より良い製品であるかどうかが売れ行きを左右するようになります。この状況を製品志向と言います。他社に抜きんでようとして開発・改良が進み、品質は向上・価格は低下・その結果として市場は広がっていきます。

この状況がさらに進むと、製品そのものによる差別化は各社横並びで難しくなり、たとえ同質の製品であっても他社より多く売り込むことを目指す活動が重視されるようになります。これを販売志向と言います。「良い製品だから売れるはずだ」といった考えが、ややもすると待ちの商売になってしまうのに対し、努力をして売り込む姿勢への転換です。この時代は、営業活動や宣伝活動で他社に対して優位に立つことが重視されます。

そして今日に至り、まずは顧客のニーズは何なのかを掴み、そのニーズに的確に応える製品やサービスを提供することが重視されるようになりました。このため調査や分析といった準備活動が重要になり結果のモノサシとして顧客が満足したかどうかが測られます。これを顧客志向、別名マーケティング志向と言います。こうすることで、やみくもな売り込み努力ではなく、顧客に喜んでもらいながら他社より効率的に売ることを目指します。

2.市場細分化と集中マーケティング

このようにして確立されたマーケティング志向に基づき、実現するための手順や方法の研究が進みました。その中で顧客(市場)のニーズを分析する手法が市場細分化(セグメンテーション)です。

例えば自動車市場を考えてみましょう。顧客の1人1人にニーズを尋ねると、さまざまなニーズが出てくると思われます。家族揃って乗りたい、1人で乗りたい、買い物に使いたい、趣味・娯楽の遠出に使いたい、商品配達に使いたい、高級品を所有する満足感が欲しい、価格が安いものが欲しい、燃費が良いものが欲しい等さまざまです。1人が複数のニーズの組合せを持っていることもあるでしょう。

このような多様なニーズがある中で、同じようなニーズを持った顧客層にグループ化することで、市場全体を、ある規模を持ったいくつかのグループに分けて捉えることが可能になります。これが市場細分化です。このように細分化する理由は明白です。ニーズに対して最適な自動車を企画・提供したいからです。

もし市場全体を分けないまま勝負するとしたらどうでしょうか。つまり全ての人が高いレベルで満足できるような1種類の自動車を開発・提供するということです。このようなやり方を「非差別化マーケティング」と呼びますが、そのような自動車の開発は大変難しそうです。先に挙げた例で言えば、市場の黎明期に1車種を大量生産することで安価な自動車を実現し大成功したA社ですが、自動車の普及に伴い多様化していくニーズを1車種では満たせなくなり、多数の車種を揃えたB社に逆転されました。

これに対し市場細分化を活用する場合、細分化してできたグループ(セグメント)を選択し(標的市場の選択。ターゲティングという)、そのセグメントのニーズに対し最適な製品・サービスを企画・提供します。その標的市場の選択には大きく「差別化マーケティング」と「集中マーケティング」の2つのやり方があります。

(1)「差別化マーケティング」

複数のセグメントに対し、それぞれのセグメントに適した異なる(差別化された)製品・サービスを企画・提供する方法です。多くのセグメントから売上を得ることができますが、多くの製品を企画・提供するにはそれだけ多くの経営資源を分散して投じる必要があります。自動車メーカーですら、あらゆるセグメントでトップレベルといった会社は無く、負担の大きさがうかがえます。

(2)「集中マーケティング」

セグメントを限定する方法です。限定することによって経営資源の分散を防ぎ集中させることができます。細分化を進めるほど複数のセグメントを手掛けるライバル企業の経営資源は手薄になり、経営資源を集中させた側にとって有利になっていきます。そしてライバル企業の目が届かないほど細分化を進めたセグメントのことをニッチ(すき間)市場と呼びます。
以下では、そのようなニッチ市場に集中し、かつICTを活用することで自らの強みを活かした事例を見てみます。

3.ICTを活用した集中マーケティングの例

【事例1】 A社は高層オフィスビル街に店舗を構える飲食店で、多少調理時間が掛かるものの本格志向かつテイクアウト可能な品揃えという特長があります。
高層オフィスビルでは非常に多くの人が働いており、決められた昼食時間に一斉に昼食を摂りに行きます。そのため近隣の飲食店は行列となり、食事や休憩時間が圧迫される「昼食難民」が多く見られます。
そこでA社は、顧客がスマホからあらかじめ注文・受け取り時間指定・決済ができるようにしました。こうすることで、顧客は店舗に着いたときスマホの予約画面を見せればできたての商品をすぐ受け取ることができます。店舗もあらかじめ注文を受けることで段取りよく調理を進められる上、レジ支払いが無くなるため大きな作業効率化となります。
まとめると、A社は「時間が欲しいのでテイクアウトするが質にもこだわる昼食難民」というセグメントに集中し、本格志向かつテイクアウト可能という強みを、スマホを用いて活かしたと言えます。

【事例2】 B社はアクセサリー・宝飾のネットショップです。提携工場と直結することにより、オリジナルデザインの商品企画や顧客の個別要望にきめ細かく対応可能という特長があります。
アクセサリー・宝飾は女性が身に付けることが多いですが、婚約指輪や誕生日プレゼントでは購入者の主体は男性となります。アクセサリー・宝飾に土地勘が無く、商品の選択に悩んだり、敷居の高そうな店舗を前にして相談に躊躇する男性も少なくないでしょう。
そこでB社は、悩んでいる男性向けと謳ってお任せパックの商品を用意しました。実体は商品というよりWeb経由で覆面相談可能な仕組みであり、予算と相手の特徴を入力すると、推奨案とその商品画像がメールで届きます。以降やり取りをおこない納得したうえで購入を決めることができます。店舗も顧客に密着することで、リピーター獲得につなげたり、市場に対する理解を深めて商品やサービスの企画に活かすことができます。
まとめると、B社は「悩んでいてアドバイスが欲しいプレゼントをしなければならない男性」というセグメントに集中し、きめ細かい対応が可能という強みを、Web相談で活かしたと言えます。

4.まとめ

以上2つの事例では、顧客のニーズにこだわり、自分の強みが武器となるような市場細分化・ニッチ市場の選択を行っていることが分かります。

経営資源に限りがある中小企業にとっては、持てる資源、特に自分の強みを、勝てる市場において有効活用することが欠かせません。そのために集中マーケティングを志向し、市場細分化・ニッチ市場の選択に意を用いることが理にかなっていると言えるでしょう。

次回は、市場細分化した先にいる顧客に自社を訴求する考え方のヒントを紹介します。

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斉藤 研一朗

斉藤 研一朗

中小企業診断士。長年さまざまな製品の生産管理業務改善を経験。ICTを活用した現場密着の生産・店舗オペレーション改善を得意とする。

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