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2016.02.01 (Mon)

キーマンズボイス(第12回)

株式会社キングジム 代表取締役社長 宮本 彰 氏

 オフィス文具の大定番、「テプラ」や「キングファイル」の生みの親・キングジム。共に市場シェア60%以上を誇る両製品に加え、近年は電子文具(デジタル文具)でも数多くのヒット商品を世に送り出し、日本のオフィスに新たな“常識”を生み出し続けている。

そんな創業86年目を迎えた老舗文具メーカーの創業からあの大ヒット商品の意外な誕生秘話まで、同社の宮本社長に聞いた。

株式会社キングジム 代表取締役社長
宮本彰(みやもと・あきら)


経歴
77年に慶應義塾大学を卒業後、キングジムに入社。営業や経理、工場勤務などを経た後に、84年に常務取締役総合企画室長、86年に専務取締役に就任。
85年に立ち上がった「Eプロジェクト」のプロジェクトリーダーを務め、88年に発売して大ヒット商品となった「テプラ」の開発を取り仕切った。
92年に代表取締役社長に就任し、開発型企業として独創的な商品の開発を推進する。

キングジムのルーツは材木商!?

――はじめに創業から現在に至るまでの経緯について伺ってもよろしいでしょうか?

はい。私共の会社は私の祖父である宮本英太郎が『名鑑堂』という名で昭和二年に創業をしたんですが、実は元々は材木商でした。
そんな材木商を営んでいた祖父があるとき顧客管理のための人名簿や印鑑簿といった今でいうアドレス帳のようなものを作ったところ、それが仲間内で大変評判が良く、遂には材木商を辞めてそっちで商売をしようということになったんです。

――それが創業のきっかけだったと?

はい。そして始めのうちは人名簿と印鑑簿だけを販売していたんですが、しばらくしてノートやファイル・バインダーといった商品も発売したところ予想以上の売れ行きで、長らくファイル・バインダーの専門メーカーとして順調に発展を続けて参りました。
更には1988年に発売した『テプラ』がお陰様で大ヒットを記録し、今ではファイル・バインダーを凌ぐほどの商品となり、その二本柱を主力商品としながら現在は三本目の柱を目指し日々開発を続けているといった現状です。

――ちなみに三本目の柱を目指して開発をしているのはどういった商品なのですか?

色々と試行錯誤はしておりますが、当社として特に電子文具というものに力を入れて開発をしております。

――宮本さんから見て文房具市場を取り巻く現状は如何でしょう?やはり御社のように電子文具の開発といったアナログからデジタルへの変化の波が激しいのでしょうか?

文房具市場全体という視点で見ればそこまで急速にデジタル化が進んでいるとは思いません。 基本的にはとても保守的な市場ですから。
確かに景気の悪さもあって一時期は(市場全体が)低迷していましたが、最近は色んなメーカーさんから続々と画期的な商品が生まれており、市場自体も段々と活性化してきている印象です。
しかし電子文具の分野で言えば、実は“電子文具を作る文具メーカー”って当社だけと言っても過言ではありません。その他の電子文具と呼ばれるものを作っているのは殆どが大手家電メーカーさんで、それらと比較してもここまで大きく文具のデジタル化に舵をきった会社は多分当社だけだと思います。

そういう意味では当社は少し変わった文具メーカーと言えるかもしれませんね(笑)

大ヒット商品『ポメラ』の意外な誕生秘話とは!?

――そんな御社の電子文具といえばやはりその代表格として『ポメラ』が思い浮かぶのですが、こちらの開発秘話などについてお聞かせいただけますか?

実はあの商品ってボツになる寸前だったんですよ(笑)
だって今の時代にネットもメールも出来ない、ただ文字を打つだけの商品が2万6千円ですから。
私自身正直こんなもの売れないだろうと思っていたし、会議でも大バッシングを受けました。

そんな中一人だけ社外取締役だった大学教授の方が「これこそ待ちに待った商品だ!私はこれが発売されたらいくらでも買う!」と大絶賛したんです。
聞くとその方は職業柄論文の執筆などで文字を打つ事が多く、毎回その為だけに重たいノートパソコンを持ち歩いていたんだけれど、もしこの商品があればその必要なくなるんだと大喜びされていました。
それを聞いて、もしかしたら(その大学教授の方と)同じように文字を打つだけのためにパソコンを持ち歩いている人って意外にいるのかもしれないなぁと思い、周囲の大反対を押し切ってGOサインを出したんです。

――そうしたら大ヒットだった!?

はい。これは私にとっても会社にとっても新鮮な驚きで、それまでの開発に対する考え方を一変させるきっかけにもなりました。
我々はそれまで“ヒット商品=誰もが気に入る商品”という考えのもとで開発を行なってきたんですが、実はみんなが賛成する商品、つまり多数決を重視するのではなく、ほんの一部の人だけが本当に気に入る商品を作ることがヒット商品の誕生やビジネスチャンスにつながるかもしれないということをポメラをきっかけに考えるようになったんです。
私はそれを今では“居心地の良いスキマ商品”と呼んでいます。

“平均的な15位”よりも熱狂的なファンをつかめ!?

――“居心地の良いスキマ商品”についてもう少し詳しくお聞かせ頂けますか?

はい。“居心地の良いスキマ商品”というのは簡単に言うと誰しもがそれなりに欲しいと思う商品ではなく、多くの人には必要のないものなんだけれど必要な人にとってはどうしても欲しいと熱烈に思ってもらえるような商品の事です。
パソコンなどのように大手家電メーカーが多数参入しているカテゴリでは、当社に勝ち目はありません。
市場のボリュームは小さくても、いままで世の中になく、一部の熱狂的な支持が得られる商品、つまりその大学教授の方にとってのポメラのような存在です。
そしてもうひとつ、ポメラのヒットと共に私共が“居心地の良いスキマ商品”を目指すきっかけになったのが、毎年日本経済新聞の発表するその年の『ヒット商品番付』でした。私は毎年それを読んではヒット商品を生み出すヒントを探していたんですが、ある時そこに載っている商品を私自身が殆ど持っていない事に気がついたんです。

はじめのうちは「私がオジさんだから流行に敏感ではないだけだ」と思い若手社員にリサーチをしてみたんですが、結果はやはり同じでした。という事はヒット商品というのは実はそんなに売れていない商品なんじゃないか?今はそういうひと握りの人間しか持っていない商品でもヒット商品になり得るんじゃないか?という事を考えたんです。
そうだとすれば、みんなが賛成する商品を狙うこと自体が間違いであって、それよりもポメラのようにほんの一部だけれど熱狂的に支持してくれるユーザーがいる商品づくりを目指すことがヒット商品を作る一番の近道なんじゃないかと。

これは私の持論なんですが、人間の頭の中には常に“買い物リスト”というものがあってそこにはそれぞれの優先順位あるんです。
例えばお腹が空いていれば食べ物が1位に、喉が渇いてくれば飲み物が1位にといった風にその順位は日々変化をするんですが、結局10位ぐらいまでの商品を買った時点でお金は尽きてしまう。
つまり15位にランクインされている商品はいつまでたっても買ってもらえないんですよ。それだったら誰もがそれなりに良いと思ってくれるもの、“平均的に15位”の商品を目指すよりも一部の人しか良いと思ってくれないけれど、その人にとってはお昼を抜いてでもそれが欲しいと思ってもらえるような商品を生み出すべきだという事をポメラのヒットが気づかせてくれましたね。

――宮本さんが開発者をはじめとする社員の方々を育成していく上で特に気を遣っている点、大事にしている考え方などあればお聞かせ下さい

一番大事なことは“失敗を許す社風”を作ることだと思っています。特に開発分野においては今までに無いもの、今までに無いマーケットをつくることを目指す訳ですから、そんなの簡単なことじゃないに決まっているんですよ。
勿論失敗をするという事は色んな面で損をする事なんですが、例えば10個に1個当たる商品を作れば、その1個は世の中にない商品でありライバルもいない訳ですから、残り9個の損を補っておつりが来るぐらいのヒットになるんです。だから私は常々開発者たちに「9回三振しても良いからホームランを狙え!」という風に言っています。

――逆にこういう事はするなというのはありますか?

モノマネですね。開発者にとっての実績とは売上で表わされるものですから、他社で売れている商品に近いものを作って簡単に売上をあげたいという気持ちはわからないでもないんです。でもそれじゃあキングジムらしくないし私も面白くない。
元々、創業者である祖父が『自称“偉大なる町の発明家”』として世の中に無いものを作ることに生きがいを見出していた人間ですから、そのDNAを引き継ぐ私も、そして会社や社員たちにもその志だけは常に持っていて欲しいと思っています。

ITとキングジムは敵じゃない!?

――近年の社会全体において発展が著しいIT(ICT)について、それらが御社に与えた影響などについてお聞かせ下さい

正直、昔ファイル・バインダーだけを扱っていた時にはITは敵だと思っていました(笑)。
どんどんパソコンが普及しオフィスはペーパーレスになっていく、書類がなくなったらファイルは必要なくなる訳ですから、そういう時代になったらどうしようと真剣に悩んだ時期もありました。
ただ実際にはプリンターやコピー機の品質向上と普及により、オフィスにA4サイズの書類が増えることになり、結果的に前以上にファイルが売れるという逆の現象が起きたんです。まぁ今はまたその頃と状況が少し変わりましたが、当社としてはITの進化に振り回されてきた部分もあるし、逆に助けられてきた部分もあるのかなと思っています。
例えば最近のヒット商品である『ショットノート』などはスマホの普及によって生まれた商品ですし、これからもそういったITの進化を逆に利用することで新たなビジネスを生み出していければと考えております。

――最後に長く不況と呼ばれる時代が続きましたが、そのような中でもがんばってきた他の経営者の方々に宮本社長からひとことメッセージをお願いします

これは私自身の飽きっぽい性格にもよるんですが、とにかく私は新しい事にチャレンジするのが好きなんです。
例えば今までにない新製品を作って発売する時にはいつもすごくワクワクします。すごいヒット商品になる気がするし、ユーザーの皆さんがどう感じてくれるんだろうということも楽しみで仕方がない。まぁ結局は思ったような結果を残せず失敗に終わるケースの方が多いんですが、私はそのワクワクドキドキが楽しみで仕事をしているんだと思っています。
そして新しい事にチャレンジするというのは単に業績をあげるだけではなく、社員たちにも良い影響や刺激を与えることになると思っています。
だから是非他の経営者の皆さんにも失敗を怖がらずにどんどん新しいことにチャレンジする精神を持ち続けてもらいたいと思いますね。

――ありがとうございました

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